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Chapter13*泡はなるもの?帰するもの?
泡はなるもの?帰するもの?[2]ー③
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小さなミーティングルームの中、再び晶人さんと二人きりに。
「晶人さん何か、」
言い忘れでも? そう訊こうとした矢先。
「静。折角ここまで来たんだ。悔いの残らないよう精いっぱい気持ちをぶつけてこいよ」
どうやら晶人さんが引き留めたのは、わたしに発破をかけてくれるためだったみたい。
「はい」としっかり頷いてドアノブに手を伸ばそうとしたら。
「それでもダメだった時は、俺のところに来い」
もう……、晶人さんも森ちゃんも『当たって砕ける』こと前提なんだから。
でもそれも仕方ないことなのかも。だってこんな大きな企業のエリート御曹司と、一介のアテンダントが付き合っていただなんて、自分でも信じられないもの。
「じゃあ、晶人さんにも森と一緒にヤケ酒に付き合ってもらおうかな」
「……ヤケ酒くらいいつでも付き合うけど、他の意味でも付き合って欲しい」
「え、」
動きを止めたわたしを晶人さんの視線が真っ直ぐ射抜く。
「CMOにフラれても俺がいる。俺はおまえのこと、大学の時から……」
呼吸が止まるかと思った。
もしかして、彼が大学の時からずっと口にしていた『好きな子』って――。
半信半疑のまま息を詰めて彼を見上げていると、彼はわたしの頭にポンと手を乗せた。
「だから間違っても未練なんて遺してくるなよ?た とえ木っ端微塵になっても俺がいる。俺がひとつひとつお前の傷を癒してやる」
そう言って、頭の上に乗せた手を少し強めにポンポンと叩いた。
いつも彼がよくする仕草なのに、いつもと違って鼓動が一気に忙しなくなる。
だけどそれと同時に、わたしの胸がせつなく疼いた。
昔からそうだった。彼はわたしのことを励ましたり慰めたりする時にはいつも、そうやって大きな手で頭を二回叩いてくれていた。
弟しか持たないわたしは、彼のその仕草に “兄”を感じて、ほっこりした気持ちになって。頼れるお兄ちゃんが出来たようで嬉しかったことを、今でもよく覚えている。
“妹”扱いは、彼がわたしを恋愛対象に見ていないせいだとばかり。
もし彼が本当に、わたしのことを“妹”としてではなく“女性”として好意を寄せてくれているというなら、わたしの何気ないひとことが彼を傷つけていたかもしれない。
そんな気まずさが顔に出ていたのだろう。晶人さんは困ったような微苦笑を浮かべて、わたしの頭をもう一度ポンと強めに叩いた。
「今は俺のことは気にしないでいい。折角掴んだチャンスなんだ。それを逃すなんておまえらしくないだろ?」
そう言って爽やかな笑みを浮かべる。その大学の頃から変わらない笑顔に、わたしは思い出した。
そうだった。チャンスは自分で掴みに行く。望んだものの為に努力は惜しまない。後ろなんて振り向かない。本来の自分はそういう性格。
戦う前から負けを覚悟するなんて、わたしらしくない!
