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Chapter9*ビール売りの少女@三十路目前
ビール売りの少女@三十路目前[3]—②
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「今日は本当にお疲れ様」
「ありがと、アキ」
わたしを疲れさせたのはどこの誰?――とチラッと思わなかったわけではないけれど、それは口にはしない。労いの気持ちは素直に受け取るのものだ。
黄金色の液体で満たされたグラスを軽く合わせる。それからおもむろにぐいっと呷った。
「くぅ~っ、しみるわっ!」
うん。苦みとホップの香りのバランスが良いし、喉ごしもしっかりある。やっぱりトーマラガーサイコー!
やっと口に出来たビールに歓喜しながら、目の前の美味しそうなお肉を早速口に放り込む。ひとくち噛むと、口の中に贅沢なお味が広がった。
「んんんんっ! 美味し~!」
さすが黒毛和牛。お肉の甘みと旨みのバランスが秀逸。グリル加減も最高。
アキが買って来てくれた“黒毛和牛と野菜のグリル~グレービーソース仕立て”を飲み込んで、もう一度ビールを呷る。
美味しいお肉と良く冷えたビールに、さっきまでのヤサグレ感がスーッと引いて行った。
ビールのランクが落ちたのはちょっと残念だけど、ツボをついた手土産に免じて許してあげるとしよう。
ちなみに、開栓後のビールはアルミホイルを被せてラップをぐるぐる巻きにして冷蔵庫に戻してみた。気が抜けて飲めなかったら、もったいないけど料理に使うつもり。捨てるよりはいいでしょ。
やっとありつけた“ご褒美晩餐”をわたしが堪能していると、隣に座るアキが口を開いた。
「静さんがあんな楽しい企画を準備していたなんて、驚いたな」
「そ、……そう?」
「ああ。優秀なアテンダントだとは知っていたけど、本社の企画部でも十分通用すると思うよ」
「……褒めすぎよ」
「そんなことない。本心からだよ」
ダメ押しのように真面目な顔でそう言われ、頬が熱くなった。
嬉しくないわけじゃないのだけど、彼の正体を考えれば、恐れ多いような恥ずかしいようななんとも言えない気持ちになってしまう。
「……ありがとう」
ぶっきらぼうなお礼の言葉に、アキは「ふふっ」と笑うと頭をぽんぽんと軽く撫でた。
「コンペの結果次第では、静さんもこれから忙しくなるね」
「通れば。でしょ?」
「そうだね。でもきっとそうなるんじゃないかな」
彼からそんなことを言われるなんて思いもよらず、思わず目を見張る。すると彼は、下ろしているわたしの髪に指を絡めながら、口の端を上げた。
「だけどそれはただの勘。僕が何か手心を加えることはない。仕事に関しては、相手が誰であっても妥協はしないから」
そう言った彼の真剣な目つきに“当麻CMO”を感じて、ドキッと胸が跳ねた。仕事のまま来た彼にメガネはない。
“CMO”の余韻を残した今の彼の、髪型が乱れている理由を思い出し、顔がまた熱くなってきた。それを悟られるまいと唇を一度きゅっと強く引き結び、真剣な顔で「もちろんよ」と返す。
『さすが』も何も、それが当たり前だと思う。
恋人だからって “温情”なんてかけてもらっても全然嬉しくない。勝負は実力で勝ちに行かないと意味がないもの。
「さすが静さんだ」
アキが瞳を細めて嬉しそうに微笑んでそう言ったあと、それまでの真面目な顔つきをガラリと変えた。
「ああ~、静さんの活躍は嬉しいけど、会える時間が少なくなるのはなぁ……」
さっきまでの“CMO”の片鱗は消え、すっかりいつもの“アキ”だ。なんだかちょっとホッとする。
腕を組んで眉間にシワを寄せ唸るように言う彼に、思わず笑みが漏れた。
「アキも忙しそうだもんね……」
「う~ん……ひとまず来週が山かなぁ」
「そっか……」
