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第三章 終焉を呼ぶ七大天使

第164話 青は……①

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 ぐったりとしたクロロを木に預け、ルアはまた歩き出す。

「これで残ってるのはお母さんと東雲さん……。どこにいるんだろう……。」

「わしを探しておるのかのル~ア~や?」

「えっ!?」

 突然ルアは後ろから優しく由良に抱き締められた。

「むっふっふ♪あぁ……愛しい……愛しいのぉ~。」

 由良はすりすりとルアの顔に自分の顔を擦り付ける。

「お、お母さん……。」

「顔を赤くしおって、なぁに恥ずかしがることは無いのじゃぞ?わしらは親子なのじゃからな。」

 恥ずかしそうにするルアに更に心を揺さぶられたのか、由良はニヤリと笑う。その瞳の奥にはどこか嗜虐的なものが見え隠れしているようだ。

 そんな時……。

「くくくくく、普通の母子ならばそんなに過剰な接触はせぬのではないか?なぁ由良よ。」

「……!!」

 ゆらりと二人の前に東雲が姿を現した。

「東雲さま……母が子に愛を注ぐことは当然じゃとわしは思いますのじゃ。」

「そうか、だが由良よ。という文字は……の上に。と書く……子の情事にまで首を突っ込むのが親とは思えんぞ?」

「東雲さまは子を持ったことがない故そう思うのですじゃ。わしは本当の親というのは子側に寄り添う者だと思っております。」

 東雲と由良の間で魔力がバチバチとぶつかり合い、その場にただならない雰囲気が漂い始めた。

「くくくくく、言うようになったなぁ……ん?由良よ。」

「お言葉ですが東雲さま。今のわしは誰にも負ける気がしないのですじゃ。」

 ルアを置いてどんどんヒートアップしていく二人。

「面白い……ならばそれが口だけではないことを見せてもらおうか?」

「もちろんそのつもりですじゃ!!」

 パンと音を立てて由良が両の手のひらを合わせると、彼女の尻尾が九本にまで増え、足元に五芒星が描かれた魔法陣が現れる。

 ルアはその魔法陣に見覚えがあった。

(あ、あれって……もしかして……。)

 そしてその魔法陣を発動させるために由良がポツリと呟く。

「招来禍津火ノ神マガツヒノカミ。」

「ほぅ?」

 由良が使った魔法は、初めて天使を倒したときにルアが用いたものだった。しかし、今回のそれは少し違うようで、魔法陣から黒い魔力が溢れだしたかと思うと、由良の背後に鎖を咥えた黒く大きな狐が現れる。

 それを見て東雲はクスリと笑う。

「くくくくく、先の言葉に偽りはないようだな。いつの間に禍津火ノ神を使えるようになった?」

「これも日々の修練の成果ですじゃ。そしてこれが……我が子を想う母の力ですじゃあッ!!」

 由良はそう叫ぶと、背後に顕現した禍津火ノ神を体の中に取り込んでいく。すると、由良の体毛に変化が現れ、金色から白色に……そして禍津火ノ神を全て取り込む頃には黒く……染まっていた。

「その姿……ずいぶん禍々しくなったな。魔力も桁違いに上がった。」

 純白の毛並みの東雲とは対照的に、漆黒の毛並みに変わった由良の姿を見て東雲から笑みが消えた。

「以前、禍津火を取り込んだ時は膨大な魔力に体が犯され諸刃の剣も良いところだったが……どうやら完全に禍津火の持つ暴走する魔力を制御したようだな由良よ。」

「ついこの前まではできなかったものが、はなんでも出来るような気がするのですじゃ。」

「ほぅ?」

 由良の言葉に東雲は興味深そうに聞き入った。

「先にあの女神が言っていたことと繋がりがありそうだ。欲望の解放……なかなかどうして興味深い。」

「東雲さま、この勝負……わしが勝たせていただきます!!」

「くくくくく、来い由良。」

 再び笑みを見せた東雲は由良を挑発するように手をクイックイッ……と動かした。

 その次の瞬間、東雲の足元から何本もの鎖が飛び出し彼女の体に巻き付こうとする。

「おぉっ……流石の妾もこれには捕まりたくないな。」

 トン……と軽く地面を蹴り東雲は鎖を避けるために空中に飛び上がった。

「逃がさぬッ!!」

 由良が魔力を手に纏わせ、東雲へと向かって引っ掻くような動作をする。

「むっ……。」

 何かを感じとり咄嗟に東雲は自分の体を濃い魔力で覆った。すると、次の瞬間彼女を覆っていた魔力を何かが深く抉る。そしてそれは周りの木々にも影響を及ぼしていた。

「妾の全力の守りを貫通するか。凄まじい魔力だな。」

 そうポツリと呟いた東雲の手からは僅かに出血が見られ、ポタポタと地面に鮮血が滴り落ちていた。

「だが、まだまだこれは序の口……だろう?」

 ニヤリと笑い東雲は傷口を魔法であっという間に塞いでしまう。

「もちろん……ここからが本番ですじゃ。」

 由良は両手を地面につけると、魔力を込めながらポツリと呟いた。

「獄門……解。」
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