「晶人さん」
「ん?」
「わたし全力で勝ちに行きます」
「ああ、そうだな。もしダメでも俺がいる。だから安心して行ってこ、」
「いいえ、万が一ダメでも、晶人さんのところにはいきません。ごめんなさい」
「静……」
「晶人さんのことは尊敬もしていますし感謝もしています。頼りになる先輩で上司で、……わたしにとっては兄のような存在です。ずっとわたしのことを支えて来てくれたかけがえのない人だとも」
「それなら、」
「だとしても――いえ、だからこそ、そんな晶人さんを“保険”にするなんて有り得ません」
「……俺がそれでいいと言ってもか?」
「はい」
力強く頷いたわたしに、晶人さんは一瞬固まった後「はぁ~っ」と息を吐き出した。
「分かった。今はそれでいい」
『仕方ないな』と一歩引いた彼の顔に、わたしはふとさっき見た彼の微笑みを思い出した。
腹の中の読めない作ったような爽やかな笑みではなく、ふわりと解けるように微笑んだのは――。
『いいなぁ静さん……課長と東京やなんて……』
頭の中に森の声がした。
「あっ……!」
突然声を上げたわたしに、晶人さんが「どうかしたのか?」と怪訝そうに尋ねる。
自分の中に湧いた直感が確信に変わる前に、ドアのノックの音が聞こえた。
「晶人さん何か、」
言い忘れでも? そう訊こうとした矢先。
「静。折角ここまで来たんだ。悔いの残らないよう精いっぱい気持ちをぶつけてこいよ」
どうやら晶人さんが引き留めたのは、わたしに発破をかけてくれるためだったみたい。
「はい」としっかり頷いてドアノブに手を伸ばそうとしたら。
「それでもダメだった時は、俺のところに来い」
もう……、晶人さんも森ちゃんも『当たって砕ける』こと前提なんだから。
でもそれも仕方ないことなのかも。だってこんな大きな企業のエリート御曹司と、一介のアテンダントが付き合っていただなんて、自分でも信じられないもの。
「じゃあ、晶人さんにも森と一緒にヤケ酒に付き合ってもらおうかな」
「……ヤケ酒くらいいつでも付き合うけど、他の意味でも付き合って欲しい」
「え、」
動きを止めたわたしを晶人さんの視線が真っ直ぐ射抜く。
「CMOにフラれても俺がいる。俺はおまえのこと、大学の時から……」
呼吸が止まるかと思った。
もしかして、彼が大学の時からずっと口にしていた『好きな子』って――。
半信半疑のまま息を詰めて彼を見上げていると、彼はわたしの頭にポンと手を乗せた。
「だから間違っても未練なんて遺してくるなよ?た とえ木っ端微塵になっても俺がいる。俺がひとつひとつお前の傷を癒してやる」
そう言って、頭の上に乗せた手を少し強めにポンポンと叩いた。
いつも彼がよくする仕草なのに、いつもと違って鼓動が一気に忙しなくなる。
だけどそれと同時に、わたしの胸がせつなく疼いた。
昔からそうだった。彼はわたしのことを励ましたり慰めたりする時にはいつも、そうやって大きな手で頭を二回叩いてくれていた。
弟しか持たないわたしは、彼のその仕草に “兄”を感じて、ほっこりした気持ちになって。頼れるお兄ちゃんが出来たようで嬉しかったことを、今でもよく覚えている。
“妹”扱いは、彼がわたしを恋愛対象に見ていないせいだとばかり。
もし彼が本当に、わたしのことを“妹”としてではなく“女性”として好意を寄せてくれているというなら、わたしの何気ないひとことが彼を傷つけていたかもしれない。
そんな気まずさが顔に出ていたのだろう。晶人さんは困ったような微苦笑を浮かべて、わたしの頭をもう一度ポンと強めに叩いた。
「今は俺のことは気にしないでいい。折角掴んだチャンスなんだ。それを逃すなんておまえらしくないだろ?」
そう言って爽やかな笑みを浮かべる。その大学の頃から変わらない笑顔に、わたしは思い出した。
そうだった。チャンスは自分で掴みに行く。望んだものの為に努力は惜しまない。後ろなんて振り向かない。本来の自分はそういう性格。
戦う前から負けを覚悟するなんて、わたしらしくない!
「晶人さん」
「ん?」
「わたし全力で勝ちに行きます」
「ああ、そうだな。もしダメでも俺がいる。だから安心して行ってこ、」
「いいえ、万が一ダメでも、晶人さんのところにはいきません。ごめんなさい」
「静……」
「晶人さんのことは尊敬もしていますし感謝もしています。頼りになる先輩で上司で、……わたしにとっては兄のような存在です。ずっとわたしのことを支えて来てくれたかけがえのない人だとも」
「それなら、」
「だとしても――いえ、だからこそ、そんな晶人さんを“保険”にするなんて有り得ません」
「……俺がそれでいいと言ってもか?」
「はい」
力強く頷いたわたしに、晶人さんは一瞬固まった後「はぁ~っ」と息を吐き出した。
「分かった。今はそれでいい」
『仕方ないな』と一歩引いた彼の顔に、わたしはふとさっき見た彼の微笑みを思い出した。
腹の中の読めない作ったような爽やかな笑みではなく、ふわりと解けるように微笑んだのは――。
『いいなぁ静さん……課長と東京やなんて……』
頭の中に森の声がした。
「あっ……!」
突然声を上げたわたしに、晶人さんが「どうかしたのか?」と怪訝そうに尋ねる。
自分の中に湧いた直感が確信に変わる前に、ドアのノックの音が聞こえた。
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