あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか

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Chapter9*ビール売りの少女@三十路目前

ビール売りの少女@三十路目前[3]—③

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「そんなことないっ!」

咄嗟にそう口にしていた。

「わ、わたしだって少しでも会いたいって……さっきも言った」
「じゃあ、」
「で、でも……」

言い淀むと明るくなりかけていたアキの顔がまた曇った。「でもなに? 何かあるの?」と今度は食い下がらない。仕方なくわたしは口を開いた。

「だって……あそこだとアキ……全然…こと…き…てく……いじゃない……」
「え、なに?」

もごもご・・・・喋ったせいで聞き取れなかったのだろう。訊き返されたあと、垂れ気味の大きな瞳にじっと見つめられる。瞬きひとつせず注視され、わたしはとうとう観念した。

くそっ、もうどうとでもなれ!

「だって、あそこだとアキ、わたしの言うこと全然聞いてくれないんだもん!」

ぎゅっと目をつぶって、半分叫ぶように言った。アキが何かを言う前に、思っていたことを全部言葉にする。

「あの時、わたしが何度ダメって言っても全然訊いてくれなかった! しかもすごく意地悪ばっかりするし……わたし、ダメって言ったのに……」

思い出すだけで顔から火が出そうになる。
わたし、これまでそこそこ・・・・場数を踏んで来たつもりだったけど、三十目前にしてこんなふうに年下にいいように翻弄されるなんて。

これまでわたしの部屋ここでは主導権はわたしにあった。
『ビール克服協定書』の効果もあったとは思うけど、それを作る以前から彼はちゃんとわたしの言うことをそれなりに聞いてくれていた。

家主の言いつけをきちんと守ることが出来る“お行儀のよい”ドラネコだったからこそ、テリトリーに入れるのを許したのだ。
それなのに――。

『何回「ダメ」って言っても聞かないよ。ここはあなたのテリトリーじゃないんだから』

そう言った彼は、うちにいるときとはまるで別人のようで。
忘れられるなら忘れてしまいたいくらいたくさんの意地悪・・・をされた。
この三日間、通勤途中や職場でふと思い出してしまい、その場に穴を掘って埋まりたい衝動に駆られて大変だった。

もうっ、絶対アキの部屋とこには行かない!

そう固く誓ったのだ。

あの夜彼にされた意地悪・・・の数々を思い出して、真っ赤になった顔を両手で覆って悶える。

ちなみに言っときますけど!
ついさっきここのベッドでされたことの比じゃありませんでしたからっ!

すると突然隣から「は~っ」と大きな溜め息が聞こえた。

「またそんな可愛いこと言って――襲われたいの?」
「おそっ…!」

――んなわけあるかっ!

赤い顔を隠すことも忘れて思いっきりじろりと睨みつけると、「だから可愛いって」と意味不明な呟きのあと、すばやくさらうようなキスをされた。

「なっ!」
「あの夜は僕も暴走しすぎたってちょっと反省してるんだ。初めてなのに、やりすぎたかなって」
「やりっ、」

だから言い方!事実を言やぁいいってもんじゃねぇ!それに『初めて』も!だから初めてちゃいますよー!
ねぇ、本当に反省してるの!? しているのならば、『ちょっと』じゃなくて『たくさん』にしてもらえますかね!?

頭の中で渋滞を起こした言葉が、上手く出口から出てこない。ハクハクと口を空振りさせているわたしを、アキがにこにこと見ている。

もうっ!絶対反省してないでしょ!!

「い、……行かないからね」
「えーっ」

また『えーっ』とか言いやがった。このドラネコ王子め。
ていうかそれ、すでに口癖になってないか?

「えー、じゃありません。行かないったら行かないの」
「そうかぁ……残念だなぁ。今度はあの部屋で一緒に夜景を観ながらのんびりルームサービスで食事でも、と思っていたんだけど」

うそ。ルームサービスで夜景?――てことは……。

「あの時は、上の展望ラウンジから少ししか観れなかったし、僕の部屋に来てからはあれこれあったからね。今度こそゆっくりあの場所からの橋の景色を味わってほしかったんだけど」

ううっ、橋……観たい……。

「でも静さんが嫌なら無理にとは、」
「イヤ、ってわけじゃ……」
「そうなの?」
「え、ええ……」
「良かった!」

アキがぱぁっと顔を明るくした。

「じゃあ、静さんがいつ来てくれてもいいように、手配しておくよ!」
「え、いや、まだ行くとは、」
「『女に二言はない』――だよね?」
「っ、」
「来てくれるのを楽しみにしてるよ」

くそっ、やられた~!!この腹黒ドラネコめっ!

言質を取られたわたしは、ほぞを噛むことしか出来なかった。
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