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第10章 三つ巴

第340話 護身の剣

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 カオル達がすでに修行を終えている最中、未だアリスとアルマの二人は剣を交えていた。

「はぁっ……はぁっ……。」

 肩で息をするアルマの正面で一呼吸も乱さずにアリスは剣を構えている。しかし、アリスはどこかうれしそうな表情を浮かべている。

「うんうん、大体の基本はマスターしたね。さすが天才……でも息が上がってるようじゃまだまだっ!!」

「っ!!」

 疲労感を見せるアルマに彼女は容赦なく斬りかかる。

「いいかい、キミがここで修行してる間にも彼は向こうで私の剣の師匠と相対してるんだ。その意味が分かるかな?」

「カオルがまた……強くなってるってこと?」

「まぁそういうことだね。私が体得できて無い剣技を彼は今頃身につけているだろう。」

「アリスでも体得できて無い剣技を?じゃあアルマがここでアリスと修行してる意味は……?」

 その事実にアルマは表情を暗くすると、剣を持っていた手をだらんと落とした。そんな彼女にアリスはある言葉をかけた。

「キミはって言葉を知っているかな?」

「……わかんない。」

「この言葉の意味はね、師匠を超えてしまった弟子のことを指しているのさ。まぁ私の場合、師匠を超えたのは攻めの剣技じゃなく護身の剣技なんだけどね。攻めの剣技はまだ師匠には遠く及ばない。でも誰かを護るため、自分を護ることに特化した剣技なら師匠よりも私のほうが上なんだ。」

 そう言ってアリスは剣を収め目をつぶると、アルマに向かってこう言った。

「さ、来なよ。どこからでもいいよ、後ろからでも上からでも遠距離からでも……ね。全部防いで見せるから。」

「……わかった。」

 自信満々に仁王立ちするアリスの周りを足音を立てずにくるくると回り、最終的にアルマは彼女の背後を取ると握る剣に力を込めた。

「飛閃!!」

 アリスから教わったアリス流剣術の始まりの太刀、飛閃を飛ばす。その斬撃がアリスへと届く刹那、突然打ち消されるように消えてなくなったのだ。

「え!?」

「さ、どんどん来なよ。」

「……っ、わかったよ!!」

 それからアリスへと向かって四方八方からアルマは攻撃を仕掛けるが、アリスは目をつぶったまま動かずにそれをすべて防いで見せた。

 そしてある程度攻撃の手段が出尽くしたことを彼女は察するとゆっくりと目を開けた。

「んね?」

「なんでわかるの?足音だって立ててなかった、殺気だって出してなかった……目もつぶってたから攻撃の挙動も見えなかったはずだし……。」

「足音がなくたって、殺気がなくたって、視界がなくたってわかるんだよ。私の間合いの中ならね。」

「間合いって、攻撃が届く範囲のことじゃないの?」

「普通の認識ならそれで合ってる。でも私の場合は違う。それが私の間合い。」

「そんなの言われたってわかんないよ。」

「最初は誰だってわからないさ。私だって苦労したよここまで間合いを広げるのはね。でもキミは紛れもない天才だ。きっとすぐにコツを掴んで私を超えていくだろうさ。」

 そういうとアリスは懐から黒く長い帯を取り出した。

「さ、それじゃあ早速始めよう。まずはこれを~……動かないでね~。」

 彼女はその黒い帯をアルマの目を覆うようにぐるぐると巻くとアルマの前で指を三本立てた。

「はい、これ何本?」

「わ、わかんない……二本?」

「ざんね~ん、正解は三本だったよ。っとまぁこんな感じで最初は進めていくよ。視覚に頼らずに神経を研ぎ澄まして、私の動きを体全体で感じるんだ。集中しないと……いつ死ぬかわかんないよ?」

 そういうと彼女はわざとらしく自分の剣をカチャリ……と音を立てて見せる。その音にアルマはびくりと反応した。

「ま、最初は真剣なんて使わないよ。ほんとに死んじゃうかもしれないからね。だから使うのはこの木刀。」

 自分の剣を鞘へと納めると彼女は木刀を手にして視界を奪われたアルマの周りをぐるぐると回る。

「最初のうちはちょっとした気配とか音とかはヒントとして与えてあげる。でもそのうちさっきキミがやったみたいに気配も殺気も音もないような状態にするからね。」

「わかった。」

「さぁ、それじゃあいくよ~?」

 アリスとアルマの修業はこれからが本番のようだ。
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