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Chapter13*泡はなるもの?帰するもの?

泡はなるもの?帰するもの?[2]ー②

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***

「ああっ!」

来た時よりも増えた荷物を抱えて、レセプションルームを後にした直後。わたしはあることを思い出した。

「どうした静。いきなりそんな声を出して。忘れ物か?」
「違います……って、違わなくもない」
「どっちなんだ」
「物は忘れてないんですが、しようと思っていたことをすっかり忘れてしまって……」
「しようとしたこと?」

思いがけず賞を頂いたことで、その前に考えていたことがすっかり頭から飛んだみたい。

「あの統括さんに……ちょっと訊きたいことがあって……終わったらすぐにお尋ねしようと思っていたんですが……」
「ああ、それか……そのことなら――」

晶人さんが続けた言葉に、わたしは「えっ!」と言って両目を見開いた。


出口に向かう人波に逆らって、晶人さんに連れて来られたのは十四階。【トーマビール】のマーケティング本部が入っているその階の片隅にある小さなミーティングルームだった。

「ここに……?」
「ああ」

晶人さんは、とある・・・人からここで待つように言われたという。

「行きの新幹線で静が俺に頼んだだろ? 『CMOに会わせてもらえるよう、本社の方にお願いしてもらえませんか』って」
「はい……」
「だから俺が知っている者の中で、一番CMOに近いヤツに連絡を入れておいたんだ」
「それって……」
「ああ。さっきおまえが捕まえ損ねたと嘆いていた、」

晶人さんが口にするであろう名前に息を呑んだ時、「コンコン」とミーティングルームのドアがノックされた。

「はい」と返事をすると、ドアが開いた。顔を出したのは、予想とまったく違っていた。

そう思ったのは晶人さんも同じようで――。

「あれ、高柳統括は……?」

そう訊ねた晶人さんに、入ってきた女性が口を開く。

「高柳は急な呼び出しで少し遅れそうだと連絡がありました」
「そうか……分かりました。ありがとうございます」

晶人さんがそう言った横で、わたしも女性に軽く会釈をする。

彼女は本社ここの人なのだろう。プレゼン大会の受付も控室への案内もこの人だった。最初に見た時に、いかにも“本社社員”といった雰囲気のクールな美人だな、と思ったのでよく覚えている。

わたしよりも年下に見える彼女は、仕事が出来る雰囲気。
(さすが本社!さすがエリート!)―――だなんて、我ながら物見遊山気分にもほどがあるよね。

統括からの伝言を伝え終わったその女性は、すぐに退室すると思ったけれど。

彼女は開いたドアの前で、両手をお腹の前でそろえ軽く口角を上げた。

「申し遅れました。わたくし高柳の部下で、トーマビールマーケティング本部の青水あおみと申します」

言い終わると同時に彼女が頭を下げる。艶のあるブラウンヘアーががさらりと肩から滑り落ちた。

(うわぁ…! さすが本社のエリート社員ね。お辞儀も完璧!)

接客業のわたしですらも、思わず見惚れるほど綺麗なお辞儀。ああ、森に見せてやりたい!

こんな仕事が出来る美人さんには、きっと素敵な恋人がいるに違いない。
本社にはそういう人がいたって、帰ったら森に教えてあげなきゃ。森も目指すのならわたしなんかより、こういう女性を目指せばいいのに。

なんて考えていると、青水さんが頭を上げた。キリっとした雰囲気の二重と目が合う。そのままの状態で数秒。彼女は黙ってわたしを見つめてきた。

(ん?)

何か言いたいことでもあるのだろうか。そう思ったとき。

「高柳から、わたくしが静川さまをご案内するよう申しつかっております」
「えっ!」
「『手筈てはずは整えてある』と高柳が申しておりました」
「さすが高柳。相変わらず抜かりないな」

妙に納得した顔で頷く晶人さん。そう言えば彼は本来【Tohmaグループホールディングス】に籍を置いている人だから、もともとあの鉄仮面な統括さんとも面識があるのか。

「では静川さま、ご案内いたします」

軽く口角を上げて親しみやすい笑みを浮かべている青水さんに促され、ミーティングルームを出ようとしたそのとき。

「――少しだけ、いいですか?」

そう言って晶人さんがわたしの腕を引いた。

青水さんが足を止め晶人さんを見る。彼女は左手首に視線を遣り、「三分ほどなら」と言った。
晶人さんが「十分です。ありがとうございます」と言うと、青水さんは「外でお待ちしております」と言って部屋を出た。
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