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リラリオの魔王編

347.魔王レアの放つ神域魔法

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「私の行いを悔いる? 何故悔いる必要があるのかしら」

 彼女が崇拝していると言っても過言ではないフルーフのという言葉は、レアにとっては何よりも優先される。

 例えそれがこの世界の自らの同胞である魔族達を手足のように使い、自らの野望を叶える為に利用したとしても……。

 しかしレアがそこに思考が行き着くと、ちくりと胸の辺りに軽い痛みが走った。そして浮かんでくるのは、レアを慕うエリスや魔族達の嬉しそうな顔であった。

「わたし、どうしたのかしら……。今はそんな事を考えている場合ではないのに」

 レア周りを多くの龍族達が取り囲んでいる。先程まで喋っていた龍族の言葉から考えても、もう戦闘は避けられないだろう。

 この場に居る龍族達は『魔族』が悪いだとか『精霊族』が悪いだとか、そういうことを告げるために襲撃してきたのではないのだ。

 単純に龍族の始祖とやらが魔族を世界の敵と認定したからこそ、龍族達はその命に従い動いているに過ぎないのである。つまりもうレア達魔族か、龍族が勝利を収めるまで戦争は終わらない。

 魔族という種族の全体の平均戦力値で龍族に遥かに劣る以上、レアは迷いに傾倒している場合ではない。そうだというのにここにきてレアは、が生じてしまっていた。

 ――そこに龍族達がレアに襲い掛かってきた。

「!」

 慌ててレアも戦闘態勢をとり、龍族達の攻撃を躱す。青の練度が3.0を越え始めたレアにとって単なる龍族の攻撃など止まって見えるが、これだけ囲まれている以上はそれでも存分には戦えない。

「一気に数を減らすしかないわよねぇ……」

 レアがそう呟く間にも数十体の龍が、レアを倒そうと攻撃を仕掛けてくる。流石にこの世界で最強の種族なだけあって、龍達はしっかりと統率がとれている。

 レアが魔法を生業とする魔族だという事を映像を通して理解していた龍族達は、そのレアに魔法を使わせないようにと連携を上手くとりながら器用に襲い掛かってくる。

 もしレアが大型以上の魔法を使うのに、詠唱を必要とするような魔法使いであれば、連携が完璧な龍族の前に敗れ去っていただろう。

 ――それ程までに龍達は巧くそして強い。

 しかしレアはフルーフの寵愛を一身に受け続けた『魔王』レアである。有象無象の魔族、それにただの魔法使いというわけではなかった――。

「行くわよぉ!」

 三体の龍が鋭利な爪でレアを切り裂こうとした瞬間にレアは動いた。

 まず龍の攻撃を上空へ転移して躱して肘で頭蓋をたたき割った後、再びその龍の前へ転移したレアは、左手の拳で思いっきり龍族のどてっ腹を叩き込む。

 すでに絶命したその龍を盾にしながら、他の龍の攻撃を防ぎ時間を稼ぐ。その稼いだ時間はおよそ2秒程。

 しかし『魔王』レアを相手にその2秒という長い時間は、魔法を使わせるには十分過ぎた。

「滅びろ、我が野望の道を阻む邪魔者め!」

 ――神域魔法、『凶炎エビル・フレイム』。

 襲い掛かってきた龍の亡骸を目晦めくらましに使いながらレアは、自身の最大魔法を放つことに成功する。

 ――対象は数多く居る龍族達の中心。

 襲い掛かっていった同胞の龍の内側が光ったかと思うと次の瞬間、広域範囲に恐ろしいまでのレパートの世界の『ことわり』が刻まれた魔法陣が次々と浮かび上がった。

 そしてその魔法陣が明滅したかと思うと、どす黒い炎が辺り一帯を包み込み、数多くの龍族達はその炎に包まれて炎上。そして骨も残らず燃やし尽くされた。

「やはりこいつは危険だ。今すぐあの魔族から離れろ! 距離をとれぇっ!」

 先程レアと喋っていた龍は、この場にいる同胞にそう告げたのだった。

 慌ててレアを襲おうとしていた龍達は、その声に全力で離れ始める。しかし『魔王』レアを相手にそれは失策であった。

「この『魔王』レアから逃れられるとでも思っているのかしらぁ?」

 ――超越魔法、『終焉の雷エンドライトニング』。
 ――超越魔法、『終焉の炎エンドオブフレイム』。
 ――超越魔法、『万物の爆発ビッグバン』。
 ――超越魔法、『炎帝の爆炎エクスプロージョン』。

