上 下
261 / 1,906
九大魔王編

254.根源の玉

しおりを挟む
 ダイス城へと転移して戻ってきたルビリスは、地下牢に幽閉している『九大魔王』である『ディアトロス』の魔力を感知すると顔を歪めた。

「まさか……!」

 慌ててルビリスはダイス城の隠し通路のある場所へ向かうと、粉々にされている壁付近に実験体達が倒れているのを確認する。

 直接倒されたわけではなく、余波に巻き込まれて絶命したのだろう。実験体と呼ばれた存在達の身体には傷がついていなかった。

 しかしこの惨状を見るからに、すでに幽閉していた『ディアトロス』は抜け出されているだろう。

 ダイス城を守るように『大賢者』から命令されていた『ルビリス』は深く溜息を吐いた。

(まさか神聖魔法の結界が施されていた牢から抜け出されるとは……。やはり我々はまだ、この『』を完全に使いこなせているわけではないという事か)

「それにしてもうまく誘い込まれた挙句に、面倒な奴を逃してしまった。更にイザベラ殿もやられたとなると、大賢者様に何と詫びればいいか」

 ルビリスは傀儡のダイス王の居る玉座へ、とぼとぼと歩いていくのだった。

 ……
 ……
 ……

 その頃、魔族の大陸に居るイリーガルの元に『ダイス』王国から無事逃げ遂せた『ブラスト』と『ディアトロス』は合流を果たしていた。

「ディアトロス殿にブラストか、どうやら無事でよかった」

 背に大刀を背負うイリーガルは、ほっとした表情を浮かべながらそう言った。

「いやはやすまぬな。ワシともあろうものが、不意を突かれて捕縛されてしもうたわ」

 地下牢から出た時の八つ当たりでだいぶ冷静さを取り戻したのか、ディアトロスは笑みを浮かべてそう言った。

「おかげで私の配下は殺されてしまったようだ。なんとも傍迷惑な御仁よ」

 溜息を吐くブラストに『ディアトロス』は頭を下げた。

「いやそれは申し訳ない事をしたと思っておるよ。お主の配下はルードだったか? 代替身体だいたいしんたいは用意しておるのだろう? 今度ワシの元へ連れて来るがいい、元の身体に戻るまで面倒を見てやろう」

 そう言ってブラストの肩に手を置くディアトロスだった。

 ルードは『魔王』階級を越えている魔族の為に当然『代替身体だいたいしんたい』を保持している。

 当分は元の身体に戻る事は出来ないが、消滅させられて死んでいるわけではない為に再び別の身体で姿を見せる事が出来るだろう。

「まぁそれはいいとして、これからどうする? ソフィ様はどうやら本当にこの世界に居ないようだが」

 イリーガルがそう言うと、ブラストは再び怒りを滲ませ始める。

「まぁ落ち着けブラストよ。ソフィの奴はどうやら『大賢者』という若造の組織の陰謀に巻き込まれて別の世界へ転移させられたらしいのじゃ。ワシに化けていたモノが言うには、大賢者とやらが仕組んだ計画の全貌は、ソフィの奴を別の世界へ転移させてその間に、残った我々九大魔王をまとめて処理してこの世界を牛耳ろうと考えているようじゃ」

「他の魔王達の魔力が感じられないのは、我々以外は皆やられたか転移させられたという事ですかい?」

 イリーガルがそう言うと、ディアトロスは頷く。

 『多分そういう事じゃろうな。他の者達は知らぬが大賢者という者は決して侮っていい相手ではない。油断を突かれたとはいってもワシを奇怪な魔法で押さえ込んだかと思うと、一気に封印までして見せたのだからな」

 ――『九大魔王』とはいっても、力はそれぞれの魔王で異なる。

 これからの大魔王というべきユファのような九大魔王と、この場にいる古参の『魔力』が成熟しきった大魔王とでは明らかに力の差がある。

 しかしこのディアトロスという大魔王は間違いなく、九大魔王の中でもの強さを持ち、虚を突けたからといって本来であれば簡単に幽閉できる存在ではない。

 イリーガルとブラストは『ディアトロス』の話す言葉を聞いて、この計画を立てた組織を軽視することをやめるのであった。

「全く、面倒な魔法もあったもんだ」

 ブラストは仲間を別世界へ追いやった要因である魔法『概念跳躍アルム・ノーティア』を作ったフルーフに苛立ちを隠しきれなかった。

「ダイス大陸の者達の大半は、もう奴らの組織に乗っ取られている。王自身が傀儡にされているか、既に別の魔物に成り代わられているだろう。もはや存続させる理由がないように思える」

 ブラストの言葉にイリーガルも頷く。ディアトロスだけが、人間の大陸を攻撃する事に反対であった。

 ソフィが居ない間に勝手な事をしたくないと考えるディアトロスだが、確かにこのままであれば、中立の大陸にも組織の者達が手を出しかねない。

 ソフィが居ない間に大賢者とやら達にこの世界を支配される事が、一番避けておかなければならない事なのである。

 どうしたものかとディアトロスが考えていると、ブラストが急に口を開いた。

「そう言えばディアトロス殿? 貴方を助けに向かった時にこんな玉を城で見つけたんですがね、何か知っておられるか?」

 そういってブラストは仕舞い込んでいたを出す。

 ディアトロスはその玉を見て、何かを考え始める。

「それは『ダイス』王国が代々、自分達が指名したに引き継がせてきた『』で間違いない」

 ダイス王国で長年大臣を務めてきたディアトロスは、何度か見た事があるのであった。

「一体、どういうマジックアイテムなんです?」

「そこまでは分からぬな。魔力を込める事で発動するマジックアイテムのようだが、ワシらでさえ使うのを躊躇う程の禍々しさを感じておるし、不明瞭なモノは触らぬ方が良いだろうよ」

 効力までは知らないディアトロスだが、貴重なアイテムだという事だけは知っているようであった。

「ディアトロス殿でも分からないとなると、誰も分からないだろうな」

 イリーガルがそう言うとブラストも頷いた。

「厳重な結界で張られた部屋にあったものだ。何か重要なものだと踏んで持ってきたのだが」

 ブラストが持ってきた根源の玉は三つ。

「実際に魔力込めてみないと分からぬ物だが、あの大賢者が持っていたものだ。気をつけろよブラスト? 本当に何が起こるか分からぬぞ」

「いやいや、もうこれ以上何が起きても驚かんでしょうディアトロス殿。おいブラスト、手元に三つあるんだから俺達で一個ずつ試してみないか?」

 そう言って横からイリーガルが、ブラストから玉を奪って魔力を込め始めるのだった。

「こ、こら! ちょっと待て! お主ら軽率にそのマジックアイテムを使ってはならんと言っているだろう!」

 ディアトロスが制止するが、すでに魔力を込められた『根源の玉』は効力を発揮し始める。イリーガルの手にある根源の玉が砕け散り、辺りを眩い光が包む。

「う、うおおお!?」

 慌ててイリーガル達は目を瞑り手で視界を覆い隠す。

 そして光がおさまった後、ゆっくりとイリーガル達は辺りを見回す。

「ブラストが……、消えた?」

 ディアトロスとイリーガルは同時に言葉を発するのだった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...