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第10章 三つ巴

第339話 ヒトとの別れ

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 意識がプツンと途切れた後、俺はゆっくりと沈んでいくような感覚の中目を開けた。

「ここは……どこだ?」

 目を開けて周りを見渡してみても暗闇だけか広がっている。その中で下のほうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ここは主と我の境界線のような空間だ。」

 そうナナシの声が聞こえるが、彼女の姿はどこにも見えない。

「この進化は我と主とを一つにする進化となる。心配せずとも我の精神体や主の体が無くなるようなことはない。ただ分離していた力が完全に一つになるだけだ。」

「なるほどな。」

「まぁ単純に主の種族が変わり、ステータスが大幅に上昇すると思っていればよい。」

「簡単に言ってくれるな。種族が変わるって相当なことだぞ?」

「くくくく、先ほど躊躇いなどないと言っていたではないか。それとも今更怖気づいたか?」

「茶化すなよ、やるなら早くしてくれ。」

「承知した。では……。」

 その言葉を言ったと同時にゆっくりと落下していた俺の下から巨大な黒い龍の頭が現れた。見たことはない龍だが、わかる。この龍は間違いなくナナシだと。

。」

 ナナシがそう言ったと同時にその大口がガバリと開く。その中に俺の体はゆっくりと落ちてゆく……そして。

 バクン!!!!

 俺はナナシに









 トクン……トクン……ドクンッ!!
 
「…………!!」

 心臓が大きく脈打つと同時に現実で目が覚めた。それと同時に体に起こっていた変化に気が付く。

(体が軽い。それに力がどんどん体の内側から湧き上がってくる……抑えが、きかないっ!!)

「うっ……オオオオォォォォォォォッ!!」

 抑えのきかないあふれ出す力に雄たけびを上げると、俺のことを囲っていた紫という人物の結界にビキビキと亀裂が入っていく。
 その現状に紫は表情をひきつらせた。

「っ!?なんという力っ……結界が持たん!!」

 彼女の言葉通りにすぐ結界が粉々に砕け散り、この場所全体を揺るがすほどの力の衝撃波が放出される。それは道場のいたるところを破壊し、ボロボロにしてしまう。

「ぐぅぅ……!!黒龍のやつめ、とんでもないものを解き放ちおった。」

 そしてあふれ出す力が体の中でまとまりだすのを感じると、力の放出が収まった。すると声が響いてくる。

『種族が日本人からに変化しました。それによりスキル龍化がへと変わります。このスキルは当人の意思を反映しパッシブスキルとして発動します。』

「ついに人ではなくなってしまった……か。」

 だがこれも俺の選んだ道。後悔はない。

 心の中にあった僅かな迷いを切り捨てると、俺は紫へと視線を向けた。

「さぁ、続きを……。」

 俺がアーティファクトを再び構えると、紫は苦笑いを浮かべながら竹光を鞘に納めた。

「かかかっ、これはこれはちと竹光では分が悪いかの。」

 そして彼女は竹光の上に差してあった、まるで日本刀のような刀剣を抜く。

「狐焔刀……儂のたった一本の愛刀だ。業物中の業物……この刃は天をも切り裂く。この意味が分かるな?」

「一刀を受ければ、死が待っていると。」

「そういうことだの。悪いが儂も手を抜いている余裕がなさそうなのでな。全力で行かせてもらう。」

 紫がゆったりとその狐焔刀を構えると、刀身に青い炎が宿った。

「参るぞ。」

 その言葉と同時に彼女はゆらりと歩みだす。

 さっきまでは目で捉えることさえ叶わなかったその動きだが、今はハッキリ見える。足をどう動かしているのか、次はどこへと踏み出そうとしているのか、果てには視線がどこを捉えているのかさえも。

(見える、全部……。)

 そして舞のような動きから一撃が繰り出される瞬間、俺も一歩踏み出した。

「むっ!!」

 攻撃を躱した後、特殊な足さばきから一撃必殺の一刀を繰り出す。しかし流石は天狐の舞を極めている紫、即座に反応し避けて見せた。
 そして少し距離を取ると、額から冷や汗を一つ流しながら言った。

「久方ぶりに死を身近に感じた。このひりつく感覚……ただの稽古では味わえぬ感覚だ。」

 そう言いながらも彼女は笑った。

「かかかかっ!!楽しいなぁ斬り合いはっ!!」

 笑いながら姿をゆらりと煙のように踏み出した。そしてまるで俺の攻撃を誘うように一刀を繰り出してくる。それに合わせて俺も攻撃を繰り出すと、お互いの刃がガキリと音を立ててぶつかり合う。その瞬間俺と彼女を中心に衝撃波が発生し、すでにボロボロになっているこの道場全体に追い打ちをかける。
 その時、紫の表情が少し引きつり、彼女は自分からバックステップで後ろに下がり剣を鞘に納めた。

「うむ、これまでだな。楽しくなってきたところだが、これ以上はこのダンジョンが持たぬ。それにもうお前は天狐の舞を体得しておる。」

「へ?でもあの声が聞こえてない……。」

「まぁ、スキルのアリス流剣術のという部分を見返してみるのだな。」

 言われた通りステータスを開いてスキルのところを見てみると、アリス流剣術の部分がへと変化していた。アリス流剣術にあったスキルレベルは書いていない。

「本当だ。」

 そう俺がぽつりとつぶやくと、紫はこちらに語り掛けてくる。

「さて、教えることは教えた。あとはあっちが終わるまで少し語り合うとしようか。まぁ座れ。」

 そしてどこからか座布団を二つ引っ張ってくると、紫はそこに座った。俺も彼女の正面に座ると、紫はまたしてもどこからか大きな瓢箪ひょうたんを取り出した。

濁酒どぶろくだ。もちろん酒はいけるのだろう?」

「まぁそれなりには。」

「おい黒龍おぬしも飲むか?」

「もちろんだ。」

 紫の問いかけに待っていたとばかりに魔力で姿を作り出したナナシが飛び出してきた。

「ナナシ、お前まだ出てこれるのか?」

「当然。力が一つになっただけであって我の姿自体が消えたわけではないからな。」

 くつくつとそうナナシは笑うと紫へと言葉をかけた。

「おいさっさと飲むぞ紫!!」

「無類の酒好きは昔と変わらんな黒龍。どれ注いでやろう。」

 そしてナナシと紫の昔話を聞きながらの酒宴が始まった。

(アルマ様たちはいつ戻ってくるだろうか……。)

 そんな一抹の不安と共に。
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