嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)

第3-1節:貴族の振る舞い

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 夕食の時間となり、大食堂には私を含めていつものメンバーのほか、ノエル様やキールさん、スティール家に仕える上官の家臣さんたち数人が集まった。

 ただし、スピーナさんとポプラは席が足りないということやメイドという立場を考慮して給仕に専念している。

 フィルザード家だけの食事ならいつものように同席していても問題ないし、私は気にする必要なんてないと思うんだけど、社交界における饗応きょうおうの場という性質だとそういうわけにはいかないらしい。

 また、本来なら席の並びも『リカルド・私・ノエル様』という順になって私がノエル様のお相手をするはずのところ、ノエル様の意向を反映して『リカルド・ノエル様・私』となっているのだった。

 当然、その配置となるとノエル様は食事が始まる瞬間からずっと私に背を向けっぱなしでリカルドとだけ話をしている。彼が楽しく食事の時間を過ごしてくれているなら、私としてはそれでも構わないけどね……。

 それに彼の向こう側に座っているリカルドが適度にチラチラと私へ視線を向けて気にかけてくれているのが分かるから、心が乱れることもない。

 こうして夕食は和やかな雰囲気の中で進んでいき、運ばれてくる料理の種類が半ばに差し掛かった時のことだった。

 不意にリカルドがノエル様の目の前にあるいくつかのお皿や器を眺めて口を開く。

「ノエル、相変わらず好き嫌いが直っていないようだな。野菜ばかり残して……」

「いえ、たまたまですよ。それにさっきビスケットをたくさん食べてしまったので、あまりお腹が減っていなくて」

「僕はお茶の時にビスケットを食べ過ぎるなと注意をしただろう?」

「……野菜は食べたくないんです。好きなものだけ食べていれば、それでいいじゃないですか」

かたよった食事は健康にも良くないぞ。ほかの者たちの器を見てみろ。残さず綺麗きれいに食べているじゃないか」

 そう指摘を受けたノエル様は周囲を見回した。

 確かにテーブルの上に置かれている器は、彼のものを除いてほとんどからになっている。みんな公務で忙しく動いていたこともあってお腹がペコペコだろうからそれも当然だけど。そもそもスピーナさんの作る料理は美味しいし。

 そんな中、周囲の様子を眺めていた私はノエル様と不意に視線が合ってしまう。

 すると彼はばつの悪さも相まって途端に不機嫌になり、私に突っかかってくる。

「……なんだ、そのさげすむような目は? 貴様、何か言いたそうだな?」

「いえ、別に」

「好き嫌いが多くてお子様だとか思ってるんだろう? バカにするな!」

「私は何も言っていませんが……」

「言ってなくても顔に書いてある。俺は不愉快ふゆかいだ」

 ノエル様はその場で立ち上がり、テーブルを激しく叩いた。

 置かれている器がガチャンと音を立てて揺れ、そのひとつに残っているスープが波立ってわずかにこぼれる。

 私はこのまま反論をせず、冷静に受け流すスタンスを続けようかとも思った。ただ、放置することで理不尽な振る舞いがエスカレートしていくのは良くないし、彼のためにもならない。

 だから私は目をキッと見開いて彼を真っ直ぐ見つめつつ、あくまでも冷静さを保った状態で彼に苦言をていすることにする。

「でしたらノエル様に申し上げますが、食べ物を粗末にするのは如何いかがかと存じます。いずれ領主になられる御方ならば、その考え方をあらためるべきです」

「な、なんだとっ!? そもそもこの食材は俺がヴァーランドから持ち込んだものだ。食べようが残そうが自由だろう」

「食べ物は領民が苦労して育てたり採取したりしたもの。そして領民の中には貧しさや悪天候による不作などにより、満足に食べられない者もいます。だからこそ領主は食べ物や領民、そして調理してくれた者への感謝を忘れてはならないのです」

「そんなのっ、俺の知ったことか!」

「貴族や貴族に仕える者は、領民によって収められた税や食べ物によって暮らしています。領民に『生かされている』のです。私たちはその意識を常に持っておかねばなりません」

「うるさいっ! 平民上がりのクセに俺に説教をするなっ!」

「――っ!?」

 ノエル様が激昂げきこうして叫んだ直後、私の額に痛みと衝撃が広がった。さらに顔全体に冷たい感触が伝わり、雫のしたたりを感じるようになる。



 私の髪や顔、ドレスなどからただよってくる調味料や様々な食材の匂い――。


 額にはジワジワとした鈍痛が残っている。足下の床では木製の器がカランカランと音を立てて回転し、その動きは程なく落ち着いて沈黙する。

 一瞬、何が起きたのか分からなかったけど、すぐに私はノエル様から冷製スープの入った器を顔に向かって投げつけられたのだと理解した。

 呆然ぼうぜんとして視線を向けると、彼はワナワナと唇を震わせ、肩で息をしながらこちらをにらんでいる。周りのみんなは一様に目を丸くしたまま言葉を失っている。


(つづく……)
 
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