6 / 350
第1章 黄金林檎
第006話 称号
しおりを挟む
アルマ様の黄金林檎を入手するためにそれから毎日、俺のレベリングと称してアルマ様との命を懸けたお手合わせが始まった。
初日にレベルアップした時に会得した危険予知というスキルのおかげで、喰らえば死ぬような攻撃は避けることができる。だが、攻撃を避ければ避けるほどアルマ様は不機嫌になっていく。
「む~、カオルに全然攻撃当たんない。なんでなんで~っ!!」
アルマ様が不機嫌になればなるほど、攻撃は苛烈になり俺のスキルの危険予知が精度を増していく。
(ふ~っ……危ない危ない。怒ったアルマ様の攻撃はやばいんだよな。)
アルマ様の機嫌をとるためにわざと攻撃に当たるわけにもいかず、ひたすらに回避に専念していると頭の中に何度目かの例の声が響いた。
『レベルが1上昇しました。またパッシブスキルである危険予知の熟練度が上昇したため、新たなスキル受け身を習得しました。』
(受け身?また新しいスキルか。)
そう声が響いた瞬間だった。いつものように静止していた世界が突然動き始め、アルマ様の小さな拳がこちらに向かってくる。
「はっ!?」
驚いたのも束の間、アルマ様の小さな拳が俺の腹にめり込んだ。
「うっ!!」
「あっ♪」
俺の視界に最後に鮮明に映ったのはアルマ様の喜ぶ表情だった。それから先はもう何が起こったのかわからなかった。視界が急にグンと加速したかと思えば、その次の瞬間には背中が思い切り壁に打ち付けられ、視界がチカチカと暗転し、一瞬呼吸ができなくなった。
「かはっ──!!」
「やったやった!!今日はアルマの勝ち~♪……ってあれ?カオル大丈夫?」
壁に打ち付けられ崩れ落ちた俺に向かってアルマ様が心配そうに歩み寄ってきた。
「な、なんとか……無事です。」
幸いなことにも、アルマ様の攻撃をもろに喰らったのにも関わらず背中が鈍く痛い程度で済んでいる。これも先ほど会得したスキルのおかげなのだろうか……。
「えへへ~よかった~。カオルが死んじゃったら美味しいごはんもお菓子も食べられないもんね~。」
にこりとアルマ様は笑うと、俺の手を引っ張って立ち上がらせてくれた。
「じゃあ今日はアルマが勝ったから、おっきいケーキお願いね~♪」
鼻歌を口ずさみながらアルマ様はトレーニングルームを後にした。そして彼女がいなくなると、すかさず部屋の隅で見守っていたジャックがこちらに駆け寄ってきた。
「カオル様大丈夫ですかな?」
「ごほっ!!ちょっと背中を打ち付けたぐらいです。」
「よもや魔王様の攻撃を喰らって、生きておいでとは……レベルに見合わない耐久力ですな。」
ホッホッホと笑いながらジャックはそう評価した。
マジで笑い事じゃないんだけどな……。スキルってのがなかったら普通に死んでるぞ。
そう心の中でツッコミを入れていると、再び声が響く。
『新たな称号を入手しました。』
「新たな称号?」
聞こえてきた声に思わずそう聞き返すと、ジャックが驚きの声を上げた。
「むっ!?称号ですと!?いったい何の称号を手に入れたのです!?」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください。」
食い気味に問いかけてくるジャック。彼に静止の言葉を投げかけていると声が響く。
『あなたの新たな称号は魔王のご機嫌取りです。称号効果によって防御力ステータスにボーナスが与えられます。また自然治癒能力が大幅に増加します。』
「……なんか魔王のご機嫌取りって称号になりました。」
「ホッホッホ、なるほど。」
それを聞いたジャックはクスリと笑った。そんな彼に俺は称号について問いかける。
「それでこの称号っていうのはいったい?」
「称号というのは何らかの条件を満たした際に与えられる……いわば実績のようなものです。おそらくカオル様が、魔王様の攻撃を喰らう事で機嫌をとったので与えられたのかと。」
「へぇ……ちなみに質問なんですけど、ジャックさんにも称号があったりするんですか?」
ふと気になったので問いかけてみた。すると彼は自慢げに胸を張って答えてくれた。
「もちろん、私には魔王の執事という称号がございますよ。」
あぁやっぱり……。まぁそんなんだろうなとは思っていた。だがそれは彼にとって名誉なことなのだろう。とても誇らしそうに語っているからな。
