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アサの世界の戦争編
704.魔族と軍の指揮官
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ネスコー元帥が居るところに辿り着いたエイネは辺りを見回す。どうやらネスコー元帥は一人のようで、周りには誰も居なかった。
こちらに向かってくるエイネを見て、ネスコーが軍の配下達を遠ざけたのだろう。
「貴方が指揮官? 先程騒いでいた奴が指揮官だと思っていたけれど、どうやら私の勘違いだったようね」
エイネのいう騒いでいた奴というのは、シェイザー王子の事だろう。
「確かに私がスベイキア軍の指揮官だが、あの方はイーサ龍王のご子息にして『スベイキア』国の王子なのだ」
ネスコーの話を聞いたエイネは、これは面倒な事になりそうだと思うのであった。
目の前の軍の指揮官という男は、まだ話せば理解してくれそうな奴なのだが、遠くで何かまだ騒いでいる『スベイキア』の王子という男は、目を血走らせていてこちらの話を聞く気などなさそうなのである。
出来れば平和的な解決を望みたいと考えるエイネだったが、最悪の場合は『シェイザー』王子とやらを操って、後に始末するしかないだろうと考えるのだった。
『金色の目』での洗脳は一時的なものであって、定期的にかけ続けなければいずれは解けてしまう。
そうなってしまえば、エイネがこの世界を離れた後に意識を取り戻したシェイザー王子が、この大陸の王となるであろう『ヴァルーザ』龍王をみて納得するはずもなく、再び軍を率いてヴァルーザや魔族達を襲う事は、火を見るより明らかである。
シェイザー王子とやらがスベイキアの王子なのだというのであれば『コープパルス・ドラゴン』という『龍種』なのだろう。
エイネにとっては『ブルードラゴン』も『コープパルス・ドラゴン』であろうともあまり関係がない程の力の差だったが、この世界では大きな違いだろう。
力あるシェイザー王子を野放しにすれば、いずれミデェール達を危険に晒してしまう事になる。
今のエイネが求める事は、信頼の置ける龍族の王に魔族達の保護を頼む事である。
その願いを妨げる可能性があるのならば、その目を摘んでしまうのが最優先事項となる。
「ねぇ、貴方は何処まで、私の事を聞いているかしら?」
エイネがネスコー元帥に尋ねると、直ぐに答えが返ってきた。
「私がガウル龍王から聞いたのは、イルベキアのヴァルーザ龍王が力ある魔族と手を組み、我が国の王イーサ様の命を奪い、国を乗っ取ろうとした……と」
「ああ、成程。それで貴方たちは、イルベキアを襲ったってわけね」
ようやく合点がいったと言う表情を見せながら、エイネはネスコー元帥に頷きを見せた。
「この話を持ち掛けてきたガウル龍王の話を私は信じられなかったが、王子は全面的に信用なされたようで、私では戦争を止められなかったのだ……」
「まぁその『ガウル』って龍族のいう言葉の全てが正しいワケでは無いけれど、大まかに見れば間違ってもないかもね」
魔族エイネがそんな事を言ってきた為、ネスコー元帥は眉を寄せてエイネを睨むのだった。
「どういう事か説明をしてもらえるか?」
「どうやら説明する時間は無さそうだけど、貴方がアレを止めてくれるならば、ちゃんと全部話すわ」
そう言ってエイネが指さす方向には、こちらに向かってシェイザー王子が、同盟国の軍勢を引き連れて、こちらへ進軍してくるのが見えた。
ネスコー元帥はどうすればいいか悩んだ。もうこのエイネという魔族の力量は理解している。これだけの軍勢でこの魔族に、襲い掛かったとしても勝ち目はない。
国が乗っ取られるどころか下手をすれば、スベイキアが滅んでしまうかもしれない。そうなってしまえば結果的に『イルベキア』の『ヴァルーザ』龍王が、龍族達の王となるだろう。
「貴方の立場では止めるのは難しいでしょうし、もう無理しなくていいわよ? 正直言って、私が貴方たちの国の王を殺したのは本当の事だし、貴方や彼らにとって、私は憎き敵なのは変わらないしね」
――だから、どちらかが滅ぶまで争う事が道理だと、エイネはそうネスコー元帥に説くのであった。
魔族エイネが同胞の魔族を守る為に、一つの種族の王を滅ぼしたのである。
この出来事は曲げようのない真実であり、大切な存在を奪われたスベイキアという国に生きる民達は、その報復に出る事は間違ってはいない。
