357 / 1,906
リラリオの魔王編
348.エリスの気持ちとセレスの気持ち
しおりを挟む
龍族に滅ぼされた『レイズ』魔国の領内では、魔人ラクスがレイズで、唯一の生き残りであった少女を救出し、彼の信頼する魔族レアの元へ向かっていた。
龍の一体を倒した後にラクスがラルグ魔国へ戻ろうとすると、自分も連れて行って欲しいと少女に頼まれたからである。
いつ他の龍達が戻ってくるか分からない以上、少女をこのまま放置しておくわけにもいかず、ラクスは仕方無く一緒に連れていく事にしたのである。
「それにしてもお前、よく無事だったな……」
少女はラクスの背中におぶさりながら口を開く。
「お母さまの親衛隊が、城の隠し部屋に私を匿ってくれていたの」
どうやら龍族達が攻めてきたときにエリス女王が指示したのだろう。
エリス女王程の強さを持っていても、やはり龍族が本気で攻めてきた場合は、勝ち目はないと悟ったのだろうか。ラクスは先程戦った龍のことをを思い出す。
多少なりともレアに鍛え抜かれて、今では間違いなく魔人族の中では『幹部級』の強さを持つに至ったラクスでさえ、数千匹はいた龍の一体とほぼ互角だったのだ。
そんな龍達が一斉に攻めこんできたのであれば、今の魔族達ではどうしようもないだろう。
「お母さま……」
ラクスの背中に顔を埋めながら、しくしくと少女は泣き始める。
「なぁ、お前の名前何て言うんだ?」
そんな少女に走りながらラクスは名を尋ねる。
「せれす……」
数秒の間、何かを考えるように俯いていたが、やがて自分の名前を口にするセレス王女だった。
「セレスか……。お前がさっき龍達が攻めてきたのは、レアの所為だと言ったな?」
ラクスの言葉を背中で聞くセレスは、怒られると思ったのか小刻みに震える。
――だが。
「お前の言葉は間違ってねぇよ。俺達魔人族や精霊族を滅ぼしたレアは、龍族に世界の敵と判断されて攻められたんだからな」
その言葉にセレスは顔を上げる。
「確かにレアはあんな性格だし、無茶苦茶な事を地でやるような奴だけど。仲間の為に怒ったり、魔族っていう種族を今の地位から掬い上げようと、頑張ってる奴なんだよ」
ラクスが何を言いたいのか分からないセレスだが、何かラクスの言葉には、強い意志のようなものが感じられた。
「そんなレアをお前のかあちゃんは必死に支えていたんだよ。少しでも強くなって、必死にレアの為にってな」
「俺もお前と同じようにここに連れてこられた時はレアを恨んでいたんだが、今はエリス女王と同じように俺もレアの手助けをしてやろうって、そう思えるようになったんだ」
ラクスが喋る言葉を黙って聞くセレス。おぶさりながらラクスの言葉の意味を少しずつ理解しようと噛み砕いていくのだった。
「今はまだ俺の言ってる意味が分からないだろうし、レアを憎むのは仕方ないだろうが、レアもエリス女王も同じ志を持って動いていたんだ。魔族の為にってな」
ラクスは空を仰ぎ見ながら、レアが決意を示していた時の表情を思い出す。
「だから、今だけはもう少しレアを信じてやってくれないか?」
セレスはラクスの言葉を背中で聞きながら、どうして自分の種族の同胞がレアという魔族に滅ぼされたにも拘らず、ここまであの魔族の為にラクスというこの『魔人』が、そんな事を喋られるのか疑問に思いながら、しかしそれでもセレスは頷くのだった。
「……わかった」
セレスはまだレアという魔族のせいで、母親やみんなが龍族に滅ぼされたという気持ちは持っているが、このラクスという人がいなければ、自分もまた殺されていたのだからこの男の言う事は一応聞いておこうとそう心に決めて、理解を示す言葉を発したのだった。
そうしてラクスがセレスを背負いながら、ラルグへと向かっているのと同時刻――。
ラルグの国境付近でついに龍族達に掴まり、トウジン魔国の王『クーディ』とその配下達は、数千と居る龍達に滅ぼされてしまうのだった。
現在ヴェルマー大陸では、すでにラルグ魔国以外の魔国はほぼ龍族達に壊滅させられていた。
レアが魔族の王となった事で、ヴェルマー大陸に存在する各地の魔国の国力や種族の力は高まってはいたが、この世界の調停者達『龍族』の前では、その力も霞んでしまうのであった。
どの魔国も少人数だけが生かされてはいる。これは偶然ではなく、始祖龍キーリの策略であった。
国として活動出来ない人数を諸国に残すことにより、龍族達の恐ろしさをその国々に生きる民達に理解させて、今後龍族達に反旗を翻させないという意味を持っているのである。
そしてヴェルマー大陸に散らばり、各魔国を滅ぼし終えた龍族達は『ブリューセン』のいる本隊に合流をするために『ラルグ』魔国へと向かうのだった。
そこにまさか始祖龍の側近である『ブリューセン』を滅ぼす程の魔王が待っているとも知らずに。
