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第三章 終焉を呼ぶ七大天使

第165話 青は……②

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「獄門……解。」

 そう由良が呟くと、彼女を中心として赤黒い魔法陣が現れる。そして現れた魔法陣の八つの角の頂点のうち、一つに赤い炎が灯った。

「第一の門……。」

 更に由良が放った言葉に魔法陣が反応し、魔法陣に灯っていた炎が何倍もの大きさになって由良を包み込む。
 そして由良を包み込んでいた炎が弾けると、彼女の両手に集まり、大きな爪のような形を象っていく。

 異様な雰囲気を放つ由良を眺め、東雲は一つ口を開いた。

「見たことのない魔法だ。だが、禍津火の扱う炎に似ているな。」

「この魔法は禍津火となってしまい、代々の仙狐に倒された者達がわしに教えてくれたもの……東雲さまが知らぬのも無理はありませぬ。」

「くくくくく、なるほど。面白い……仙狐になり損ねた者共がお前にそれを託したというわけか。恐らくは……ミリアと戦ったときに意識が繋がったのだろう?」

「ご明察の通りですじゃ。」

 由良はミリアと戦ったとき……禍津火を自分の体に取り込むことで東雲と同等の魔力を得ることに成功した。だが、それと同時に禍津火となった者達と意識を繋げられるようになっていたようだ。

「さて、ではそろそろ見せてもらおうか?禍津火どもがお前に託したモノをな。」

 東雲は服の内側から御札を一枚取り出すと、それに魔力を込めて由良へと向かって飛ばした。

「爆ぜろ。」

 そして由良へと御札が届く刹那、東雲がそう呟くと御札が光り始める。

 しかし……東雲が思い描いていた反応を示す前に、御札は由良の炎の爪に容易く切り裂かれ、あっという間に燃え尽きてしまう。

「……!!」

 それには東雲も思わず驚いた表情を浮かべるが、彼女が表情をしかめた瞬間には、由良の炎の爪が目の前にまで迫っていた。

「今度はこちらの番ですじゃ。」

「くくっ……。」

 次々と自分へと向かって迫る炎の爪を、東雲はまるで舞を踊るかのようにヒラヒラとかわしていく。かわされた炎の爪は木や岩などに当たるが、そのどれもを熱した包丁でバターを切るが如く……容易く切り裂き、燃やしつくす。

「その炎……ただの炎ではないな。今まで長い年月を生きてきたが、符を切り裂かれたのは初めてだ。」

「それにしては余裕がありそうですな?」

「くくくくく、余裕があるわけではない。今までこうして追い詰められたのはあの名付きの天使以来だからな。妾はこの状況を……。」

「っ!!」

 由良の攻撃を避けた東雲は、一歩踏み出し由良へと急接近すると彼女の目の前で表情を歪に歪めた。
 こんな状況でも楽しそうに笑う東雲に由良は寒気を感じ、一瞬攻撃の手を止めてしまう。

「そら、隙アリだ。今度は切れぬだろう?」

 その一瞬を東雲は見逃さず、由良の体に先ほどと同じ御札を貼り付けた。
 そして指を口に当てて先ほどと同じ言葉を呟く。

「爆ぜろ。」

 今度は由良が御札に対処する暇もなく、御札は盛大に爆発し、由良の体は爆煙に包まれてしまう。

「今度は手応えあり……だ。」

 東雲は爆煙の先を眺めてニヤリと笑う。

「お、お母さん……。」

 爆発の中心にいた由良のことを心配して、ルアがそう口にすると、ドレスから声が響いた。

『周囲の生体反応を確認中……………………二つの生体反応を確認。』

「えっ……じゃあお母さんは………………わぁっ!?」

 ルアがドレスからの声に表情を明るくした時……、辺りに強い一陣の風が吹き抜けていった。

 その風は爆煙をあっという間に吹き飛ばし、中心にいた由良を露にした。
 そして驚くことに由良の体はおろか、彼女の服にすら傷ひとつついていない。

「くくくくく、妾の符の爆発をマトモに受けて無傷か。どうやって切り抜けた?」

「それは教えることはできませぬ。」

「そうか、ならばじっくり確かめてやるとしよう。」

 東雲は再び由良へと向かって御札を飛ばす。

「同じ手は喰いませぬ。」

 先ほどと同じように由良は炎の爪で御札を切り裂く。

「ならばこれはどうだ?」

 東雲はおもむろに空中に自分が持っていた御札をばら蒔いた。

 空中でゆらゆらと揺れながら舞い降りてくるそれを一瞬眺めた由良は両手を前に突き出す。すると、両手の炎の爪が長く伸びた。

 そして由良は舞い降りてくる御札を何枚も同時に切り裂く。しかし、何枚かは切り裂くことができず自分の近くに舞い降りてしまう。

「爆ぜ、交ざれ。」

 東雲のその言葉を合図に、御札が光り輝き、爆発し、炎を吹き、雷を起こす。

 そしてまたもや由良の周りは爆煙に包まれてしまう。
 だが、またしても一陣の風が辺りに吹くとその爆煙の中心から無傷の由良が姿を現した。

(この風になにかあるな。)

 再び無傷で現れた由良に何かを確信した東雲だったが、それを確かめる前にゾクリと背筋に悪寒が走ることになった。

 無傷で現れた由良の両腕にとてつもない量の魔力が集まっているのを感じたのだ。
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