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第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)
第2-7節:取り残されたシャロン
しおりを挟むさすが経験豊富なスピーナさん。ノエル様のピリピリとした態度や外交の場という性質、そして最終的には許容するであろうリカルドや私の性格を考えて、この場は彼を立てておくのがベターだと結論づけたらしい。
ちなみにノエル様の言う『ほかの者』とは、私のことを指しているのだと思う。だって彼の顔にそう書いてあるから。リカルドを独り占めできなくなった元凶として、よっぽど私が気に食わないんだろうな。
「お、おい、ノエル? お茶ならスピーナじゃなくてもシャ――」
「そうだっ、リカルド兄様! シーファ姉様はお元気でいらっしゃいますか? あとでご挨拶に伺いたいのですが」
「姉上はそれなりに元気だが、やはり外部の人間に会わせるのはリスクが大きいからな。お前が姉上を気にかけていたということを、あとで伝えておくよ」
「そうですか……。お体のことを考えれば仕方ありませんよね。分かりました、シーファ姉様にはよろしくお伝えください。それにしても残念です。またシーファ姉様のヴァイオリンを聴きたかったのに」
「あっ、それなら代わりにシャロンのオカリナを聴いてみるのはどうだ? 彼女の演奏も味わいがあって癒されるぞ。お茶の時に演奏してもらうのも――」
「リカルド兄様! そろそろ貴賓室へ移動しましょう! お話したいことがたくさんあるんですっ!」
「そ、そうか……うん……」
ノエル様の強引かつ怒濤の勢いに押され、とうとうリカルドは静かに頷くだけになってしまった。事ここに至っては、さすがに私のことに触れるのを諦めるしかないと思ったようだ。
そして彼は私の方をチラッと見て、申し訳なさそうな顔でわずかに頭を下げる。
それに対して私は『ん、分かってる』という気持ちを込めながら小さく頷く。
「さ、行きましょう、リカルド兄様」
「分かった分かった。そんなに腕を引っ張るな。――ジョセフ、キール。あとのことは任せたぞ」
リカルドはそう言い残すと、はしゃぐノエル様に腕を引っ張られながら屋敷内へ入っていったのだった。彼は彼で気苦労が絶えないかもしれない。あのパワーには圧倒されてしまうもん。
ちなみにフィルザード家とスティール家の間で交わされる書簡のやり取りなど、実務的な公務に関しては明日以降に行われる予定となっている。
もちろん、そうした会議のメンバーには私も入っているから、しばらくは息をつく間もない日々が続くことだろう。
ただ、今日のこのあとに関しては何も指示されていない。
というか、本来はリカルドと一緒に貴賓室でノエル様のおもてなしをすることになっていたんだけど……。
だからおそらく夕食の時までは自由にしていて良いのだとは思う。
それならこのまま自室で何もせずに過ごすよりはみんなのお役に立ちたいということで、私はジョセフに歩み寄って声をかけてみることにする。
「ジョセフ、私にも何かお手伝いできることはありますか?」
「お気遣いありがとうございます。ですがシャロン様のお手を煩わせるようなことにならないよう、全て段取りは付けてあります。ご安心ください」
「そうですか……。予定外に手が空いてしまったので、何かあればと思ったのですが」
「あはは、なるほど。確かにあのノエル様のご様子を考えれば、シャロン様は貴賓室に立ち入らない方がよろしいでしょうな。それでしたら、お客様を迎え入れた時の対応を私の横で見学なさってはいかがでしょうか?」
「あっ! はい、そうします! 今後のためにもなりそうですしね! でももし何かやることが出来たら、遠慮なく言ってくださいね?」
「ふふっ、御意のままに」
こうして私はジョセフの横で彼の仕事を見学をさせてもらうことにした。
その後、彼はキールさんとともにそれぞれフィルザード家とスティール家の兵士さんたちに指示を出して、警備人員の再配置や荷下ろしなどを進めていったのだった。
それはまさに阿吽の呼吸で、普段から一緒に仕事をしているかのような連携具合。さすがベテランの宰相というだけあって、指示の仕方も対応も判断も見事だと言わざるを得ない。
私もしっかり勉強をして、いずれは少しでも彼のサポートが出来るようになりたいな……。
ちなみにノエル様がフィルザードに滞在している間、キールさんを含めたスティール家の上官の家臣さんたちは屋敷内のゲストルームを使用することになっている。
そのほかの兵士さんや屋敷の警備を担当しているフィルザードの兵士さんは、庭の空いているスペースで共同の野営をするとのこと。これは両家の兵士さんの交流を促すと同時に、有事の際の訓練を兼ねているらしい。
普段は静かなお屋敷も、しばらくは賑やかになりそうだ。
(つづく……)
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