そうして彼が自分の称号について熱く語っていると、不意にハッと我を取り戻した。
「おっと、少し熱くなりすぎましたな。長話を聞かせてしまって申し訳ありません。カオル様にはこれから魔王様にケーキを作るという大事なお仕事が残っておりましたな。」
「大きなケーキって注文が入ってますからね。」
「ホッホッホ……どうか、よろしくお願いいたしますぞ。カオル様────。」
ぺこりとお辞儀をしたジャックに見送られ、トレーニングルームを後にした俺は厨房へと入ると、せっせとアルマ様用の大きなイチゴのケーキを作るのだった。
ちなみになぜ数ある果物ののケーキの中から、イチゴのケーキを選んだかと言うと、アルマ様の大好物がイチゴだからという理由だ。だがここで気を付けなければならないことが一つ……。イチゴが好きでも、アルマ様は酸っぱいイチゴが嫌いだ。だからケーキに盛り付ける際には細心の注意を払って盛り付けている。機嫌を損ねられても困るからな。
今思えばこういうところでも機嫌を伺いながらやっているからこんな称号がついてしまったのかもしれない。
そしてケーキを作り終えた俺はアルマ様の部屋の前へとそれを運んだ。すると、ちょうどジャックが部屋から出てきた。
「おぉ、もう完成したのですかな?」
「はい、お願いします。」
「承りました。では……。」
ジャックはケーキを受けとると、再び部屋の中へと入っていく。すると、中からアルマ様の喜ぶ声が聞こえてきた。
「ケーキ来たっ!!カオル早~い♪それにアルマの大好きなイチゴのケーキ、えへへ、いっただっきま~す♪」
喜んでくれて何よりだ。後は……味の感想を――――。
聞き耳をたてていると、再びアルマ様の声が聞こえてきた。
「ん~~~~っ!!」
聞こえてきたのは何かを堪えるようなそんな声。
まさかイチゴが酸っぱかったか!?と、不安になったのも束の間……。
「おいし~っ!!」
そうはしゃぐ声にホッと胸を撫で下ろす。
「美味しい……か。よかった。」
美味しいと喜ぶ言葉は、何度聞いても料理人冥利につきるものだ。
本当ならばどんな表情で食べているのか、間近で眺めたいが……それは恥ずかしいとアルマ様が許可してくれないからな。
今は言葉を聞くだけで我慢しておこう。
初日にレベルアップした時に会得した危険予知というスキルのおかげで、喰らえば死ぬような攻撃は避けることができる。だが、攻撃を避ければ避けるほどアルマ様は不機嫌になっていく。
「む~、カオルに全然攻撃当たんない。なんでなんで~っ!!」
アルマ様が不機嫌になればなるほど、攻撃は苛烈になり俺のスキルの危険予知が精度を増していく。
(ふ~っ……危ない危ない。怒ったアルマ様の攻撃はやばいんだよな。)
アルマ様の機嫌をとるためにわざと攻撃に当たるわけにもいかず、ひたすらに回避に専念していると頭の中に何度目かの例の声が響いた。
『レベルが1上昇しました。またパッシブスキルである危険予知の熟練度が上昇したため、新たなスキル受け身を習得しました。』
(受け身?また新しいスキルか。)
そう声が響いた瞬間だった。いつものように静止していた世界が突然動き始め、アルマ様の小さな拳がこちらに向かってくる。
「はっ!?」
驚いたのも束の間、アルマ様の小さな拳が俺の腹にめり込んだ。
「うっ!!」
「あっ♪」
俺の視界に最後に鮮明に映ったのはアルマ様の喜ぶ表情だった。それから先はもう何が起こったのかわからなかった。視界が急にグンと加速したかと思えば、その次の瞬間には背中が思い切り壁に打ち付けられ、視界がチカチカと暗転し、一瞬呼吸ができなくなった。
「かはっ──!!」
「やったやった!!今日はアルマの勝ち~♪……ってあれ?カオル大丈夫?」
壁に打ち付けられ崩れ落ちた俺に向かってアルマ様が心配そうに歩み寄ってきた。
「な、なんとか……無事です。」
幸いなことにも、アルマ様の攻撃をもろに喰らったのにも関わらず背中が鈍く痛い程度で済んでいる。これも先ほど会得したスキルのおかげなのだろうか……。
「えへへ~よかった~。カオルが死んじゃったら美味しいごはんもお菓子も食べられないもんね~。」
にこりとアルマ様は笑うと、俺の手を引っ張って立ち上がらせてくれた。
「じゃあ今日はアルマが勝ったから、おっきいケーキお願いね~♪」
鼻歌を口ずさみながらアルマ様はトレーニングルームを後にした。そして彼女がいなくなると、すかさず部屋の隅で見守っていたジャックがこちらに駆け寄ってきた。
