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第1章 黄金林檎

第008話 目的地にあったもの

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 地図に示された場所へと向かって歩みを進めていると、目の前に開けた場所が見えてきた。地図の場所的にもあそこが目的地のようだ。

「ふぅ、ようやく目的地か。さっきから魔物の数が多くなってきて大変だったんだ。」

 ここに近づくにつれて、魔物の襲撃が激しくなり、その数もまた相乗的に増えていた。とはいえ魔物の攻撃パターンがほぼ変わらなかったから問題なく対処はできたのだが、それでも数が多いと疲れるものだ。

「それで、ここにはいったい何があるんだ?」

 奥を覗いてみると、小さな集落らしきものがぽつぽつと見える。そこには赤い帽子をかぶった魔物が何匹も出入りしている。どうやら彼らの集落のようだ。

 そして彼らの集落の中心には大きな一本の木が祀られていた。よく見てみると、その木には見たことのない果実が実っている。

「あれ食えたりしないのか?もし美味しいなら持ち帰ってもいいな。」

 アベル様へのお土産にもなるし、食べられるなら料理の幅が広がる。

 だが、あの木の周りには魔物が蔓延っているし、見つからずに近づくのは無理そうだ。それにジャックは俺に実戦経験を積んでほしいからここを教えてくれたんだ。ならば、戦わないという選択肢はない。

 ふぅと一つ息を吐き出すと、俺は草むらから出て集落へとまっすぐ歩いていく。すると、こっちに気が付いた魔物が様々な武器を片手に集まってきた。

「ギギャッ!!」

「ギャッギャッ!!」

「はは、予想以上に多いな。全部倒したらレベルアップするか?」

 俺を取り囲んだ魔物は、まるで弱い獲物を弄ぶような下卑た笑みを浮かべている。

「大勢で取り囲んでるから余裕か?そういうとこは人間と変わんないな。」

 そう皮肉を言った瞬間、危険予知によって一時的に時間の流れが止まり、無数の弓矢と吹き矢が飛んできているのが目に入った。
 弓矢の間を潜り抜け、魔物の包囲から抜け出し背後に回ると時間が動き始めた。

「ギャッ!?」

「グゲッ!!」

 俺という標的を失った弓矢と吹き矢は、先ほどまで俺のことを取り囲んでいた魔物たちに牙をむき、味方の放った攻撃で魔物がバタバタと倒れていく。

 味方の放った攻撃によって同士討ちになったことで魔物たちに混乱が走り、大きな隙ができた。

「俺はこっちだぞッ!!」

「ギャァッ!!」

 ざわつく魔物たちの背後から襲い掛かり、状況が理解できず抵抗できない魔物たちを次々と制圧していく。統制がとれなくなった集団は脆いもので、あっという間に魔物の骸の山が出来上がった。

「ふぅ、これで全部か。」

 アルマ様やジャックに比べれば弱いものだ。まぁ、比べる相手が間違っているのかもしれないが……。

 一息ついていると、声が響いた。

『レベルが2上昇しました。レベルが15になったため新たなステータスを解放します。』

「レベルアップしたみたいだな。それと今度は……魔力の開放?」

 魔力は、この世界の魔法を使うための力だって以前ジャックが言っていたのを覚えている。

 ということは────。

「いよいよ俺も魔法を使えるようになったってことか!!」

 これは嬉しい収穫だ。

 魔法が使える世界に来たのなら、魔法を夢見るのが人の性というものだ。後でジャックに魔法を教えてもらおう。俺も手から炎とか出したい!!

「っと、浮かれてる場合じゃないな。早いとこ、この魔物をしまわないと。」

 帰りの時間を考えると少しギリギリになりそうだし、急ごう。

 大量の魔物を袋に詰め込んだ俺は、いよいよ気になっていた魔物の集落の中心にある大木へと足を運んだ。そして改めて近くで実っている果物を眺めてみるが、やはり見たことのない果物だった。

「この世界に来てからいろんな食材を見てきたけど、こんな果物は見たことないな。もしかして珍しいものなのか?」

 真っ赤なその果実はなかなかどうして見るものを誘うような見た目をしている。アルマ様に提供する前に一先ず味見してみたほうがよさそうだな。

 一番近くに実っていた真っ赤な果実をもぎ取ると、俺は勢いよくそれに嚙り付いた。すると、シャクッという小気味の良い食感と、溢れ出る甘い果汁が口の中に広がった。

「ん!?美味い……美味いなこれ。」

 味を例えるなら何だろう……一番近いのはスイカ?だろうか。

「うんうん、これならアルマ様のデザートにも使える。なんならこのままカットして出してもいいな。」

 その果実を口の中に放り込んで飲み込んだ瞬間……レベルアップの時と同じ声が響いた。

『力の果実の摂取を確認しました。筋力値にボーナスステータスを付与します。』

「力の果実?」

 声が響いたその瞬間、俺は体の内側から力が溢れてくるのを感じた。

「おぉっ!?な、なんだこれはっ……!!」

 溢れだしてきた力が馴染んでくると、体がどんどん熱くなる。

 そしてようやく体の奥底から湧き出ていた力の奔流が収まると、以前とは比較にならないほど、俺の力が強くなっていた。

「ふぅ~っ……!!これは凄いな、こんな果実もこの世界には存在するのか。」

 食べるだけで力を大幅に引き上げてくれる果実。この木に実っているやつを全て食したら……いったいどうなるんだ?

 好奇心の赴くまま貪りつきたいが、一つ一つ食べている時間はない。アルマ様の夕食の時間が近づいている。

「ひとまず全部袋に詰めていくか。」

 俺は力の果実が実る木に登ると、実っていた力の果実を収穫していった。

 そして最後の一つをもぎ取ったその時だった。

「これで最後っと。……お?な、なんだ!?」

 突然、力の果実を実らせていた木が急速に枯れ始めたのだ。葉が全て地面に落ちたかと思えば、あっという間に木全体がボロボロになって崩れ落ちてしまった。

「まさかこれを採ったせい……なのか?」

 恐らくはそれが理由だろうが……詳しいことはわからない。帰ったらジャックに確認だ。

 帰ったらジャックに聞くことが山ほどできたな。

「……とにかく今は帰ろう。時間がない。」

 大量の魔物や、力の果実が入った袋を落ちないようにしっかりと腰に巻き付けると、俺は思い切りじめんを踏んで走り出した。

「おぉっ!?速っ!!」

 力の果実によって強化された肉体は、走るスピードも段違いに上がっていた。

 これなら来るときの半分位の時間で森を抜けられそうだ。

「よし、これなら間に合う!!」

 走る俺が速すぎるのか、魔物も一切手を出してこない。

 魔物が襲ってこないのを良いことに、俺は更にスピードを上げて、森を駆け抜けるのだった。
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