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九大魔王編

253.隠し階段

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 ダイス王城の中を探っていたブラストは、結界を施して隠されていた階段を下りていく。階段は長くどうやら三階から地下まで掘られているらしく、非常に縦長な造りのようであった。

 煌びやかな城の中とは違い、階段を下りた先は闇に包まれた通路が続いていた。ブラストはダイス城の見取り図を脳内で浮かべ始める。

「ちょうどこの辺は先程の『結界』が施されていた部屋の下周辺だな」

 ブラストはそう呟くと進めていた歩を止めた。

 長い通路の先に十字路がありその曲がった先から、相当な魔力を持った何者かがこちらに向かって歩いてくるのを感知した為である。

「奇妙な魔力だな、魔族ではなく人間か? しかし魔族のような魔力も感じるが……」

 そして遂に十字路から牢の見回りをしている兵と目があった。

 人間か魔族か分かりずらい魔力を持った生物が、こちらを見て慌てて構える。その様子を観察しながらブラストは目を金色に光らせる。

 城の中の兵を操った時のように『金色の目ゴールド・アイ』を使用するためである。

 キィイインという甲高い音と共に、ブラストの支配の目が兵士を襲う。

「そこで止まれ。お前は人間か?」

 ブラストの言葉に見回りの兵士は口を開く。

「私は人間ではありません。混成実験体アルファです。賢者の階級クラスを受けています」

 その言葉にブラストは眉を寄せる。彼の言葉に素直に従っている事に違和感は覚えた為である。

 ブラストは仕方なく操っている見回りの兵士に『漏出サーチ』をかける事にするのだった。

 【種族:?(混成) 名前:実験体α(賢者) 年齢:1歳
 魔力値:1000万 戦力値:2500万 所属:大賢者の配下】。

「大賢者の配下? 漏出サーチでも種族がよく分からないか……」

(年齢1歳? 情報量が少なすぎて意味が分からないな……)

 ひとまずブラストは、実験体と自身の事を呼んでいたこの兵士アルファを降りてきた階段の前で待機させるのだった。

 ディアトロスと合流するまでは騒ぎを起こすのは、控えた方が良いと考えての行動だった。

「しかしディアトロス殿の魔力は感じるが『念話テレパシー』が通じないというのが気に掛かるな。どうやら『結界』を施されて遮断されているのだろうが、ディアトロス殿は何故その『結界』を壊さない?」

 ブラストがこれから救出に向かおうとしている『ディアトロス』という魔族は、ソフィの片腕として君臨している『九大魔王』の中でも筆頭であり、魔力一つとっても『ブラスト』よりも上の大魔王である。

 そんな彼がたかが人間の張る『結界』を壊せずに居るという事が信じられないが『念話テレパシー』が通じないという事は『結界』を壊せないという事以外に考えられない。

 ブラストは訝し気に眉を寄せながらそう独り言ちて、十字路の先程の兵士が出てきた方へと進むのだった。

 ……
 ……
 ……

 ルード達を葬った後にルビリスはダイス城へ戻ろうとする。

 しかしここで遠く離れた魔族のいる大陸、魔王城の方から恐ろしい戦力値を感じ取る。

 それはどうやら大魔王イザベラと戦っている『九大魔王』であるイリーガルの戦力値であった。

「いやはや流石は九大魔王ですね。大賢者様の言葉ではイザベラ殿と互角と言っていましたが、どうやらこの値ではイザベラ殿では敵わないでしょうね」

 ルビリスの所属する組織の総帥である大賢者は、現在はあの悪名高き大魔王『ヌー』と、で談合を行っている為にこの世界には居ない。

 九大魔王が攻めてくるとすればこのタイミングだと思っていたが、どうやら当たりはイザベラの方で、自分はハズレを引いたのだと感じるルビリスだった。

「ふーむ。私が魔王城の方へ向かっても良いのですが、囮という可能性もありますからね、さてどうしましょうかね」

 イリーガルの戦力値を顧みても彼は臆する事はなく、このまま討伐へ行っても問題はないと考えているようだった。

 しかし彼がここを離れる事で、もう一体この世界に残されている九大魔王が、直接ダイス城へ来るのが狙いだとすればここを離れるわけには行かない。

 ルビリスは迷った末にダイス城へ戻る事にするのだった。

「しかしとやらも大した事はないですね」

 イザベラを見下すような発言をした後、ダイス城へ転移するルビリスだった。

 ……
 ……
 ……

 ダイス城の地下を歩いていたブラストは、ついに地下牢を発見する。そして地下牢の前に先程と同じような魔力を持つ兵士達が、数人牢を守るように立っていた。

 ブラストは三体の兵士に魔瞳『金色の目ゴールド・アイ』を使い、先程の兵士と同じようにここから追い出した後、地下牢の中を覗き込む。

 中には彼がよく知る最古参の九大魔王『ディアトロス』が、手足に枷を付けられて立たされていた。

「ディアトロス殿ともあろう方が、無様な姿ですね」

 クックックと笑いながら、同じ『九大魔王』にしてソフィの一番の側近である『ディアトロス』にブラストが告げるのだった。

 ブラストの言葉を聞いて、今まで全く動かなかった『大魔王』が視線をこちらに向ける。

「ブラストか? どうしてここにいる」

 衰弱しきった様子の老人に見えるが、その目はまだ活きている。

 このディアトロスという化け物をよく知るブラストは、まだまだ大丈夫だと安心するのだった。

「貴方を回収しにきたんですよ『念話テレパシー』が通じないので苦労しましたがね」

 全く苦労している様子に見えないブラストを見て、ディアトロスは笑う。

「クックック、どうやら私に化けている小僧が施した仕掛けじゃろうな。この牢は内側からは全く開ける手立てがなくてな、私でも出るのは諦めていたところだ」

「ほう? ディアトロス殿でも開けられない程の結界か。先程の兵士といい何か我々が預かり知らぬ者達、別世界の者達が入り込んでいるようですな」

 そう言うとブラストは牢の外側から錆びた鉄格子に手をあてる。

 張られていた『結界』がバチバチと音を立てたかと思うと、その効果が手を当てているブラストに衝撃を伝えてくるのであった。

「ふぅむ、確かにこの結界を張った者は、なかなかの魔力を持っているようだ」

 九大魔王の中でもトップクラスの魔力を持つブラストが、敵を褒めたたえるようにそう口にした。

「どうじゃ、開けられそうか?」

 中からブラストを試すように笑みを浮かべて、ディアトロスはそう告げる。

「何も問題はないですな。ですが開けてほしいならば、一言くらいは開けて欲しいと言ったらどうです?」

 ルビリスの張っている結界の効力を受け続けているブラストはにやにやと笑いながら、ディアトロスを見る。

「あ? 調?」

 手足に枷を付けられて何か不思議な魔法でも施されているせいか、動く事も出来ない筈のディアトロスだったが、その言葉を放つディアトロスの目を見てブラストはゾクゾクと震えが走った。

 そして震えながらも嬉しそうにブラストは口を開いた。

「ククク……! 冗談ですよ、本気になさるな『ディアトロス』殿」

 ブラストの目が『金色』になり鉄格子を持つ手に魔力を加える。

「成程。俺の魔瞳に対して内側からの魔力の干渉で強制的に解除を施された。つまり魔族に対しての効力半減及び、効力無効化といったところか?」

「だとしたら内側に居るワシではどうにもならぬという事だな」

 二人にしか分からない程の『魔』の極致の会話が繰り広げられている。

 今この牢に施されている『結界』とやらは、単なる『結界』ではなく『魔族』に対する特効の効力が施されている『神聖魔法』の部類なのだろうと二人はアタリをつけて会話を行っていたのである。

「効力無効化レベルならば我々では壊す事は難しいが……。ディアトロス殿、少し力を入れさせて頂くが、余波を受ける事は勘弁してくださいよ?」

「ああ……。ワシに構わずにやれ」

 ブラストはコクリと頷く。

 そして彼の身体を青と紅の二色のオーラが纏わり、一気に魔力を開放するのだった

 鉄格子を覆っていた結界はパシーンという音と共に解除された。

「どうやら半減程度の効力だったようですな。さぁディアトロス殿、どうぞ外へ……」

 ブラストは結界のなくなった鉄格子をあっさりと開けるのだった。

 牢を覆っていた結界は鉄格子が破壊されたと同時になくなり、次の瞬間には中にいた『ディアトロス』の目が『金色』に輝いたかと思うと額に青筋を浮かべ始めた。

「あの青二才がぁっ!! 調子に乗りおってぇ!!」

 自分に化けて好き勝手に喋っていた『偽大臣ルビリス』に対して、ディアトロスは怒りを迸らせる。

「おっと!」

 ブラストは即座に牢から距離を取ったかと思うと、全力疾走をしながら先程の十字路まで一気に離れる。

 ディアトロスが力を開放した瞬間――。

 ――ダイス城の地下牢が爆発して魔力の渦が溢れて次々と地下を飲み込んでいくのであった。

 ……
 ……
 ……
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