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第三章 終焉を呼ぶ七大天使

第205話 マッサージサロンクラーケン

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 人魚の歌を聴き終えると、ルシファーはルアの手をとった。

「さぁ、それでは参りましょう。次の場所はあの街の中にあるようです。」

「え、今の人魚の歌がそうだったんじゃないんですか?」

「あれは転移したときにたまたま巡りあったものです。本当の目的は別にございますよ。」

「もう十分だと思うんですけど……。」

「フフフ、いけませんよルア様。ルア様にはもっと癒されてもらわなければなりません。」

 渋るルアを引き連れて街の中へと足を踏み入れるルシファー。歩いている最中、ルアは彼女に問いかけた。

「そういえば、ここでは何をするんですか?夜の国は温泉でしたけど……。」

「どうやらここでは巷で評判のマッサージがあるらしいのです。とても心地よいらしいですよ?」

「マッサージ……。」

 そう聴いた瞬間にルアの脳裏に真っ先に浮かんだのは、トリトニーだった。
 彼女はヒーリングと称しているあれは、どちらかと言えばマッサージに近いものだ。

「フフフ、どうやら一風変わったマッサージのようですよ?」

「へぇ~……どんなのなんだろ。」

 一風変わっているというルシファーの言葉は、ルアの興味を擽った。

 そうしてシーレーヌの街中を歩いていると、目的のお店に着いたようで、ルシファーが歩みを止めた。

「ルア様、着きました。ここです。」

「マッサージサロン……クラーケン?」

 店の前に出ている看板には「マッサージサロンクラーケン」と書いてある。

 いったいどんなマッサージをするのだろう……と気になりながら中へと入ると、見覚えのある魔物娘が接客してくれた。

「いらっしゃ~い……ってあらっ?君はもしかしてあのときの……。」

「あっ!!魚屋のお姉さん……ですよね?」

 マッサージサロンクラーケンを経営していたのは、ルアが由良と共にこの街に来たときに立ち寄った魚屋で働いていたクラーケン娘だった。

「おや、またしてもお知り合い……ですか?」

「えっと知り合いって程じゃないんですけど、前に一回この人の魚屋でお魚を貰ったことがあって……。」

「まさかこっちのお店にも顔を出してくれるなんてね~お姉さんビックリよ?それで、このお店に来たってことは……マッサージが目的で来たってことでいいのかしら~?」

 クラーケン娘の問いかけにルアが答える前に、ルシファーが口を開いた。

「はい、このお方のマッサージをお願いしたいのです。」

「えっと……じゃあこの中から好きなコースを選んでね。」

 彼女は受付の壁に張り付けてあったコースメニューを触手で指し示した。
 コースのメニューは以下の通りだ。

・30分マッサージコース
・60分マッサージコース
・90分マッサージコース
・全身アロマオイルマッサージ
・フルコース

 と、五種類の中から選べるらしい。

 ルアが一番時間の短い30分のコースを選ぼうとすると、ルシファーが先に別のコースをお願いした。

「それではでお願いします♪」

「え、あっ!!ちょっ……ルシファーさん!?」

「フルコースですね~、こちらのコースは時間がかかるので、お姉さんはあっちの待合室で待っててください?」

「フフフ、ではルア様をお願いしますね。」

 待合室へと去っていくルシファーのことを呆然と眺めていると、ルアの手にクラーケン娘の触手が巻き付いた。

「君はこっちでお着替えよ~?」

「あぅぅ……30分でよかったのに。」

 クラーケン娘に連れられ、マッサージ用の衣服へと着替えさせられたルア。着替えた彼はさらに奥の部屋へと案内される。

「それじゃあ、フルコースの説明をするわね?」

「は、はい……。」

「うふふっ♪そんなに緊張しなくても大丈夫。すっ……ごい気持ちいいだけだから。」

 ルアの緊張をほぐすべくクラーケン娘はそう語りかけると、いよいよマッサージの内容について触れ始めた。

「まず始めは、リラックスしてもらうためにお耳掻き。それから全身にオイルを塗って~、身体中を私の触手でマッサージ♪吸盤で吸い付いたりするからね~。」

 コースの内容をさらりと説明したクラーケン娘はルアに横になるように促した。

「それじゃあ、お姉さんのお膝枕に頭を乗せて?」

「は、はい……。」

 クラーケン娘の膝枕にルアが頭を乗せると、彼女は手に綿棒のようなものを持った。

「さっきも言ったけど~まずはお耳掻きからするわね?ぞわぞわ~ってしても、体……動かしちゃダメよ?」

「わかりました。」

「うふふっ♪良い子ね、それじゃあお耳……失礼しま~す。」

 するりと耳に綿棒が入り、ルアのマッサージ……フルコースが始まった。
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