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王典褒章編

171.かけがえのない物

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「我にヴェルマー大陸の統治を任せるというのか?」

 ケビン王は目を閉じながら、今までのソフィの言動を思い返す。

「貴方を見た目通りの年齢の少年だとはとても思えぬのだ。これは失礼にあたるのかもしれぬが、私は貴方と話をしていると仙人と話している気分になる」

 王の話を聞いていたユファは、袖口を口にもっていって笑みを浮かべる。

(それはそうでしょうよ。ソフィ様は少なくとも貴方の何十倍、いや何百倍も生きているでしょうからね)

「そんな貴方がヴェルマー大陸を統治して、くは我が国と同盟を結んでもらえたらと、心からそう思うっておるのだよ。ソフィ殿」

 そう告げたケビン王の思惑は、当然ソフィにも伝わってくる。下手にミールガルド大陸の者が、ヴェルマー大陸の領土を奪ったところで上手く活用が出来るとはとても思えない。

 そうであるならば、信頼できる王国の関係者以外の者に統治してもらう事で、同盟という形に落ち着いてもらえた方が有意義と、ケビン王は考えたのである。

 そこでソフィは一度『ヴェルマー』大陸の者達である『レルバノン』『シス』『シチョウ』の顔を見るのであった。

「……」

 レルバノンはソフィに視線を向けられた時、瞬時にソフィの言いたい事を理解したのだろう。ソフィに対して直ぐ様コクリと頷くのであった。

「私は賛成よ」

 そしてシスも笑顔で承諾する。

「俺は『トウジン』魔国さえ残してくれるというのなら、お前が統治する事に何も異論はない」

 最後にシチョウも条件付きで、賛成の意思を示した。

 前の世代の『ヴェルマー』大陸の大国、その三国の重鎮達は次の世代のとしてソフィを『ヴェルマー』と認めるのだった。

「……分かった。お主らがそれで良いというのであれば引き受けよう」

 この選択の重さを噛みしめながらソフィは承諾する。

 王になるという事は、生半可な覚悟では出来ない。その大陸にすむ者達の命を預かるという事であり、それ以前にまだ『ヴェルマー』大陸は『ラルグ』魔国の所為で混沌を極めている。

 全てを一度再構築をする為に選り良く崩して、更には一から国を立て直していかないといけないのである。治めるまで果てしなく先は長い道のりとなるだろう。

、よろしく頼むぞ」

 ケビン王はこうして『ヴェルマー』の王となったソフィに恭しく頭を下げた。

 もうソフィは先程までの一介の冒険者ではなく、紛れもなく『ヴェルマー』大陸の王なのである。五分五分の対等の立場のつもりで、ミールガルド大陸の『ケビン』王は頭を下げたのだった。

「……っ! っっ……!!」

 ステイラ公爵は何から何までも気に喰わないと言った様子だったが、声が出ない為に壊れた玩具が惨めたらしく暴れているように見えた。

「ぷっ……っ! あっはははは! なんて滑稽なのかしら!」

 そしてユファは蔑むような視線浮かべながら、馬鹿にするようにステイラ公爵を嘲笑うのだった。

「!!!」

 しかし『ステイラ』公爵は、そんなユファを見た途端に変な仕草を見せ始める。

 今までのソフィに対しての怒りといった表情ではなく、両手を自身の股間に宛がったかと思うと、ゾクゾクと身体を大きく震わせながら、興奮するような目でユファを見始めたのだ。

 そんな様子のステイラにユファは、

「!!」

 ステイラ公爵は更に身体をよじりながら、もうたまらないといった様子で息遣いを荒げ始めた。

 そしてステイラ公爵は王や国の重鎮といった大貴族達が大勢が見ているこの状況の中で、自分の股間を押さえている手を更に激しく動かして這わせ始める。

 その姿は声を出せる状態であれば、絶叫をしていてもおかしくない程の恍惚の表情であった。

「えっ? あの、本当に気持ち悪いんデスケド……」

 ユファは後退りながらソフィの後ろへと回り込んで、ステイラ公爵から距離をとるのだった。

 どうやら流石の彼女であっても、許容が出来るラインを越えたのだろう。

「「「……」」」

 いつも誰にでも高圧的な態度をとっており、この国を治める『ケビン』王が相手であっても、納得のいかない事があれば意見を口にするステイラ公爵が、ツヤツヤの長い髪をした背が高いユファが、彼を気持ち悪いと罵りながら見下すその姿に、大変興奮をしている様子であった。

 彼はもっと罵って欲しいとばかりに、ユファに視線を送り続けていた。

 ソフィやリーネ、ケビン王、その場にいる誰もがを感じたのだった。

 ――何はともあれこうして『ヴェルマー』大陸と、『ミールガルド』大陸の戦争は終結して、レルバノンの護衛から始まった一連の出来事は、無事に終わりを迎えたのだった。

 ……
 ……
 ……

 そして王城を後にしたソフィ達は、レルバノンの屋敷に戻ってきた。

「ひとまず、これで全て片付いたな」

 ソフィの言葉にレルバノンは頭を下げた。

「ソフィ君、ありがとうございました。 貴方のおかげで私や配下達は救われましたよ」

 もしソフィという『大魔王』がレルバノン達の護衛となっていなければ、シーマが率いるラルグ魔国に潰されてそのまま『ミールガルド』大陸もまた、滅ぼされていたかもしれない。

 まさに運命というべき出会いのおかげで、本当の意味で全てが上手くいったのだとレルバノンは思えたのであった。

「思えばお主達と出会ったのも『ミナト』の依頼のおかげなのだな」

 『グラン』の町の冒険者ギルドに貼られていた、たった一枚のクエスト用紙から始まり、当初は『ステンシア』の町への護衛だけの依頼だった。

 それがいつの間にかステンシアの町を魔物達から守る事となり、そしてレルバノン達『魔族』と出会いを果たして、いつの間にか『ヴェルマー』大陸の魔族との戦争に繋がった。

 まさかそこで『アレルバレル』の世界での盟友ともいうべきユファと再会を果たして、最後は自分が『ヴェルマー』大陸の王となるとは誰が予想出来ただろうか。

 だが、ソフィは自分が再びを出来るだろうかと、今までとは違う悩みを抱える事になるのだった。

 今でもまだこの『世界』に来る事になったきっかけの一戦。

 最初の出来事というべき『アレルバレル』の一人の勇者の言葉が思い出される。

 ――『! !』

 ソフィは少しでも世界が良くなるようにと、自らが先頭に立って挙兵をした。

 そして世界を纏める『大魔王』へとなり、人間の世界と魔族の世界を掌握し統治へと進んだ。数百年、数千年と長く安寧を目指したはずだったが、人間の勇者からはと呼ばれた。

 やはり自分はどこまで行っても魔族なのだ。種族の違う人間から見れば、自分達の世界を他種族の王『大魔王』と呼ぶべき魔物達の王に支配されているという認識は拭えず、圧の渦に敷いてしまっているのかもしれない。

 ――そんな自分が再び、同じ魔族とはいっても世界が違う存在が『ヴェルマー』大陸を統治など出来るのだろうか……――。

 ケビン王には『ヴェルマー』大陸の統治の話を受託したソフィだが、そのソフィはまだ本音では迷っている。

 しかしソフィがこの場を見渡すと『アレルバレル』の世界の時と、少しだけ違う事が確かにあった。

 ――その内容とは。

「ソフィ? 何を悩んでるか知らないけど、気になる事があるなら直ぐに私に話をしなさいよね!」

 リーネはウインクをするようにソフィに声を掛けてくる。

「俺達に出来る事があれば、何でも手伝うぞ!」

 スイレンはお前の為なら何でもやるぞとばかりに、気概を持って大声で言ってくれた。

「そうですよソフィ様。ステイラ公爵の件で思う所でもあるのでしたら、私が……」

 拳を握りながら決意を表明するラルフ。

「ふふ、もう彼は放っておいても問題はないでしょう。ステイラ公爵はユファさんの事を、でしたしね」

 茶化すようにレルバノンが言う。

「うげぇ……! ちょっとやめてよね! また気分が悪くなるわ」

 思い出してがっくりと項垂れる様子を見せるユファ。

「ぷっ、あははは!」

 堪えられないとばかりに笑うシス。

「何よ……、シスまで笑うことはないでしょう?」

 ……
 ……
 ……

 ソフィはあらためて周りを見る。楽しそうにソフィを中心に集まった者達が、こうしてみを交わし合うのを無言で眺める。

 確かにソフィは力があり、世界を纏めるのも一人でやってきた。しかしこの世界ではソフィを頼ることもある者達が、ソフィが困っていれば手を差し伸べようとしてくれる。

 ――というモノをしっかりと持つ者たちが集まっている。それはソフィの目にとても眩しく映っていた。

(我は掛け替えのない物を手に入れたのかもしれぬな)

 ――やがてソフィは自分が笑っていた事に気づくのだった。

 第三章完。
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