あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか

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Epilogue*王子様の愛はお受けいたしかねます。

王子様の愛はお受けいたしかねます。②

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「あぁっ、アキ…! 起きてたの!?」
「あ、バレた。どうぞ構わず続けて?」
「なっ」
「そんな可愛い百面相ならいつまでも見ていられるな」
「っ……もうっ! 起きてるんなら起きてるって教えてよっ!」

寝顔を観察しているつもりが、こっちが観察されていただなんて……!
しかもこちとら・・・・きみと違って、ひと様にお披露目できるような素敵な寝起き顔じゃないのに…!

むぅっと尖らせたわたしの唇に、アキが伸びあがるように「ちゅっ」とくちづけてきた。

「おはよ、静さん」

至近距離で「にこっ」と微笑まれると、口の端がゆるゆると持ち上がってしまう。
もうっ、分かってやってるなっ! この甘え上手のドラネコめっ!

じろっと睨むと、元から垂れた瞳を更に下げてくすくすと笑ってから「可愛いな」と再び唇を啄んでくる。

「なっ」

そっちこそ寝起きですら、可愛くて綺麗なくせに! そんな人から「可愛い」だなんて、いったい何の罰ゲームなの!?

起きたんなら、いいかげん退いて――そう言おうと口を開きかけた時。

「んゃっ」

いきなり首筋をきつく吸われた。

「ちょっ」

肩を竦ませながらアキの体を押し返そうとした両手は、あっという間に捕まってしまう。

「ちょっと…!」

顔の横に両手を縫い留められたわたしは、アキに抗議の視線を送る。するとアキは、妖艶な笑みを浮かべてわたしを見下ろしながら口を開いた。

「とことん味わい尽くすつもりだって、言っただろ?」
「っ」

冗談でしょっ…!?

ゆうべ――と言ってもそれはつい数時間前。明け方まであんなにわたしを貪ったくせに、この期に及んでまだオカワリ!?

「あなたは何もしなくていいから、ただ僕を感じていて?」

獰猛なほどの色香にクラリと酩酊するような気がした時、不意に真上にある瞳が歪められた。

「アキ……?」
「……ごめん。飢えているんだ」
「え、」
「あなたが欲しくて欲しくて堪らない。会えない間ずっと自分の内側が欠けている感じがして、どんなスイーツでもそれが埋まらなかった。今の僕はまるで砂漠の砂みたいだ。あなたをどんなに抱いても飢えと渇きが治まる気がしないんだ」

そう言ったアキは、眉間に寄せていたシワを解き、へにょり・・・・みみを下げた。

「本気でイヤだったら、殴っても蹴り上げてでも止めて。あなたに嫌われるくらいなら、永遠に飢えたままの方がマシだ」

心底情けなさそうにそう言った彼に、胸が大きく甘く高鳴った。

『あなたが欲しくて堪らない』
『自分の内側が欠けている感じ』
『どんなスイーツでも埋まらない』
『嫌われるくらいなら永遠に飢えたままの方がマシ』

そんなにまで想われて、それに応えないようなら女が廃るってもんじゃないか。
いいわよ、受けて立とうじゃないっ!

年上、な、め、ん、な――!!

「好きなだけ食べたらいいわ」

平然と言ったわたしに、アキが「え、」と目を丸くする。驚いたせいでわたしの両手を縫い留めていた手がゆるんだ。それをすかさず振り払うと、自由になった両手でアキの顔を包み込む。

「アキの飢えが治まるまで抱いていいって言ってるの」
「っ、」
「その代わり、ちゃんと綺麗に食べてよね?」

お互いの顔以外に見えないほどの近さで、にっこりと微笑んでやる。
お得意の“アテンドスマイル”を浮かべたわたしに、目を見開いたまま動作停止フリーズしていたアキが、突然「くくくくっ」と笑い出した。
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