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第三章 終焉を呼ぶ七大天使

第208話 憤怒の覚醒

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 ルアが一日中ルシファーに連れ回されている間。東雲は一人、ある場所へと赴いていた。

「…………ここだ。」

 草木一本生えていない砂地に東雲は手を這わせた。

「ここで妾は一度死んだ。」

 東雲が訪れていたのは自分が過去に七大天使の一人ラグエルと戦った場所だった。
 そして自分が命を落とした場所……。

「今や妖狐達の集落も跡形もない。」

 サクサクと砂地を歩き回るが、彼女の記憶にある当時の面影はどこにもない。

「すまぬ……妾の力が足りんばかりにお前達までも。」

 ギリリと力を込めて握る拳からは、爪がめり込んでポタポタと鮮血が砂地に滴っていた。
 渇いた砂地に東雲の血が染み込むと、砂地からゆらゆらと魂のようなものが現れた。

「これは……ここで散った者達の魂か。魂の色は赤い……つまりは怒りを抱えて死んでしまったということか。妾への……。」

 そうネガティブになる東雲の体の中へ、するりと赤い魂が入り込むと、彼女の表情が変わる。

「これは……妾への怒りではないのか?」

 辺りに浮かび上がった真っ赤な魂が次々に東雲の体に入り込んでいくと、その魂の持つ感情が徐々に一つになっていく。

「天使への怒り……そうか。あいわかった……今世こそ、妾はラグエルには負けん。」

 そう誓いをたてる東雲に、ひときわ大きな魂が近付く。

「これは妾の魂か。まだ残っていたか。」

 そしてここで死んだ自分の魂が自分の体に吸い込まれると、ドクンと心臓が大きく高鳴った。
 それと同時に思考が天使への怒りで埋め尽くされていく。

「うぐっ……ああァァァァァァッ!!ラグエルッ……貴様だけは……貴様だけはァ妾が殺してやるッ!!」

 怒りを顕現したような真っ赤なオーラを纏った東雲は喉が張り裂けそうになるほど空へと向かって叫ぶ。

 そしてその想いに答えるように、真っ赤なオーラが体の中へと吸い込まれていくと、東雲の体の奥底で何かの鍵がカチャリと開けられた。

「………………。」

 魂達の怒りを全て抱え込んだ東雲は、もと自分が死んだ場所にクルリと背を向けた。

「いつか……いつかまたここに。」
 
 ポツリとそう呟くと、東雲はどこかへと消えてしまった。













 そしてすっかり一日中ルシファーに付き合わされてくたくたになったルアはベッドに横になっていた。
 ルアの寝顔を傍で眺めていたルシファーだったが、突然とてつもない気配を感じて思わず立ち上がる。

 なぜならその気配の主というのはルアの寝室の扉の向こうにいたのだから

「フフフ、なるほどあなたの欲はでしたか。」

 ガチャリと扉を開けて入ってきたのは、瞳に真っ赤な炎を宿らせた東雲だった。

「おい、ルシファー。お前はコレの扱い方を知っているのだろう?妾に教えろ。」

「良いでしょう。では外へ行きましょうか。」

 そして外に出た二人はお互いに向かい合った。

「それの扱い方を教える前に、どうやって憤怒を体に宿したのか……参考までに教えてもらっても?」

「妾が守れなかった者達の怒りを肩代わりしたのだ。そして一度死んだ自分自身の怒りもな。」

「フフフ、なるほど。」

 クスリと笑いながらルシファーは一つ大きく頷く。

「では早速始めましょうか?手取り足取り教えるよりも、実戦で経験をした方が良いでしょう?」

「無論だ。」

「それではいつでもどうぞ?」

 そう言って両手を広げたルシファーに、東雲は御札に炎を宿してルシファーへと投げつけた。
 その御札はルシファーの結界に遮られることなく、彼女の体にペタリと張り付いた。

「爆。」

 東雲がそう唱えると同時に、御札から業火が吹き出した。直撃したかに思えたが、ルシファーはその業火の中から平然と姿を現した。

「間違いありませんね。憤怒の業火です……ですが、少し雑念が混じっているようですね。威力が弱いですよ?この程度ではラグエルに傷をつけることもできません。」

「ちっ……。」

「もっと、憤怒に身を任せるのです。でも体の支配を許してはいけませんよ?」

「ならば……これでどうだ。」

 東雲は両手を胸の前に出すと、手と手の間に黒い球体を作り上げた。

「フフフ、良い感じですね。」

「コレが今の妾の全力だ。喰らえっ!!」

 その黒い球をルシファーにむかって放つと、ルシファーは自らの神器である明星を取り出した。

「コレは流石の私でも受け止めきれませんね。」

 そして明星を東雲の放った黒い球へとぶつけた。すると、黒い球が明星に飲み込まれ動きを止めた。

「なっ!?」

「流石にコレの爆発は、ここでは被害が出てしまいますからね。」

 クイッとルシファーが指を動かすと、明星は遥か上空へと上がっていく。そして彼女がグッと手を握ると、上空で大きな爆発が起きた。それを眺めた彼女は東雲へと言葉をかけた。

「今のはよい攻撃でした。ですが……燃料切れのようですね。」

「くっ……まだまだ修行が足りんということか。」

 目から真っ赤な炎が消えると、東雲はポン!!と狐の姿に戻ってしまった。そんな東雲を抱き抱えると、ルシファーは笑う。

「フフフ、まさかこの短時間で憤怒を身に付けるとは驚きでした。扱い方はまだまだ稚拙ですが、磨けばきっと…………フフフ♪」

 何かを確信したルシファーは東雲を抱えて城の中へと戻るのだった。
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