「カオル様大丈夫ですかな?」
「ごほっ!!ちょっと背中を打ち付けたぐらいです。」
「よもや魔王様の攻撃を喰らって、生きておいでとは……レベルに見合わない耐久力ですな。」
ホッホッホと笑いながらジャックはそう評価した。
マジで笑い事じゃないんだけどな……。スキルってのがなかったら普通に死んでるぞ。
そう心の中でツッコミを入れていると、再び声が響く。
『新たな称号を入手しました。』
「新たな称号?」
聞こえてきた声に思わずそう聞き返すと、ジャックが驚きの声を上げた。
「むっ!?称号ですと!?いったい何の称号を手に入れたのです!?」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください。」
食い気味に問いかけてくるジャック。彼に静止の言葉を投げかけていると声が響く。
『あなたの新たな称号は魔王のご機嫌取りです。称号効果によって防御力ステータスにボーナスが与えられます。また自然治癒能力が大幅に増加します。』
「……なんか魔王のご機嫌取りって称号になりました。」
「ホッホッホ、なるほど。」
それを聞いたジャックはクスリと笑った。そんな彼に俺は称号について問いかける。
「それでこの称号っていうのはいったい?」
「称号というのは何らかの条件を満たした際に与えられる……いわば実績のようなものです。おそらくカオル様が、魔王様の攻撃を喰らう事で機嫌をとったので与えられたのかと。」
「へぇ……ちなみに質問なんですけど、ジャックさんにも称号があったりするんですか?」
ふと気になったので問いかけてみた。すると彼は自慢げに胸を張って答えてくれた。
「もちろん、私には魔王の執事という称号がございますよ。」
あぁやっぱり……。まぁそんなんだろうなとは思っていた。だがそれは彼にとって名誉なことなのだろう。とても誇らしそうに語っているからな。
そうして彼が自分の称号について熱く語っていると、不意にハッと我を取り戻した。
「おっと、少し熱くなりすぎましたな。長話を聞かせてしまって申し訳ありません。カオル様にはこれから魔王様にケーキを作るという大事なお仕事が残っておりましたな。」
「大きなケーキって注文が入ってますからね。」
「ホッホッホ……どうか、よろしくお願いいたしますぞ。カオル様────。」
ぺこりとお辞儀をしたジャックに見送られ、トレーニングルームを後にした俺は厨房へと入ると、せっせとアルマ様用の大きなイチゴのケーキを作るのだった。
ちなみになぜ数ある果物ののケーキの中から、イチゴのケーキを選んだかと言うと、アルマ様の大好物がイチゴだからという理由だ。だがここで気を付けなければならないことが一つ……。イチゴが好きでも、アルマ様は酸っぱいイチゴが嫌いだ。だからケーキに盛り付ける際には細心の注意を払って盛り付けている。機嫌を損ねられても困るからな。
今思えばこういうところでも機嫌を伺いながらやっているからこんな称号がついてしまったのかもしれない。
そしてケーキを作り終えた俺はアルマ様の部屋の前へとそれを運んだ。すると、ちょうどジャックが部屋から出てきた。
「おぉ、もう完成したのですかな?」
「はい、お願いします。」
「承りました。では……。」
ジャックはケーキを受けとると、再び部屋の中へと入っていく。すると、中からアルマ様の喜ぶ声が聞こえてきた。
「ケーキ来たっ!!カオル早~い♪それにアルマの大好きなイチゴのケーキ、えへへ、いっただっきま~す♪」
喜んでくれて何よりだ。後は……味の感想を――――。
聞き耳をたてていると、再びアルマ様の声が聞こえてきた。
「ん~~~~っ!!」
聞こえてきたのは何かを堪えるようなそんな声。
まさかイチゴが酸っぱかったか!?と、不安になったのも束の間……。
「おいし~っ!!」
そうはしゃぐ声にホッと胸を撫で下ろす。
「美味しい……か。よかった。」
美味しいと喜ぶ言葉は、何度聞いても料理人冥利につきるものだ。
本当ならばどんな表情で食べているのか、間近で眺めたいが……それは恥ずかしいとアルマ様が許可してくれないからな。
今は言葉を聞くだけで我慢しておこう。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる