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Chapter12*Not the glass slippers but the red shoes.
Not the glass slippers but the red shoes.[3]-②
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「あなた、バレンタイン前夜、彼と過ごしたんでしょ……? だったらすぐに気付くと思ったんだけど」
「えぇっ! のんはぁ、王子と夜を過ごしたことなんてありませぇん!」
「え、だって……じゃあなんで、あの時わたしのこと『ずるい』って……」
「そ、それは……」
「わたしがアキと出掛けたのを見ていたから、そう言ったんじゃないの……?」
「………」
気まずそうに黙ってしまった森に、やっぱり彼女とアキは何かあったのだと思う。
もういっそのこと全部を詳らかにしてもらった方がこっちもスッキリする。どうせこっちはフラれているんだ。今さら真実を知ったところで何も変わらない。
そう思って森に「わたしに遠慮はいらないわ」と言うと、彼女は視線をウロウロとさ迷わせたあと、突然晶人さんに向かって口を開いた。
「結城課長ぉ!」
「なんだ森」
「喉乾きましたぁっ!」
――はい?
上司に向かって突然「喉が渇いた」って……なんだそりゃ。
先輩としてはその態度に注意をするところだけど、来客にお茶の一杯も入れなかったのはわたしの失態。
慌てて「今コーヒーでも」と立ち上がりかけたら、「静さんは座っとって!」とすごい勢いで叱られた。
「静さんは、夕飯ってもう食べはりましたかぁ?」
「いや、まだだけど……」
「そういうことなんで課長ぉっ! なんか静さんが食べれそうなものぉ買って来てもらわれますう? あ、のんはカフェラテとサンドイッチでぇ」
にこにこと、でも有無を言わさぬ森の態度に、晶人さんは一瞬黙ってから思いきり溜め息をつくと、「分かった。ちょっと行ってくる」そう言って出て行った。
パタンと玄関扉が閉まる音がした後、部屋に静寂が落ちる。自分の部屋なのになんだか急に広くなったような気がして落ち着かない。
何を話していたんだっけ。そう考えたとき、森がわたしの方にサッと顔を向けた。
「バレンタイン、わたしが本命チョコ渡したのは王子ちゃいますよぉ?」
「え、」
出し抜けに言われた言葉に思考が停止する。それが動き始める前に森が言葉を続けた。
「あの朝、静さんに言ったんは、ほぼ八つ当たりなんや……」
「それってどういう、」
「のんは好きな人の一番になられへんかって、静さんに嫉妬したんです」
「えっと……それはアキに…当麻CMOに『二番目』って言われたってこと?」
「もうっ! だから王子は関係なかって言っとぉったい!」
お国言葉でピシャリと叱られて押し黙る。
「王子とは職場でしかお会いしたことはありません。自分は一番になられへんのに、静さんばっか愛されてずるいって、……のんがぁ勝手に静さんを妬んどっただけなんですぅ」
「そう……なの?」
「そうですぅ」
「そうなんだ……」
再び部屋に沈黙が降りた。
お互い誤解だったと分かったのに、なぜだか妙に気まずい雰囲気に。
どうしたもんかと思案していた時、ふとある疑問が頭を過った。
「あれ……? てことは、あれは森ちゃんからじゃなかった……?」
「なんのことですかぁ?」
キョトン顔の森に、胸に抱くように抱えたままだったものの存在を思い出した。
「これ……森ちゃんがアキにあげた紙袋じゃないの…?」
「だからのんは王子にチョコなんて渡しとりませんって、何回言ったらぁ、ぁぁああーーっ!!」
突然森が大きな声を出したから、耳を押さえながら「なに!?」と眉間にシワを寄せる。すると彼女は、わたしが持つ紙袋を飛びつくような勢いで手に取った。
「これっ! あの超人気のジュエリーブランドのヤツやないですかぁっ!」
「え、」
「ほらっ!」
彼女はわたしの目の前に紙袋を突き付けた。
薄水色の紙袋の真ん中に、誰もがよく知るハイブランドジュエリーのロゴが。
「チョコじゃない……?」
呟いたわたしに、森が「ここの紙袋をチョコレートのんと見間違えるやなんて、これやから静さんはぁ…!」と非難まじりの声で言う。
「だって……森がバレンタインの前の日に持っていたのとよく似ていたんだもん……」
「もうっ、静さんったらぁっ! この紙袋のこの色は、このブランドにしかない色なんですって、──やだそんなことより早中に何が入っとるんか見た方がええんちゃいますかぁ!?」
「う、うん……」
わたしは恐る恐る、それを開いた。
「えぇっ! のんはぁ、王子と夜を過ごしたことなんてありませぇん!」
「え、だって……じゃあなんで、あの時わたしのこと『ずるい』って……」
「そ、それは……」
「わたしがアキと出掛けたのを見ていたから、そう言ったんじゃないの……?」
「………」
気まずそうに黙ってしまった森に、やっぱり彼女とアキは何かあったのだと思う。
もういっそのこと全部を詳らかにしてもらった方がこっちもスッキリする。どうせこっちはフラれているんだ。今さら真実を知ったところで何も変わらない。
そう思って森に「わたしに遠慮はいらないわ」と言うと、彼女は視線をウロウロとさ迷わせたあと、突然晶人さんに向かって口を開いた。
「結城課長ぉ!」
「なんだ森」
「喉乾きましたぁっ!」
――はい?
