あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか

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Epilogue*王子様の愛はお受けいたしかねます。

王子様の愛はお受けいたしかねます。①

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さわさわと、何か細く柔らかなものが頬をくすぐる。

不快じゃないのに身を捩らずにはいられない感覚に、眠りの淵から否応なしに意識が引き上げられた。

(んんっ……くすぐったい……)

顔を少し逸らしたのに、それは追いかけるようについてくる。目を閉じたままそれに触れると、柔らかな毛先が手のひらをくすぐる。指の間までもくすぐるふわふわの触感が心地好くて、そのまま手を往復させてみた。

(これって………)

一瞬頭の中に、実家で飼っているチンチラシルバーのハルが思い浮かんだ。けれどわたしは、即座にそれを打ち消した。

だってわたし、ゆうべは――。


『あなたに会いたくて、堪らなかった』
『会えなくて死にそうだった……もう二度と離さない。今夜はそれを分からせるから』


まぶたの裏に映し出され生々しい映像を打ち消すように、わたしは勢いよくまぶたを上げた。

思った通り。目の前にはビスクドールのように綺麗な男が眠っている。

「アキ……」

音には出さず呟くと、長いまつげがピクリと震える。

(やばっ、起こしちゃった!?)

じっと息を詰めて見つめるが、まぶたが持ち上がる様子はない。
良かった、とホッと息を吐き出した。

(疲れてる…わよね……)

長いまつげで覆われた目元は、ほんの少し隈が出来ている。

さすがの彼も、イギリスから帰国してそのまま本社のプレゼン大会を観覧した上に、CEOからの呼び出しもあって疲れたのだろう。
本来なら出張期間がもう少しあったところを、かなり前倒しで仕事を片付けて帰国したと言っていた。

恐らくCEOとの親子バトルも、彼なりに神経を使うことだったんじゃないかな。
大人になってから自分の内面をさらけ出すのは、結構勇気がいることだ。

その証拠に。

『父と僕の親子喧嘩に巻き込んでしまってごめん。あなたにはかっこ悪いところばかり見せてるな……』

ここに来る途中、ハンドルを握るアキは、情けなさそうにそう言った。

別に全然かっこ悪いなんて思ってない。むしろ、自分の弱いところを素直に認めることが出来るのは中々出来ることじゃない。きっとそれは女性より男性の方が難しい気がするし、もっと言ったら、アキのように上流階級で育った立場のある人ならなおさらだろう。

わたしがそう言うと、アキは少し驚いた顔をした後『ありがとう』と言ってくれた。

そこまでは良かったのだけど。
問題はホテルの部屋に入ってからだ。

『とことん味わい尽くすつもりでいるから――覚悟して』

そう言った彼は、その言葉通りわたしを夜通し離さなかった。

夜の東京湾に浮かぶレインボーブリッジ。
アキの車で連れて来られたホテルで、わたしがそれを楽しめたのは、ほんの一瞬。

『吉野の好きな橋だ。ちゃんと見て』

口ではそう言ったくせに、アキは、容赦なくわたしを揺さぶり続けた。
まるで『橋じゃなくて僕を見て』とでも言うように。

彼はわたしを貪欲に喰らった。

部屋に入ってすぐ、夜景に吸い寄せられた窓辺で。
それから、ベッドの上でも容赦なく。

立て続けに二度も激しく愛されたわたしが、指一本も動かせないほどぐったりとしていると、『シャワーしたかったんだよね?』と抱えられてバスルームへ。『洗ってあげる』と言いながら、好き勝手に触れられて喘がされて。

『今日は「初めてじゃない」から問題ないな』と言うつぶやきの意味を、わたしが理解したのはもう熱い楔を打ち込まれたあとだった。

のぼせかけたわたしを、入った時と同じように抱えてバスルームから出たアキは、わたしに水を飲ませてくれたり冷たいタオルで顔を拭いてくれたりと、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。――ところまでは良かったのだけど。

(この……、エロドラ絶倫王子めっ……!)

あどけない寝顔を見ながら声に出さず毒づく。
意識がハッキリとしてくると同時に、体の節々の痛みに気付く。腰が重だるくて、今「立て」と言われても立てる気がしない。

最後は意識を飛ばすように眠ってしまったので、よく覚えていない。
ていうか、全編に渡って二度と思い出さなくていいっ!

これが若さというやつなのか……。あとひと月で三十になろうかという女と、二十代半ばの男の違い……? ふたつ(と数か月)しか年齢は違わないはずなのにっ!!

思い出したくないと思えば思うほど、生々しく思い出してしまうのは、今もわたしたちが何も身に着けていないからかもしれない。シーツの中で肌と肌が触れ合う感触がそれを教えてくれる。

(あ~~っ、もうーーっ!!)

声に出して叫びながら顔を覆って悶絶したいのに、わたしの肩に頭を置いて熟睡している彼のせいで出来ない。
昨夜の激しい情事のことは置いておいても、仕事で疲れている彼を起こすのは、さすがに忍びないと思ってしまうのだ。

せめてもの抵抗で、両目にギュッと力を込めて下唇をグッと噛みしめ、羞恥の悶絶に耐えてみた。

すると―――。

「……クッ、」

ん? 今何か聞こえたような……。

まさか、と思うと同時に「くくくくっ」という笑う声と振動が伝わってきた。
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