そしてその出来事に対してエイネは、謝罪するつもりはない。イーサという龍王との交渉は失敗し、あのままでは魔族達はやられていたのだ。もう一度あの瞬間に時が戻ったとしても、再び同じことを繰り返すだろう。
統治や支配を常に考える彼女の崇拝する『大魔王ソフィ』であれば、もう少し違った方法でこの世界の魔族達を救えたかもしれないが、魔族エイネはこの方法でしか救う手立てを考えられなかった。
同胞である魔族という種族を貶される事に我慢ならない『エイネ』の根底にある、真情というモノの琴線に触れてしまった以上、彼女は何度でも同じことを繰り返すだろう。
この世界の魔族という立場がもう少し違ったモノであれば、イーサ龍王の対応も変わり、また違う未来もあったかもしれない。
しかしこうなった以上、ネスコー元帥が、シェイザー王子の説得に成功しなければ、魔族エイネは『スベイキア』を滅ぼすだろう。
そうしなければ魔族によって国の王を失い辛酸を味わった龍族達が、魔族達を襲うのは自明の理だからである。
いくら戦争によって世界を支配出来たとしても奪われた側の恨みは、決して消える事はない。
この世界に来た当初エイネは世界を支配するつもりはないと言っていた。
世界の支配などに興味が無い彼女であっても、彼女の真情である『同胞の魔族を救いたい』という気持ちから戦争を引き起こしてしまった。
いくら本人に支配する気持ちがないとは言っても目的の為ならば、手を出さなければならない事もある。
――これは『アサ』の世界だけの話ではなく、あらゆる世界でも平等に行われる事象である。
『支配』をしたくて行う者も当然いるが、抱く目的の為に仕方無く『支配』せざるを得ない者もいる。
真の意味で『世界の統治』を行うには、そうした不平等の原因となるものを取り除き、世界に生きる全ての存在が公平かつ平等に生きなければ出来ない。果たしてそんな絵空事の世界を創る事が出来る者など居るだろうか?
どこかで妥協点を決めなければその世界は廻らないであろうし、その世界に生きる者自身が、廻らせないだろう。
世界の支配を出来る程の力ある者が、世界の為に力無き者の為に尽くすという気持ちを持っていなければまず不可能である。
その世界に生きる全ての者が、同じ方向性の平和へと妥協点を生み出し、皆が仕方なしにでも一定の満足感を抱く事で、疑似的な統治は完成するだろう。
―――大魔王『ソフィ』の行う統治『アレルバレル』の世界のように。
エイネが鎖に再び魔力を込め始めたのを確認したネスコー元帥は、一度だけエイネの顔を見た後、すぐ様こちらに向かってくる『シェイザー』王子の説得へ向かうのであった。
こちらに向かってくるエイネを見て、ネスコーが軍の配下達を遠ざけたのだろう。
「貴方が指揮官? 先程騒いでいた奴が指揮官だと思っていたけれど、どうやら私の勘違いだったようね」
エイネのいう騒いでいた奴というのは、シェイザー王子の事だろう。
「確かに私がスベイキア軍の指揮官だが、あの方はイーサ龍王のご子息にして『スベイキア』国の王子なのだ」
ネスコーの話を聞いたエイネは、これは面倒な事になりそうだと思うのであった。
目の前の軍の指揮官という男は、まだ話せば理解してくれそうな奴なのだが、遠くで何かまだ騒いでいる『スベイキア』の王子という男は、目を血走らせていてこちらの話を聞く気などなさそうなのである。
出来れば平和的な解決を望みたいと考えるエイネだったが、最悪の場合は『シェイザー』王子とやらを操って、後に始末するしかないだろうと考えるのだった。
『金色の目』での洗脳は一時的なものであって、定期的にかけ続けなければいずれは解けてしまう。
そうなってしまえば、エイネがこの世界を離れた後に意識を取り戻したシェイザー王子が、この大陸の王となるであろう『ヴァルーザ』龍王をみて納得するはずもなく、再び軍を率いてヴァルーザや魔族達を襲う事は、火を見るより明らかである。
シェイザー王子とやらがスベイキアの王子なのだというのであれば『コープパルス・ドラゴン』という『龍種』なのだろう。
エイネにとっては『ブルードラゴン』も『コープパルス・ドラゴン』であろうともあまり関係がない程の力の差だったが、この世界では大きな違いだろう。
力あるシェイザー王子を野放しにすれば、いずれミデェール達を危険に晒してしまう事になる。
今のエイネが求める事は、信頼の置ける龍族の王に魔族達の保護を頼む事である。
その願いを妨げる可能性があるのならば、その目を摘んでしまうのが最優先事項となる。
「ねぇ、貴方は何処まで、私の事を聞いているかしら?」
