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第1章 黄金林檎

第007話 魔物との戦い

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 ひたすらにレベリングをする毎日を過ごしていたある日、俺は自分の体に起きているある変化に気が付いた。

(なんかちょっと力が強くなったか?)

 特に筋トレなどをしていないのにも関わらず、妙に力が強くなったような気がする。少し前まで重いと感じていた物も、今は片手で運べるようになったし。これもレベルアップの恩恵なのか?

 ちなみに現在のレベルは12。ジャック曰くこの世界の常識に馴染んできているのもあってレベルが上がりやすくなってきているのだとか。
 確かにこの頃、アルマ様と手合わせをしているとレベルが一気に2上がることもあったし、彼の言っていることの信憑性は高い。

 レベルアップのことについて考えていると、機を見計らったかのように声が響く。

『レベルが1上昇しました。』

(おっ?またレベルが上がった。)

 これでレベルは13……。

 そういえば毎日のようにこうしてジャックやアルマ様と手合わせをしているが……いったいどのぐらいまでレベルを上げればドラゴンを倒せるようになるんだ?

 そんな疑問を抱きながらも、今日も無事にジャックとの手合わせを終えた。

 頬を伝う汗を拭うと、俺は汗一つかいていないジャックにその事について問いかけた。

「どのぐらいまでレベルを上げればドラゴンの相手をできるようになるんです?」

「そうですな……だいたいレベル20程になれば倒せると思いますぞ?」

「20ですか……。」

 今のレベルが13。毎日レベルが1上がると仮定すれば、あと一週間か。
 意外と道のりは近いな。

「それと、ドラゴンを相手取る前に多少魔物との実戦を積んでおくことをおすすめします。」

 ゴールが見えてモチベーションが上がっている俺に、ジャックはそんなアドバイスをくれた。

「魔物は普通の獣とは違って賢く、狡猾です。今のうちに魔物がどんな風に戦ってくるのか……一度経験しておくとドラゴンとの戦闘も楽になるかと。」

「なるほど……じゃあ城下町の外に出て魔物と戦ってくればいいですかね?」

「ホッホッホ、城下町の近くにいる魔物ではどんなに狡猾な手段を使ったとしてもカオル様には勝てないでしょう。」

「じゃあどうすれば?」

 すると、ジャックは地図を取り出し、城下町から少し離れたところに印をつけた。

「ここに行ってみてくだされ。」

「アルマ様の夕食までに帰ってこれますかね?」

「ホッホッホ、それはカオル様の実力次第かと。」

 実力次第……ね。言い方がまた意地の悪い。

 私用でアルマ様の夕食を遅らせるわけにはいかない。少しでも食事の時間が遅れるとご機嫌ななめになるからな。

「ならすぐに準備して行ってきます。」

「カオル様、行く前にこちらをお持ちくだされ。」

 すぐに向かおうとしてトレーニングルームを後にしようとすると、ジャックは俺に小さな皮袋を手渡してきた。

「これは?」

「収納の魔法が込められた袋です。仕留めた魔物はこれに入れて持って帰ってきてください。」

「こんな小さい袋に入るんですか?」

「ホッホッホ、問題はございません。」

 にわかには信じ難いが……ジャックが今まで嘘をついたことはない。信じよう。

「……わかりました。じゃあ行ってきます。」

「どうぞ。」

 妙に彼の言葉が頭に引っかかるが、時間も惜しいので俺は特に気にすることもなく、ジャックの示した地図の場所へと向かうのだった。





 そして魔王城をでて、城下町を抜けた俺は地図の印の近くまでやって来ていた。

「地図だと……この森の奥か。」

 街道から少し離れた森の奥にジャックの印はつけられていた。
 この森は城下町に住む人達からはと呼ばれている。そんな名前がつけられた理由は、この森に生えている木々の葉は全て真っ黒に染まっているからという理由だ。
 どうして葉が黒いのかは未だに謎らしいが……不気味であることに変わりはない。

「……行くか。」

 覚悟を決めると、自然にできたであろう獣道に俺は足を踏み入れた。

 森の中は薄暗く、辺りの景色が認識し辛い。その上、背の高い草が生い茂っていて魔物が身を隠すには絶好の場所になっている。
 ジャックは魔物は賢く、狡猾だと言っていた。ならばこういう背の高い草の根から奇襲を仕掛けてきてもおかしくない。

 奇襲を警戒しながら進んでいると、突然パッシブスキルの危険予知が発動した。

「ん!?」

 突然時間を止めた辺りの景色に、危険予知が発動したことを悟ると、俺は急いで辺りを見渡す。

 しかし、辺りにはそれといって危険そうなものは見当たらない。

「怪しいのは……やっぱりこの草むらか。」

 どんな危険が迫っているのか、詳細にわからなかったので俺は様子を見るために一歩後ろに下がった。

 すると、止まっていた時が動きだす……。それと同時に、先ほどまで俺がいた場所の真横の草むらからキラリと光る何かが、ヒュンと風を切って通りすぎていった。

「やっぱり草むらか。」

 何かが通りすぎていった直後、僅かに揺れた草むらの方へと向かって、俺は足元にあった石を全力で投げつけた。
 すると草むらから短い悲鳴が響いた。

「ギャアッ――――――。」

 その悲鳴が聞こえた方へと草むらを掻き分けて進んでみると、そこには赤い帽子を被った魔物が倒れていた。
 その魔物の手には吹き矢に使われる細長い筒のようなものが握られている。

「なるほど、さっきのは吹き矢か。」

 吹き矢は、弓矢と違い威力は格段に落ちるものの、隠密性に長けた立派な武器だ。昔はこの細い矢に毒を塗って使ったらしいが……。

 俺は吹き矢の筒の横に転がっていた、細い矢をつまみ上げてよく観察してみた。すると、矢には何かの液体が塗ってあるのがわかる。
 この世界の吹き矢もあちらの世界と変わらず、こういう風に毒のような何かを塗って使う物のようだ。

「ジャックさんの言っていた意味がよくわかった。確かにこいつは狡猾で危険だ。」
 
 そして俺は彼から貰った皮袋を手に取ると、その魔物に向かって近付けた。すると、まるで吸い込まれるようにその魔物は袋の中へと吸い込まれていった。

「これは便利だな。」

 城下町に食材を買いに行く時にもこれを貸してくれないだろうか。帰ったら聞いてみよう。

「それにしても、森に入ってすぐにコレか……。この地図の場所には何がいるんだ?」

 より一層気を引き締めて、俺は森の奥へと歩みを進めるのだった。
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