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『特別な人』72
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ただ……気のせいか失敗が続いてから、以前よりも話し掛けられる回数が
減ったかもしれない。
そう思い始めると居てもたっても居られなくて、夜になると涙が零れた。
毎日異性と一緒に仕事をするなんて初めてのことで、しかもその相手が
自分から見ると神々しくて眩しい存在へと時間と共に大きく変化してしまい、
そんな自分の感情を持て余しオロオロしてしまうばかり。
眩しい存在だと認識しているくせに親しくなりたいという想いが日に日に
強くなり、反して現実はというと、彼とはお茶を誘われるどころか
ちょっとした雑談さえ交わせてなくて寂しさは募るばかり。
そんな風に悲しい一人相撲をしていた槇原は妄想して苦しくなる毎日を
手放す決心をするのだった。
家族の病気を理由に辞職を申し出て一週間後に逃げるようにして辞めた。
「相馬さん、急に辞めることになってすみません」
「あぁ、大丈夫だから。
派遣会社から次の人をすぐに紹介してもらえるみたいだから、心配しないで。
おかあさんだったかな? 看病大変だろうけど頑張って下さい。
また派遣業務に戻ったら一緒に働く機会があるかもしれませんね。
その時はまたよろしく。今日までありがとうございました」
「あ、こちらこそお世話になり、ありがとうございました」
最後までやさしい相馬に、槇原の胸はやさしくされたことへのうれしさが一割、
自分らしさを発揮できないまま去って行くことへの寂しさが九割だった。
◇ ◇ ◇ ◇
こうして相馬は補佐してくれる人を本格的な夏が来る前に失った。
ただ……気のせいか失敗が続いてから、以前よりも話し掛けられる回数が
減ったかもしれない。
そう思い始めると居てもたっても居られなくて、夜になると涙が零れた。
毎日異性と一緒に仕事をするなんて初めてのことで、しかもその相手が
自分から見ると神々しくて眩しい存在へと時間と共に大きく変化してしまい、
そんな自分の感情を持て余しオロオロしてしまうばかり。
眩しい存在だと認識しているくせに親しくなりたいという想いが日に日に
強くなり、反して現実はというと、彼とはお茶を誘われるどころか
ちょっとした雑談さえ交わせてなくて寂しさは募るばかり。
そんな風に悲しい一人相撲をしていた槇原は妄想して苦しくなる毎日を
手放す決心をするのだった。
家族の病気を理由に辞職を申し出て一週間後に逃げるようにして辞めた。
「相馬さん、急に辞めることになってすみません」
「あぁ、大丈夫だから。
派遣会社から次の人をすぐに紹介してもらえるみたいだから、心配しないで。
おかあさんだったかな? 看病大変だろうけど頑張って下さい。
また派遣業務に戻ったら一緒に働く機会があるかもしれませんね。
その時はまたよろしく。今日までありがとうございました」
「あ、こちらこそお世話になり、ありがとうございました」
最後までやさしい相馬に、槇原の胸はやさしくされたことへのうれしさが一割、
自分らしさを発揮できないまま去って行くことへの寂しさが九割だった。
◇ ◇ ◇ ◇
こうして相馬は補佐してくれる人を本格的な夏が来る前に失った。
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