来週もあまり会えないのかと思ったら、やっぱり少し寂しい。でも仕方ない。彼は関西に仕事の出張で来ているのだから。
「いつまで……」
「え、なに?」
「あ、……う、ううん、何でもない」
喉元まで込み上げていた言葉を無理やりに押し込めるようにビールを流し込み、「いつ飲んでも美味しいわね、トーマラガーは!」と笑顔を作る。そして、「お互い、自分の仕事をきちんと頑張りましょう」と言いながらご馳走に箸を延ばした。
「ねぇ、静さん」
「ん?」
アキの方を見ずに返事だけ返す。さっきはお肉を食べたから、今度はエビチリにしようかな。
大好物のエビチリを箸で掴んだ時。
「やっぱり僕の部屋に来てくれない?」
「えっ」
驚いた弾みに箸からエビチリがポロっと。あぶないあぶない。皿の上だったから辛うじてセーフ。
「さっき訊いた時は『無理』って言われたけど、やっぱりそれが一番お互いにとっていいんじゃないかと思うんだ。僕は仕事のあとにあなたにすぐ会えるし着替える必要もない。あなたもあなたで、僕の仕事の都合に生活を乱されずに済むし、僕の訪問を誰かに見られる心配もない」
「そ、それはそうだけど……でも、」
「もちろんいつも、というわけじゃなくていい。僕の部屋に来るのはあなたの気が向いた時で構わないし、僕もこれまで通りここに来るよ。あなたが来るときはタクシーの送迎もつけるから、夜遅くてもいいし、泊った翌朝は職場まで送る。……だから。ね?」
『ね?』って言われましても。
可愛く小首を傾げてわたしの顔をのぞき込みながらのおねだりに、一瞬クラリとする。思わず縦に振りかけた頭を、ブンブンと横に振った。
「い…いやよ……」
「なんで」
「なんでって……」
「静さんは会えなくても平気?忙しい合間を縫って少しでも会いたいと思っているのは僕だけなんだ……」
「そんなこと……」
畳みかけるように言われて言葉に詰まる。
すると、アキは長いまつ毛を伏せ気味にしてうつむき、「僕の我がままだって分かっていても、やっぱり寂しいな……」と呟いた。
「今日は本当にお疲れ様」
「ありがと、アキ」
わたしを疲れさせたのはどこの誰?――とチラッと思わなかったわけではないけれど、それは口にはしない。労いの気持ちは素直に受け取るのものだ。
黄金色の液体で満たされたグラスを軽く合わせる。それからおもむろにぐいっと呷った。
「くぅ~っ、しみるわっ!」
うん。苦みとホップの香りのバランスが良いし、喉ごしもしっかりある。やっぱりトーマラガーサイコー!
やっと口に出来たビールに歓喜しながら、目の前の美味しそうなお肉を早速口に放り込む。ひとくち噛むと、口の中に贅沢なお味が広がった。
「んんんんっ! 美味し~!」
さすが黒毛和牛。お肉の甘みと旨みのバランスが秀逸。グリル加減も最高。
アキが買って来てくれた“黒毛和牛と野菜のグリル~グレービーソース仕立て”を飲み込んで、もう一度ビールを呷る。
美味しいお肉と良く冷えたビールに、さっきまでのヤサグレ感がスーッと引いて行った。
ビールのランクが落ちたのはちょっと残念だけど、ツボをついた手土産に免じて許してあげるとしよう。
ちなみに、開栓後のビールはアルミホイルを被せてラップをぐるぐる巻きにして冷蔵庫に戻してみた。気が抜けて飲めなかったら、もったいないけど料理に使うつもり。捨てるよりはいいでしょ。
やっとありつけた“ご褒美晩餐”をわたしが堪能していると、隣に座るアキが口を開いた。
「静さんがあんな楽しい企画を準備していたなんて、驚いたな」
「そ、……そう?」
「ああ。優秀なアテンダントだとは知っていたけど、本社の企画部でも十分通用すると思うよ」
「……褒めすぎよ」
「そんなことない。本心からだよ」
ダメ押しのように真面目な顔でそう言われ、頬が熱くなった。
嬉しくないわけじゃないのだけど、彼の正体を考えれば、恐れ多いような恥ずかしいようななんとも言えない気持ちになってしまう。
「……ありがとう」
ぶっきらぼうなお礼の言葉に、アキは「ふふっ」と笑うと頭をぽんぽんと軽く撫でた。
「コンペの結果次第では、静さんもこれから忙しくなるね」
「通れば。でしょ?」
「そうだね。でもきっとそうなるんじゃないかな」
彼からそんなことを言われるなんて思いもよらず、思わず目を見張る。すると彼は、下ろしているわたしの髪に指を絡めながら、口の端を上げた。
「だけどそれはただの勘。僕が何か手心を加えることはない。仕事に関しては、相手が誰であっても妥協はしないから」
そう言った彼の真剣な目つきに“当麻CMO”を感じて、ドキッと胸が跳ねた。仕事のまま来た彼にメガネはない。
“CMO”の余韻を残した今の彼の、髪型が乱れている理由を思い出し、顔がまた熱くなってきた。それを悟られるまいと唇を一度きゅっと強く引き結び、真剣な顔で「もちろんよ」と返す。
『さすが』も何も、それが当たり前だと思う。
恋人だからって “温情”なんてかけてもらっても全然嬉しくない。勝負は実力で勝ちに行かないと意味がないもの。
「さすが静さんだ」
アキが瞳を細めて嬉しそうに微笑んでそう言ったあと、それまでの真面目な顔つきをガラリと変えた。
「ああ~、静さんの活躍は嬉しいけど、会える時間が少なくなるのはなぁ……」
さっきまでの“CMO”の片鱗は消え、すっかりいつもの“アキ”だ。なんだかちょっとホッとする。
腕を組んで眉間にシワを寄せ唸るように言う彼に、思わず笑みが漏れた。
「アキも忙しそうだもんね……」
「う~ん……ひとまず来週が山かなぁ」
「そっか……」
来週もあまり会えないのかと思ったら、やっぱり少し寂しい。でも仕方ない。彼は関西に仕事の出張で来ているのだから。
「いつまで……」
「え、なに?」
「あ、……う、ううん、何でもない」
喉元まで込み上げていた言葉を無理やりに押し込めるようにビールを流し込み、「いつ飲んでも美味しいわね、トーマラガーは!」と笑顔を作る。そして、「お互い、自分の仕事をきちんと頑張りましょう」と言いながらご馳走に箸を延ばした。
「ねぇ、静さん」
「ん?」
アキの方を見ずに返事だけ返す。さっきはお肉を食べたから、今度はエビチリにしようかな。
大好物のエビチリを箸で掴んだ時。
「やっぱり僕の部屋に来てくれない?」
「えっ」
驚いた弾みに箸からエビチリがポロっと。あぶないあぶない。皿の上だったから辛うじてセーフ。
「さっき訊いた時は『無理』って言われたけど、やっぱりそれが一番お互いにとっていいんじゃないかと思うんだ。僕は仕事のあとにあなたにすぐ会えるし着替える必要もない。あなたもあなたで、僕の仕事の都合に生活を乱されずに済むし、僕の訪問を誰かに見られる心配もない」
「そ、それはそうだけど……でも、」
「もちろんいつも、というわけじゃなくていい。僕の部屋に来るのはあなたの気が向いた時で構わないし、僕もこれまで通りここに来るよ。あなたが来るときはタクシーの送迎もつけるから、夜遅くてもいいし、泊った翌朝は職場まで送る。……だから。ね?」
『ね?』って言われましても。
可愛く小首を傾げてわたしの顔をのぞき込みながらのおねだりに、一瞬クラリとする。思わず縦に振りかけた頭を、ブンブンと横に振った。
「い…いやよ……」
「なんで」
「なんでって……」
「静さんは会えなくても平気?忙しい合間を縫って少しでも会いたいと思っているのは僕だけなんだ……」
「そんなこと……」
畳みかけるように言われて言葉に詰まる。
すると、アキは長いまつ毛を伏せ気味にしてうつむき、「僕の我がままだって分かっていても、やっぱり寂しいな……」と呟いた。
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