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Chapter14*オオカミなんて怖くない!ドラトラだってどんと来い!(※個人の見解です)

オオカミなんて怖くない!ドラトラだっ(以下略)[1]ー⑥

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「あなたと最後に会ったあのあと、僕は空港へ向かった」
「え、…空港?」
「ああ。あなたのところに行く直前、急遽イギリスに行かないといけない仕事が入って。渡英する前にあなたに謝ろうと思って、家に寄ったんだ」
「そうだったんだ……」

忙しい合間を縫って、わざわざ謝りに来てくれたと言うのに、誤解からあんなひどい言葉を投げつけた自分の愚かさが悔やまれる。

自分のあまりの浅はかさに脱力し、アキのネクタイを掴んでいた手がするりと外れた。

「……ロンドンに着いたあと少し時間があって、ブラブラと歩いていたらテムズ川の橋に辿り着いてさ、」
「テムズ川! もしかしてそれって『タワーブリッジ』!?」
「そう」
「わぁ……タワーブリッジ、いいなぁ……」

ほんの数秒前まで落ち込んでいたにもかかわらず、わたしは感嘆の声を上げてしまった。
だって、一度は行ってみたいと憧れる、世界の橋のひとつだったんだもん……。

そんなわたしを見たアキが困ったように微笑んだ。

「あなたならそう言うだろうなって、僕もあの時考えた。そしたら自然と橋の上で足が止まってしまって。……『連れてきてあげたい。一緒に渡りたい。どうして今隣に吉野がいないんだろう。どうやったらあなたを結城課長から取りもどせるんだろう』―――んなことばかり考えて……」
「だ、だから課長とは何も、」
「今はちゃんと分かっている。でもあの時はとにかく仕事の時以外はそればかりを考えてしまって……自分でも信じられないくらいショックだったんだな」
「アキ……」

情けなさそうに眉を下げたアキに、わたしの心がじくじくと痛む。

わたしも辛くて悲しかったけど、彼だって同じように辛く悲しかったんだ。
そう思ったら堪らなくせつなく胸が締めつけられて目が潤み出す。きつく眉を寄せて下を向いた。

すると、ふわりと額に柔らかく湿った感触が。
まるで「もう大丈夫」というような優しいくちづけに、眉間に入った力がゆるゆるとほどけていく。

「せめてもう一度あなたの声が聞きたかった。帰国したらもう一度話をさせて欲しい。その約束だけでも取り付けようとスマホを出したんだけど……」
「けど?」
「手が滑った」
「はぁ……?」
「僕のスマホは今頃テムズ川の底だ」
「そんなことって――」

『ある!?』と続けようとした口を閉じた。

あるわ、ある。うん、ありました。

「――あ、るわよね……」

微妙な面持ちでそう言うと、アキは「え……信じてくれるの?」と目を見開いた。

信じるもなにも……わたしも同じことをやらかした。そう、三年前のあの時だ。

「そういうことなら早く言ってくれたら良かったのに……」

それに音信不通になっている間、わたしがどんなに不安だったかを思い出してムッとしてしまう。

もったいぶった口ぶりだったから、どんなことを言われるのか覚悟したのに…!

するとアキは情けなさそうに眉を下げた。

「こんな大失敗……自分でも信じられなくて。それに言葉にしたらあまりに嘘くさすぎるから、嘘が大嫌いなあなたを怒らせるかもと思ったら、すぐには言えなかったんだ」

そうね……確かに嘘くさい。自分でも同じことをやらかしていなかったら、きっと信じられなかったかも。
わたしだって『まさかこんなことをするなんて!?』と、自分の間抜けさを呪ったし。

わたしなんかよりももっと卒のない彼が、まさか同じことをやらかすなんて思ってもみなかったけれど、裏を返せばそれくらいショックを受けたということ。それはわたしのことを好きだからに他ならない。

「仕事用のスマホは別にあるから困ることはなかったんだけど、静さんの連絡先は僕用プライベートの方にしか入っていなくて……新しい機種を手配してもらうように秘書にはお願いしておいたし、連絡先諸々はクラウドに置いてあるから本体さえあればすぐに復旧できるけど、海外だからSIMカードの手配に手間取って……結局帰国してから携帯ショップに行くことになったんだ」
「そうだったの……」

わたしの入室直後に彼が言っていた『すぐに行くところがある』というのは、携帯ショップのことだったのかも。

「本当はもっと手っ取り早くあなたに連絡を取る方法もあったんだけど……」
「えっ!」
「関西工場に電話を掛ければきっとあなたの連絡先を入手することも出来たし、もっというと会社のデータベースに入れば、」
「ええっ!」

そんな奥の手的な技がっ…! でもそれって職権乱用なんじゃ――。

するとやっぱり、わたしの考えを読んだかのようにアキが言った。

「そんな職権乱用したストーカー行為、あなたが知ったらますます嫌われると思って出来なかった」

それでアキのことを嫌いになったりはしないけど、でも仮に自分が好きでもなんでもない相手からそうされたら――、

「ちょっと引く」
「……だよな」

項垂れそうになったアキに、「あっ、でもじゃあ晶人さんに聞けばよかったじゃない」と言うと、彼はムスッと明らかに不機嫌になった。

「そんなこと出来るわけないだろ……恋敵ライバルの助けを借りるなんて……」
「あっ、……そうかぁ」
「ロンドン出張からついさっき帰って来たばかりなんだ。本当はもう五日ほどかかる予定だったのだけど、交渉が上手くいって予定より早く帰国できたんだ。絶対に静さんのプレゼンまでに帰れるようにしようと頑張った甲斐があったよ」
「アキ……」

わたしが晶人さんを選んだと思っていたのに、それでもわたしのコンペのことを気にしていてくれたなんて……。

「本当は壇上にいるあなたを捕まえたくて堪らなかった。賞を渡す係をCEOと代わってほしかったくらいだ」
「そ、それはちょっと……」

困る。あれがもしアキだったら……わたし壇上でみっともなく号泣していたに違いないもの。
だけど彼の気持ちが嬉しくて、堪らず目の前の体にぎゅっと抱き着いた。
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