 レアの目が『金色』に光ったかと思うと、無詠唱で四つの魔法があらゆる方向へ逃げる龍を対象に放たれた。

 ――その間、僅か1秒に満たない。

 ある龍は左足を飛ばされて、羽を飛ばされて右手を失う。飛行感覚を失わせた龍達は速度が落ちてフラフラしながら逃げ惑う。

 ――その隙を『魔王』レアが逃す筈がない。

「私に挑んできたことを後悔させてあげるわぁっ!」

 『青のオーラ』で押し上げられたレアの魔力が膨れ上がり、これまで以上に大きな魔力を龍族達は感知させられる。そして一瞬の甲高い音が響き渡った後、強引に天候を変えられた空から、一筋の閃光が龍族に降りかかる。

 ――神域魔法、『天雷一閃ルフト・ブリッツ』。

 『終焉の雷エンドライトニング』とも『天空の雷フードル・シエル』とも違う、まさに命を奪う事を目的とされたようなそんな光の一撃が天から降り注ぎ、その雷は多くの龍族の命を奪っていった。

 あれだけ多く空を支配するように数がいた龍達は空から地に伏していき、残された龍族は僅かだった。

「ば……、化け物めぇっ!!」

 この場にいる龍族達の中で一番の戦力値を持つ龍族、始祖龍キーリの側近である『ブリューセン』は、まるで雷を操る神を見るような目で『魔王』レアを視るのであった。

「く……っ、クソッ!! お前達! 散らばりながら火を吐け! 私が直接奴の命をとる!」

 ブリューセンの言葉に従って龍族達は、レアの周りの空を旋回しながら逃げ場を塞ぎつつ動く。そして各々がレアから距離を取った後に、一気にレアに向けて炎を吐くのだった。

 四方八方から龍族達に炎を吐かれたレアは、その場から離れることが出来ずにそのままレアは炎に包まれてしまう。

「よし……! ここで確実に仕留めてやるぞ……っ! 魔族の王!!」

 そういってブリューセンは翼を使いながら、一気にレアに向かって一直線に飛び立っていく。

 そして――。

 炎に包まれて燃えている筈のレアの手が、突然ブリューセンの顔の前に突き出された。

「なっ……!?」

 ――

 ブリューセンは慌ててレアの手から逃れようと体を強引に横に反らす。レアの手から恐ろしい程の魔力が込められたレーザーのような魔法が撃ち出されて、ブリューセンの硬い皮膚に包まれた肩を貫いていった。

「くっ……ぅ!!」

 肩口からヒリヒリと熱を感じながらも魔法を放った直後の硬直状態にあるレアに向けて、左手の鋭利な爪をレアに浴びせるように振り下ろす。

 ブリューセンの爪はレアの頭から胴体までを一直線に切り裂いた……かのように見えたが、切り裂いた実感がブリューセンには感じられず、そしてレアの体がぼやけ始めると何とその場から消えた。

「な、なにが起き……、て、い……、ぅっ……!』

 ブリューセンは、最後まで言葉を続けることが出来なかった。龍の背後にまわったレアの手がブリューセンの顔を貫いていた。

 レアはブリューセンから手を引き抜くと、そのまま返し刀を斜め上から振り下ろしてブリューセンの首を切断する。

 ――ブシュウウウという音と共に、ブリューセンの首から血が噴水のように噴出した。

 死後硬直のせいなのか、首を切断されたブリューセンの体が、ビクンビクンと震えている。

 そのブリューセンから視線を逸らさず、レアは数歩後ろへ下がりそして天に向けて掌を翳す。

 ――神域魔法、『天雷一閃ルフト・ブリッツ』。

 閃光が空から降り注ぎ、首を切断されて絶命している『ブリューセン』をレアは確実に仕留めるのだった。

 レアは指についたブリューセンの血を舐めとりながら、ゆっくりと後ろを振り返る。

 ――残っている龍族を纏めて殺す為に。

「さぁてぇ、貴方たちの指揮官は物言わぬ骸となったけどぉ、あなたたちはどうするぅ?」

 始祖龍キーリに選ばれた一つの世代に十体しか居ない側近の一体『ブリューセン』をあっさりと殺された龍族達は、呆然としながら言葉をしゃべるレアを見る。

 レアは龍族達の反応を見てブリューセンの時とは違い、言葉が通じていないと判断する。そして再びレパートの世界の『魔』を使いながら、言語を龍族にも理解出来るようにする。

「貴方たちが見下していた魔族にこの場で頭を下げて謝罪をするなら、逃げ帰ることを許可してあげてもいいわよぉ? ?」

 そう言ってレアは口角を吊り上げて嗤う。

 しかし龍族から謝罪をするような態度はなく、翼をはためかせながら残っている龍族はレアを攻撃するために近づいてくる。

「生意気に矜持だけは保っているのねぇ?」

 ――神域魔法、『凶炎エビル・フレイム』。

 結局この場に集まった多くの龍族達を相手に、レアは十分な程に余力を残して『二色の併用』すら使わずに全滅させるのだった。
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