……
……
……
龍の一体を倒した後にラクスがラルグ魔国へ戻ろうとすると、自分も連れて行って欲しいと少女に頼まれたからである。
いつ他の龍達が戻ってくるか分からない以上、少女をこのまま放置しておくわけにもいかず、ラクスは仕方無く一緒に連れていく事にしたのである。
「それにしてもお前、よく無事だったな……」
少女はラクスの背中におぶさりながら口を開く。
「お母さまの親衛隊が、城の隠し部屋に私を匿ってくれていたの」
どうやら龍族達が攻めてきたときにエリス女王が指示したのだろう。
エリス女王程の強さを持っていても、やはり龍族が本気で攻めてきた場合は、勝ち目はないと悟ったのだろうか。ラクスは先程戦った龍のことをを思い出す。
多少なりともレアに鍛え抜かれて、今では間違いなく魔人族の中では『幹部級』の強さを持つに至ったラクスでさえ、数千匹はいた龍の一体とほぼ互角だったのだ。
そんな龍達が一斉に攻めこんできたのであれば、今の魔族達ではどうしようもないだろう。
「お母さま……」
ラクスの背中に顔を埋めながら、しくしくと少女は泣き始める。
「なぁ、お前の名前何て言うんだ?」
そんな少女に走りながらラクスは名を尋ねる。
「せれす……」
数秒の間、何かを考えるように俯いていたが、やがて自分の名前を口にするセレス王女だった。
「セレスか……。お前がさっき龍達が攻めてきたのは、レアの所為だと言ったな?」
ラクスの言葉を背中で聞くセレスは、怒られると思ったのか小刻みに震える。
――だが。
「お前の言葉は間違ってねぇよ。俺達魔人族や精霊族を滅ぼしたレアは、龍族に世界の敵と判断されて攻められたんだからな」
その言葉にセレスは顔を上げる。
「確かにレアはあんな性格だし、無茶苦茶な事を地でやるような奴だけど。仲間の為に怒ったり、魔族っていう種族を今の地位から掬い上げようと、頑張ってる奴なんだよ」
ラクスが何を言いたいのか分からないセレスだが、何かラクスの言葉には、強い意志のようなものが感じられた。
「そんなレアをお前のかあちゃんは必死に支えていたんだよ。少しでも強くなって、必死にレアの為にってな」
「俺もお前と同じようにここに連れてこられた時はレアを恨んでいたんだが、今はエリス女王と同じように俺もレアの手助けをしてやろうって、そう思えるようになったんだ」
ラクスが喋る言葉を黙って聞くセレス。おぶさりながらラクスの言葉の意味を少しずつ理解しようと噛み砕いていくのだった。
「今はまだ俺の言ってる意味が分からないだろうし、レアを憎むのは仕方ないだろうが、レアもエリス女王も同じ志を持って動いていたんだ。魔族の為にってな」
ラクスは空を仰ぎ見ながら、レアが決意を示していた時の表情を思い出す。
「だから、今だけはもう少しレアを信じてやってくれないか?」
セレスはラクスの言葉を背中で聞きながら、どうして自分の種族の同胞がレアという魔族に滅ぼされたにも拘らず、ここまであの魔族の為にラクスというこの『魔人』が、そんな事を喋られるのか疑問に思いながら、しかしそれでもセレスは頷くのだった。
「……わかった」
セレスはまだレアという魔族のせいで、母親やみんなが龍族に滅ぼされたという気持ちは持っているが、このラクスという人がいなければ、自分もまた殺されていたのだからこの男の言う事は一応聞いておこうとそう心に決めて、理解を示す言葉を発したのだった。
そうしてラクスがセレスを背負いながら、ラルグへと向かっているのと同時刻――。
ラルグの国境付近でついに龍族達に掴まり、トウジン魔国の王『クーディ』とその配下達は、数千と居る龍達に滅ぼされてしまうのだった。
現在ヴェルマー大陸では、すでにラルグ魔国以外の魔国はほぼ龍族達に壊滅させられていた。
レアが魔族の王となった事で、ヴェルマー大陸に存在する各地の魔国の国力や種族の力は高まってはいたが、この世界の調停者達『龍族』の前では、その力も霞んでしまうのであった。
どの魔国も少人数だけが生かされてはいる。これは偶然ではなく、始祖龍キーリの策略であった。
国として活動出来ない人数を諸国に残すことにより、龍族達の恐ろしさをその国々に生きる民達に理解させて、今後龍族達に反旗を翻させないという意味を持っているのである。
そしてヴェルマー大陸に散らばり、各魔国を滅ぼし終えた龍族達は『ブリューセン』のいる本隊に合流をするために『ラルグ』魔国へと向かうのだった。
そこにまさか始祖龍の側近である『ブリューセン』を滅ぼす程の魔王が待っているとも知らずに。
……
……
……
0
お気に入りに追加
421
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる