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第10章 三つ巴
第338話 意外な関係
しおりを挟む「ほれほれほれほれ~い♪」
「くっ……。」
舞を踊るように体を運び、その動きに合わせて繰り出される一撃必殺の一刀。蝶のように舞い、蜂のように刺す。という言葉があるが、彼女の場合蝶のように舞う……という部分はあっているが、蜂の部分はスズメバチという言葉が正しいだろう。
それほどに一撃が重いのだ。竹光でなければ今頃何度体が両断されているのかわからない。
「うむうむ、だいぶ動きは良くなってきた。だが、守りに徹していては意味がないぞ?そもそも天狐の舞には守りという概念は存在しないのだからな。足運びで避けて見せろ。」
「簡単に言ってくれるなマジでっ!!」
「簡単なことだからこそ言っているのだ。そもそも小僧にできぬことは最初から教えぬさ。」
すると彼女はぴたりと歩みを止めた。
「小僧、儂の目に狂いはない。アリスにはないものがお前にはある。だからこそ……黒の龍、おぬしもこの小僧を選んだのだろう?」
彼女がそう語りかけたその時、この場所においては珍しく大人しくしていたナナシが俺の魔力を使って姿を現した。
「我が主に憑いているといつから知っていた?」
「儂をなめるなよ黒龍。おぬしの気配は小僧がこのダンジョンに入った時から気づいていたわ。」
何やらただならぬ雰囲気を挟みながらお互いに視線をぶつけあう二人。そんな二人に俺はある疑問を投げかけた。
「二人は知り合い?」
その問いかけにはナナシが答えてくれた。
「昔にユノメルと我とこいつでこの世の最強を決めるべく争っていたのだ。まぁ結局のところ勝負がつくよりも先に世界が崩壊する危険があった故、休戦となったのだ。」
「あの頃は儂も若かった。故に野望も収まるところを知らなかった。まぁそれはおぬしらも同じことだろうがな。」
昔を懐かしむようにそう語るナナシ達。
「あれからすっかり熱も冷めてしまってな儂も後進の育成に尽力したのだ。この場所でな。」
その後進というのがおそらくは今のアリスのことなのだろう。
「なるほどな、突然この世界自体から貴様の気配が消えたのはそういうことだったのか。よもやこんなダンジョンの奥地に潜んでいたとは思わなんだ。」
「生憎、今儂はこのダンジョンの核になっている。ここから出ればこのダンジョンが崩壊してしまうのだ。だからこそ、おぬしのもとにアリスを幾度か送ってやったのだぞ?」
「どおりで強かったわけだ。貴様の剣を学んでいるのであれば人間の身であの力なのも納得だ。尤も、今は人間ではないようだが。」
「人間という短い寿命の生物では学べぬことできぬことも多くある。アリスの要望もあった故儂が妖狐にしてやったのだ。」
「お互い自分の後釜を育て上げるのに必死というわけだ。……それで?我のことを呼び出してただ話がしたかったわけではあるまい?」
「おぬしを呼び出したのはほかでもない、この小僧の動きを阻害しているものを取り除いてほしい。」
「ふむ、まぁそういう話だとは思っていたが、やはりそうだったか。」
ナナシは自分の顎を少し触ると、一つ溜息を吐いた。
「俺の動きを阻害してるってどういうことなんだ?」
「主、ここに来る前に主の体はまだ進化の途中だといったのを覚えているか?」
「あぁ、そのことなら覚えてるけど。」
「進化の途中で止まっているということは……そうだな主はまだ脱皮前の蛹のような状態ということなのだ。」
わかりやすく説明してくれたナナシだが、それが一体俺の体の何を引き起こしているのか、それが俺には理解できなかった。
「つまり、蛹から出れていない故、進化しようとする力と未だ閉じこもろうとする力が鬩ぎあい、主の肉体の動きを阻害しているというわけだ。」
「ってことは完全に進化すればそれがなくなるってわけか。」
「早い話はそういうことだな。ただ、今回の進化の過程を経た場合、主の体は完全に龍となるであろう。それでも良いのなら我が進化の手助けをする。」
そういったナナシに俺は一つ溜息を吐きながら言った。
「もともとあの果実を食った時から人間離れしてきてるんだ。もう躊躇いなんてないさ。やってくれ。」
「む、であれば始めよう。おい紫少々強力な結界を張ってくれ。」
「その名で呼ばれるのは久方ぶりだの。もとより頼んだのは儂だ最大限協力しよう。」
そしてパンと手を合わせる音と同時に俺のことを完全に囲う結界が張り巡らされた。
「では主よ、行くぞ?」
そういってナナシが俺の体に再び姿を戻したその瞬間、ぷつんと俺の意識が途切れ闇の中へと沈んだ。
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