上 下
930 / 1,915
ゲンロクの里編

915.別れの選択

しおりを挟む
 屋敷を出たソフィ達はここに来る時に通った森に入り、そしてそのまま、噴水のあった入り口側まで歩いてきていた。

 ここに来るまでにソフィは一つの懸念を抱いていた。それは先程の屋敷に居た『ヒュウガ』の存在である。彼は色々とゲンロクには言えない野望を抱えていた筈だ。そんな野望の一部分をソフィ達に『退魔組』の事をバラされた事で明るみに出てしまう事となった。ヒュウガは今後ゲンロクに、色々と詰められる事になるであろう。

 そんな彼はソフィ達が部屋を出て行く直前、すれ違う時にソフィに対して恐ろしい形相を見せていた。あの様子であれば、ソフィ達を素直に帰すとはとても思えなかったのである。

 ヒュウガ自身は動く事は無いかもしれないが、部屋に居た彼の取り巻きは『ゲンロク』の指示に従うというよりは、ヒュウガの指示に従う者達のように思えた。

 里に居る内は手を出して来る事は無いとは思っていたが、その外側の森まで来れば何かしら襲ってくるか、手を出して来るだろうとソフィは考えていたのである。

 しかしその兆候は見られず、とくに尾行している者の魔力も感じられない。リーネや『レパート』の世界にある魔法『隠幕ハイド・カーテン』のような物を使われているならば、ソフィも気づくことは出来ないが、前を歩いているエイジは、何も反応を示していない。

 彼はこの世界の『妖魔召士ようましょうし』な為に、同じ『妖魔召士ようましょうし』が何か工作じみた結界を使っていた場合、彼ほどの力量を持っている者ならば、何かを気づいていてもおかしくはない。

 だがそんな彼が何もアクションを起こす様子が無い以上、追手をこの場では差し向けてこなかったという事に他ならない。

「ふーむ」

「何だソフィ。奴らが仕掛けてこねぇのが、そんなに不服なのか?」

 悩む素振りを見せながら声を漏らしたソフィに、先程までテアと話をしていたヌーが声を掛けてきた。

「やはりお主も気づいておったか」

「ハッ! 当然だな。あの爺に媚を売っていた人間は、俺達じゃなければ震えあがっても可笑しくねぇ程の殺気を向けてきやがったからな」

「クックック、殺気だけではないぞ。お主は見ておらんかったかも知れぬが、我に対しては親の仇のような顔を向けてきておった」

 ソフィがそう言うと先頭で話を聞いていたエイジが、足を止めてこちらを振り返った。

「ソフィ殿。あやつはあまり侮れぬ男だ。ソフィ達殿であれば確かにあまり問題はないかもしれぬが、油断だけはせぬ方が良いだろう」

「そう言えばゲンロクや、ヒュウガという男もお主を詳しく知っておる様だったが、お主とあやつらは、組織の仲間であったのだったか?」

 エイジは今は『妖魔召士ようましょうし』の組織では無いようだが、元々は彼らと同じ組織で動いていた退魔士と聞いている。様子を見ていて、ある程度ヒュウガとの関係は察する事が出来たが、出来るならば直接本人から何があったかを聞いておきたいと、そう思ったソフィはエイジに話を振ってみる。

「そうだ。元々小生も『妖魔召士ようましょうし』の組織の一員だったのだが『サイヨウ』様がこの世界から離れた直後に、とある事件がきっかけでゲンロクや、ヒュウガと揉めて組織を抜けたのである」

 ソフィはエイジの話に頷きを見せながら、ここに来る前の長屋に訪れてきた『退魔組』の若い衆の言葉を思い出した。

 ――この、はぐれ者がいつまでも偉そうに。

 このような言葉でエイジは若い『退魔組衆』に罵られていた。

 どうやらエイジが組織を抜けた事が起因して、退魔組衆にそう言われているのだろう。

「とある事件というのは、ゲンロクの『術式』の事かな?」

「流石にソフィ達の前であれだけ取り乱しておれば、ばれてしまっていてもおかしくはないか」

 長屋でイバキ達とエイジの会話を聞いていたり、屋敷の中でゲンロクに対するエイジの視線を見ていれば、誰であろうと直ぐに理解できるというものだった。

「まぁ当然それだけではなく、事はもっと深い事情があっての事だとは思うがな」

「うむ。ソフィ殿の言う通りだ。色々とゲンロク達との間で思う事が積み重なった上で、あの妖魔に対する仕打ちを見ているとな……。色々と嫌になった」

 当時の事を思い出したのだろう。後半に連れて少しずつトーンが下がっていった。

「辛い事を思い出させてすまぬ」

「いやいや、構わぬよ。それよりもさっきも申したが、今問題なのはゲンロクよりもヒュウガだ。あやつの野望はゲンロクとはまた違った方向性で大きい。ゲンロクの前でその野望の一部を明るみにされた以上、何かしら手を出して来る確率は非常に高いだろうからな」

 元々同じ組織に居たエイジはソフィ達よりもヒュウガと言う男に詳しいだろう。そのエイジがここまで言うのだから、先程のソフィの考えはどうやら正しかったようだ。この先サカダイに向かう道中も気を付ける心配があるだろう。

「ヌーにテアよ、この世界の人間達はとても強い。これから襲われる可能性が出てきた以上、前にも言った通りここから先は、我一人でエヴィを探しに行こうと思う。お主らとここで別れた方が良さそうだ」

「あぁ? てめぇ、今更何を言っていやがる」

 突然のソフィの言葉に『ヌー』は、眉を寄せた後にかつての時のように不機嫌さ露呈させるのだった。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...