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Chapter11*こぼれたビールは戻らない。
こぼれたビールは戻らない。[2]―②
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「それ………」
綺麗なライトブルーに見覚えがあった。確か、一昨日の帰りがけに森が持っていた紙袋。
「バレンタイン…の……」
わたしの口からポロリと転がり落ちた言葉に、それまで不機嫌に引き結ばれていた彼の口角が明らかに上に向いた。
ほんの一瞬だけゆるんだ顔を隠すように、彼は「だからなに」と取り分け低い声で言う。
「っ…!」
カッと頭が沸いたように熱くなった。
そっちこそなんなのよ…! 森からバレンタインを受け取って、それでそのままお泊り!? それなのに、わたしだけが朝帰りを責められるなんておかしいじゃない…!
カッとなったのは頭だけじゃない。目頭も熱くて、一瞬にして水気が溜まったのが分かる。口を開いたら泣いてしまいそう。
イヤだ、泣きたくない。わたしはこんなことで泣くほど弱くない…!
唇をきつく噛みしめ歯を食いしばる。すると再びアキが低い声で言った。
「今までいったい誰とどこに、」
ブチン――頭の中で音がした。
「アキには言われたくないっ!!」
大きな声を上げたわたしに、彼は見張って黙った。反対に、わたしの口からは堰を切ったかのように言葉が溢れ出す。
「わたしがどこで何をしてようと関係ないじゃない!」
「なっ…! 関係ないわけな、」
「ないわよっ! アキだって自分の好きなようにしてるじゃない! そのチョコだって……」
わたしより先に誰かさんから本命を受け取ったくせに!
しかも、それをまんざらでもないと思っているくせに!!
「これは、」
「いい! 言わないでっ……聞きたくない」
自分でもびっくりするほど冷たく低い声が出た。
アキの口から森希々花の名前を聞くなんて、耐えられない。
「わたしがあげる必要はなかったみたいね……わたしからよりよっぽど嬉しかったでしょ!?」
「……どっちがどうとか、比べるつもりなんてない」
カチンときた。
『比べるつもりはない』だと?
あっちもこっちも両方“美味しいとこ取り”ってこと?
なにそれ、バカにするのもいい加減にして。
二股をかけられて許すほど、わたしはチョロい女じゃない。
「他のひとのところに行くようなヤツと……話すことなんて何もないからっ!」
叫ぶように言いながらアキの体を両手でめいっぱい押し返すと、すばやく鍵を開けて転がり込むように部屋に入った。アキが上げた声が聞こえたけれど、迷わずドアに鍵をかける。
何度かドアを叩かれて名前を呼ばれたけれど、朝早い時間だったせいか外はすぐに静かになった。
ホッとしたのも束の間、今度は部屋の中からスマホの着信音が。
急いで音の鳴る方へ行くと、思った通りアキからの着信。どうしようか悩んでいるうちに留守電に切り替わり、着信が切れる――が、すぐにまたかかってきた。
それを繰り返し、何度目かのあと鳴らなくなった。
綺麗なライトブルーに見覚えがあった。確か、一昨日の帰りがけに森が持っていた紙袋。
「バレンタイン…の……」
わたしの口からポロリと転がり落ちた言葉に、それまで不機嫌に引き結ばれていた彼の口角が明らかに上に向いた。
ほんの一瞬だけゆるんだ顔を隠すように、彼は「だからなに」と取り分け低い声で言う。
「っ…!」
カッと頭が沸いたように熱くなった。
そっちこそなんなのよ…! 森からバレンタインを受け取って、それでそのままお泊り!? それなのに、わたしだけが朝帰りを責められるなんておかしいじゃない…!
カッとなったのは頭だけじゃない。目頭も熱くて、一瞬にして水気が溜まったのが分かる。口を開いたら泣いてしまいそう。
イヤだ、泣きたくない。わたしはこんなことで泣くほど弱くない…!
唇をきつく噛みしめ歯を食いしばる。すると再びアキが低い声で言った。
「今までいったい誰とどこに、」
ブチン――頭の中で音がした。
「アキには言われたくないっ!!」
大きな声を上げたわたしに、彼は見張って黙った。反対に、わたしの口からは堰を切ったかのように言葉が溢れ出す。
「わたしがどこで何をしてようと関係ないじゃない!」
「なっ…! 関係ないわけな、」
「ないわよっ! アキだって自分の好きなようにしてるじゃない! そのチョコだって……」
わたしより先に誰かさんから本命を受け取ったくせに!
しかも、それをまんざらでもないと思っているくせに!!
「これは、」
「いい! 言わないでっ……聞きたくない」
自分でもびっくりするほど冷たく低い声が出た。
アキの口から森希々花の名前を聞くなんて、耐えられない。
「わたしがあげる必要はなかったみたいね……わたしからよりよっぽど嬉しかったでしょ!?」
「……どっちがどうとか、比べるつもりなんてない」
カチンときた。
『比べるつもりはない』だと?
あっちもこっちも両方“美味しいとこ取り”ってこと?
なにそれ、バカにするのもいい加減にして。
二股をかけられて許すほど、わたしはチョロい女じゃない。
「他のひとのところに行くようなヤツと……話すことなんて何もないからっ!」
叫ぶように言いながらアキの体を両手でめいっぱい押し返すと、すばやく鍵を開けて転がり込むように部屋に入った。アキが上げた声が聞こえたけれど、迷わずドアに鍵をかける。
何度かドアを叩かれて名前を呼ばれたけれど、朝早い時間だったせいか外はすぐに静かになった。
ホッとしたのも束の間、今度は部屋の中からスマホの着信音が。
急いで音の鳴る方へ行くと、思った通りアキからの着信。どうしようか悩んでいるうちに留守電に切り替わり、着信が切れる――が、すぐにまたかかってきた。
それを繰り返し、何度目かのあと鳴らなくなった。
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