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『特別な人』52

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「関係者に謝罪したって言ってたけども本丸のその花さんって人にも
ちゃんと謝罪したの?」


「それが、会えなかったんです。
 会わせてもらえなかったというほうが正しいかも。

 ちらっと精神を病んだと聞いてるので今更私のことなんて
耳に入れたくなかったのかも。

 私ってほんとに最低なことをしてるんです。

 でも周囲から幾ら非難されても以前は分からなかったの、
分かってなかった。

 花さんが実際夢の中で私が感じたような苦しみと悲しみを
体験していたとしたら、私は花さんの心を殺したも同然なんですよね。

 夢を見た日は本当に死にたくなる。

 私、夢を見るようになってよく分かったんです。

 私はもう幸せなんて求めてはいけないって。

 何かが私のことをずっと追いかけてきてどんな小さな幸せの芽も
開きそうになると摘み取っていくの」


「君さぁ、これから毎日心の中でもいいし声に出してもいいけど、
その酷いことをして苦しめた花さん、そしてある意味無実なのに
君のせいで有罪にされた匠吾さんだったか、そのふたりに謝ったほうがいいよ。

『意地悪と嫉妬であなたたちに酷いことをした私を、充分反省しているので
お許し下さい』ってね。

 もうそんなことになってるのなら、そういうのしか方法はないと思うね。

 夢を見なくなるまで心から謝るんだよ。
 そして神仏にも祈り、助けてもらうほかないだろ。

 そして時間が過ぎていくのをじっと待つしかないな。

 できればこの先もこの島を出ない方がいい。

 あの日あの海浜公園でぷっつりと君の痕跡は途絶えたことになってる。

 だけどほとぼりが冷めて自宅に帰ったりすれば
すぐに見つかってしまうだろう。

 結婚もしない方がいいだろうな。

 そうすれば今あるささやかな暮らしは続けられるかもしれん」


「そうですね。

 私、これから毎日心の中でふたりに謝罪しながら生きていきます」
 
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