上司に向かって突然「喉が渇いた」って……なんだそりゃ。
先輩としてはその態度に注意をするところだけど、来客にお茶の一杯も入れなかったのはわたしの失態。
慌てて「今コーヒーでも」と立ち上がりかけたら、「静さんは座っとって!」とすごい勢いで叱られた。
「静さんは、夕飯ってもう食べはりましたかぁ?」
「いや、まだだけど……」
「そういうことなんで課長ぉっ! なんか静さんが食べれそうなものぉ買って来てもらわれますう? あ、のんはカフェラテとサンドイッチでぇ」
にこにこと、でも有無を言わさぬ森の態度に、晶人さんは一瞬黙ってから思いきり溜め息をつくと、「分かった。ちょっと行ってくる」そう言って出て行った。
パタンと玄関扉が閉まる音がした後、部屋に静寂が落ちる。自分の部屋なのになんだか急に広くなったような気がして落ち着かない。
何を話していたんだっけ。そう考えたとき、森がわたしの方にサッと顔を向けた。
「バレンタイン、わたしが本命チョコ渡したのは王子ちゃいますよぉ?」
「え、」
出し抜けに言われた言葉に思考が停止する。それが動き始める前に森が言葉を続けた。
「あの朝、静さんに言ったんは、ほぼ八つ当たりなんや……」
「それってどういう、」
「のんは好きな人の一番になられへんかって、静さんに嫉妬したんです」
「えっと……それはアキに…当麻CMOに『二番目』って言われたってこと?」
「もうっ! だから王子は関係なかって言っとぉったい!」
お国言葉でピシャリと叱られて押し黙る。
「王子とは職場でしかお会いしたことはありません。自分は一番になられへんのに、静さんばっか愛されてずるいって、……のんがぁ勝手に静さんを妬んどっただけなんですぅ」
「そう……なの?」
「そうですぅ」
「そうなんだ……」
再び部屋に沈黙が降りた。
お互い誤解だったと分かったのに、なぜだか妙に気まずい雰囲気に。
どうしたもんかと思案していた時、ふとある疑問が頭を過った。
「あれ……? てことは、あれは森ちゃんからじゃなかった……?」
「なんのことですかぁ?」
キョトン顔の森に、胸に抱くように抱えたままだったものの存在を思い出した。
「これ……森ちゃんがアキにあげた紙袋じゃないの…?」
「だからのんは王子にチョコなんて渡しとりませんって、何回言ったらぁ、ぁぁああーーっ!!」
突然森が大きな声を出したから、耳を押さえながら「なに!?」と眉間にシワを寄せる。すると彼女は、わたしが持つ紙袋を飛びつくような勢いで手に取った。
「これっ! あの超人気のジュエリーブランドのヤツやないですかぁっ!」
「え、」
「ほらっ!」
彼女はわたしの目の前に紙袋を突き付けた。
薄水色の紙袋の真ん中に、誰もがよく知るハイブランドジュエリーのロゴが。
「チョコじゃない……?」
呟いたわたしに、森が「ここの紙袋をチョコレートのんと見間違えるやなんて、これやから静さんはぁ…!」と非難まじりの声で言う。
「だって……森がバレンタインの前の日に持っていたのとよく似ていたんだもん……」
「もうっ、静さんったらぁっ! この紙袋のこの色は、このブランドにしかない色なんですって、──やだそんなことより早中に何が入っとるんか見た方がええんちゃいますかぁ!?」
「う、うん……」
わたしは恐る恐る、それを開いた。
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