エイネがネスコー元帥に尋ねると、直ぐに答えが返ってきた。
「私がガウル龍王から聞いたのは、イルベキアのヴァルーザ龍王が力ある魔族と手を組み、我が国の王イーサ様の命を奪い、国を乗っ取ろうとした……と」
「ああ、成程。それで貴方たちは、イルベキアを襲ったってわけね」
ようやく合点がいったと言う表情を見せながら、エイネはネスコー元帥に頷きを見せた。
「この話を持ち掛けてきたガウル龍王の話を私は信じられなかったが、王子は全面的に信用なされたようで、私では戦争を止められなかったのだ……」
「まぁその『ガウル』って龍族のいう言葉の全てが正しいワケでは無いけれど、大まかに見れば間違ってもないかもね」
魔族エイネがそんな事を言ってきた為、ネスコー元帥は眉を寄せてエイネを睨むのだった。
「どういう事か説明をしてもらえるか?」
「どうやら説明する時間は無さそうだけど、貴方がアレを止めてくれるならば、ちゃんと全部話すわ」
そう言ってエイネが指さす方向には、こちらに向かってシェイザー王子が、同盟国の軍勢を引き連れて、こちらへ進軍してくるのが見えた。
ネスコー元帥はどうすればいいか悩んだ。もうこのエイネという魔族の力量は理解している。これだけの軍勢でこの魔族に、襲い掛かったとしても勝ち目はない。
国が乗っ取られるどころか下手をすれば、スベイキアが滅んでしまうかもしれない。そうなってしまえば結果的に『イルベキア』の『ヴァルーザ』龍王が、龍族達の王となるだろう。
「貴方の立場では止めるのは難しいでしょうし、もう無理しなくていいわよ? 正直言って、私が貴方たちの国の王を殺したのは本当の事だし、貴方や彼らにとって、私は憎き敵なのは変わらないしね」
――だから、どちらかが滅ぶまで争う事が道理だと、エイネはそうネスコー元帥に説くのであった。
魔族エイネが同胞の魔族を守る為に、一つの種族の王を滅ぼしたのである。
この出来事は曲げようのない真実であり、大切な存在を奪われたスベイキアという国に生きる民達は、その報復に出る事は間違ってはいない。
そしてその出来事に対してエイネは、謝罪するつもりはない。イーサという龍王との交渉は失敗し、あのままでは魔族達はやられていたのだ。もう一度あの瞬間に時が戻ったとしても、再び同じことを繰り返すだろう。
統治や支配を常に考える彼女の崇拝する『大魔王ソフィ』であれば、もう少し違った方法でこの世界の魔族達を救えたかもしれないが、魔族エイネはこの方法でしか救う手立てを考えられなかった。
同胞である魔族という種族を貶される事に我慢ならない『エイネ』の根底にある、真情というモノの琴線に触れてしまった以上、彼女は何度でも同じことを繰り返すだろう。
この世界の魔族という立場がもう少し違ったモノであれば、イーサ龍王の対応も変わり、また違う未来もあったかもしれない。
しかしこうなった以上、ネスコー元帥が、シェイザー王子の説得に成功しなければ、魔族エイネは『スベイキア』を滅ぼすだろう。
そうしなければ魔族によって国の王を失い辛酸を味わった龍族達が、魔族達を襲うのは自明の理だからである。
いくら戦争によって世界を支配出来たとしても奪われた側の恨みは、決して消える事はない。
この世界に来た当初エイネは世界を支配するつもりはないと言っていた。
世界の支配などに興味が無い彼女であっても、彼女の真情である『同胞の魔族を救いたい』という気持ちから戦争を引き起こしてしまった。
いくら本人に支配する気持ちがないとは言っても目的の為ならば、手を出さなければならない事もある。
――これは『アサ』の世界だけの話ではなく、あらゆる世界でも平等に行われる事象である。
『支配』をしたくて行う者も当然いるが、抱く目的の為に仕方無く『支配』せざるを得ない者もいる。
真の意味で『世界の統治』を行うには、そうした不平等の原因となるものを取り除き、世界に生きる全ての存在が公平かつ平等に生きなければ出来ない。果たしてそんな絵空事の世界を創る事が出来る者など居るだろうか?
どこかで妥協点を決めなければその世界は廻らないであろうし、その世界に生きる者自身が、廻らせないだろう。
世界の支配を出来る程の力ある者が、世界の為に力無き者の為に尽くすという気持ちを持っていなければまず不可能である。
その世界に生きる全ての者が、同じ方向性の平和へと妥協点を生み出し、皆が仕方なしにでも一定の満足感を抱く事で、疑似的な統治は完成するだろう。
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