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『特別な人』83

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 私は翌朝、独りで皆より一足先にホテルを後にした。


 星野が一緒に帰ると申し出てくれたけど、折角なのにもったいないから
宮内さんとちゃんと楽しんでから帰ってほしいと告げて自分だけで
帰路についた。


 馬鹿だなぁ~、雨宮さんとのことが知られても柳井さんに振られるなんて
ことは思ってもみなくて、私っておめでたい女だわ。笑えるー。


 こういうの過大評価? 自信過剰っていうんだったっけ?



 私は人から見ればとんでもないことをやらかしているにも係わらず、
自分の手から抜け落ちて行くのはふたつの内のひとつだけと考えていた。



 当初、柳井さんとの結婚を夢見て、雨宮さんとのことをいつ切ろうかって
考えてた。



 だけど頼みの綱の柳井さんから迷いなくいとも簡単にお別れを言い出され、
ぼーっとした頭でじゃあこのままやっぱり雨宮さんと結婚するのだと単純に
考えて帰宅した。


 柳井さんも言ってたようにまずは謝罪しないとね。

 すぐに連絡を入れて謝罪しないとと思うものの、どうしても
連絡を入れることができなかった。


 あんなに私にご執心だった柳井さんから簡単に手放すと言われ、
私はとても落胆したのだ。


 好きになった人から、好きだと言ってきた人からそんな風に扱われ、
悲しくて惨めで……人の気持ちのなんと脆いこと。



 自分の悲しさに浸り、雨宮さんのことまで私は頭が回らなかった。


 酷いことを仕出かして傷つけた人に思い遣りも持てない自己中な人間、
それが私だった。


 私は自分の汚さもこの時知ってしまった。


 もし柳井さんが普通の一般家庭の人だったらどうだっただろうって
考えてしまったせい。


 雨宮さんとの婚約を破棄してまで付き合いたいとは思わなかっただろうと、 
 そう結論づけたから。



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