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Interlude*三つ揃えを脱いだネコ side Akiomi
三つ揃えを脱いだネコ[2]ー③
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真っ青な顔をした静さんの助けになればと思ってやったことだったが、結局そんなのは必要なかったのだろう。
彼女はお酒を飲んだあととは思えないくらいに青白い顔をしているにもかかわらず、毅然とした態度でこう言った。
『今になって謝ってくれなくてもいい』
『それよりも元気な赤ちゃんを産んで』
『お幸せに』
そして幸せに満ちあふれた新婦のように、可愛らしくも美しく微笑んだ。
なんてかっこいい女性なんだ――!
痺れるような熱い感情が込み上げた。
本当はもっと言いたいことやぶつけたい思いがあったに違いない。
だけどそれをすべて飲み込んでなお、相手を許すことが出来る。なんて懐の深い女性なんだろう。
そんな女性と出会ったのは初めてだった。
そう思うと同時に、彼女のことを心の底から守ってあげたいとも思った。
僕の腕に乗っている小さな手が、ずっと小刻みに震えているのにも気付いていたから。
強がりで意地っ張りな彼女を、僕がどろどろに甘やかしてやりたい。
彼女が溶けて素直になる姿がみたい。
本能が僕に告げる。
『静川吉野を逃すな』
エレベーターの中で肩を震わせ泣きじゃくる彼女を抱きしめながら、僕は焼きちぎれそうなほど嫉妬していた。
くそっ…!彼女が好きなのがあんな“年上”なら、どう足掻いたって自分には勝ち目はないじゃないか。
失恋で転職するほど好きな相手だったのだ。
三年経った今でも忘れていないのも肯ける。
それほどまでに彼女に思われている、相手の男が憎たらしいほど羨ましかった。
けれど今はそんな嫉妬心に駆られている場合ではない。彼女の状態を何とかしなければと意識を切り替える。
今は真冬。全館暖房で温かいホテルと違って外は寒い。濡れた服を着たままだと風邪を引いてしまうだろう。
そうじゃなくても、涙に濡れた彼女をこのまま帰すなんて出来るわけもない。
そう考えた僕は、自分が滞在している部屋へ彼女を連れていくことにした。
濡れた服はホテルのクリーニングに。代わりの着替えをコンシェルジュに手配すればいい。着替えが来るまでは仕方がないからガウンを着ておいてもらおう。
幸い部屋はスイートタイプ。ベッドルームとリビングルームが分かれているから、変に意識せずに済むだろう。
そう思ってバスルームでガウンを差し出したのに、彼女はそれをあっさり拒んだ。
潤んだ瞳。頬にはまだ乾かない涙の跡。何度も啜ったせいで赤くなっている鼻先。
そんな顔をしているくせに、何事もなかったかのように平然とした態度を装って、頑なに『帰る』と言い張る。
それはさっき彼女が斎藤にしたのと同じ――拒絶だ。
それに気付いた瞬間、僕の中の何かがブチンと音を立てた。
彼女の腕を掴んだ。そして有無を言わさずシャワールームへ。
彼女が驚きの声を上げると同時に、シャワーのコックを思いっきり上げた。
今思えば、音を立てて焼き切れたのは“理性”。
人生初の『マジギレ』 だった。
勢いよく落ちるシャワーの水が、髪も服も容赦なく濡らしていく。
そんなことに気を払う余裕すらなく、僕は彼女の唇を貪っていく。
甘くて甘くて堪らない。
まるでとろとろになるまで煮詰めたシロップか、熟れ落ちる寸前の濃厚な果実のよう。
舐めても吸っても尽きることのない彼女の味を、ただ本能的のままに奪い取っていく。
どれくらいそうしていただろう。
ごほっと咽る音に、ハッと我に返った。
苦しそうに咳き込みながらも、僕から距離を取る彼女。
いつもとは違う、本気で怒っている表情と怯えたような気配。
胸が深く抉られるような痛みが走った。
そして、その痛みが脳天まで届いた時、ハッキリと気が付いた。
ああそうか。
僕は彼女が――静川吉野が好きなんだ。
だから彼女に愛されている男が羨ましくて妬ましいのか。
本当は、ずっと彼女のことが欲しくて堪らなかったんだ。
本当は分かっていた。
もし、再び抱いてしまったら――もう絶対に手放せない。逃がしてやれない。
簡単に「好きだ」と、「自分のものになって」と、言えるほど僕の立場は簡単なものじゃない。
隣に立つ女性には、「苦労のひとつもかけない」なんて口が裂けても言えない。
それは母を見てよく分かっていた。
元来体が弱かった母。
だけどそれでも父の、【Tohma】のトップのために無理を押してでも自分の役目を全うしようとしていた。
体が辛そうにしているのを見たのも一度や二度ではない。妹を産んでからは体調が万全な日の方が少なかった。
常に何かの薬を服用している母のことを、父はいつも甲斐甲斐しく世話を焼いていた。そのことは今でもよく覚えている。
薬の飲み方や体調が悪い時の対処法のほとんどは、両親を見ているうちに自然と覚えたのだ。
だけど、たとえ体が丈夫だとしても、大きな苦労を強いることは間違いない。
もしも心から愛する相手に巡り合えたとして、僕はその人にそんな過酷な道を選べと言えるのだろうか。
愛するがゆえに手放さないといけない日が来るかもしれない。
万が一、その人を手に入れられたとしても、いつか必ず永遠の別れが来る。
その時自分は、平静のままいられるだろうか。
母を亡くしたあとの父の姿を見ていると、とてもそうは思えなかった。
それならいっそ、巡り合わない方がいい。
当麻に嫁いでくる女性は、まったく知らない政略結婚の相手で良いと思っていたのだ。
それなのに――。
『馬鹿だと思うよ自分でも。――それでもあなたが欲しいんだ』
彼女はお酒を飲んだあととは思えないくらいに青白い顔をしているにもかかわらず、毅然とした態度でこう言った。
『今になって謝ってくれなくてもいい』
『それよりも元気な赤ちゃんを産んで』
『お幸せに』
そして幸せに満ちあふれた新婦のように、可愛らしくも美しく微笑んだ。
なんてかっこいい女性なんだ――!
痺れるような熱い感情が込み上げた。
本当はもっと言いたいことやぶつけたい思いがあったに違いない。
だけどそれをすべて飲み込んでなお、相手を許すことが出来る。なんて懐の深い女性なんだろう。
そんな女性と出会ったのは初めてだった。
そう思うと同時に、彼女のことを心の底から守ってあげたいとも思った。
僕の腕に乗っている小さな手が、ずっと小刻みに震えているのにも気付いていたから。
強がりで意地っ張りな彼女を、僕がどろどろに甘やかしてやりたい。
彼女が溶けて素直になる姿がみたい。
本能が僕に告げる。
『静川吉野を逃すな』
エレベーターの中で肩を震わせ泣きじゃくる彼女を抱きしめながら、僕は焼きちぎれそうなほど嫉妬していた。
くそっ…!彼女が好きなのがあんな“年上”なら、どう足掻いたって自分には勝ち目はないじゃないか。
失恋で転職するほど好きな相手だったのだ。
三年経った今でも忘れていないのも肯ける。
それほどまでに彼女に思われている、相手の男が憎たらしいほど羨ましかった。
けれど今はそんな嫉妬心に駆られている場合ではない。彼女の状態を何とかしなければと意識を切り替える。
今は真冬。全館暖房で温かいホテルと違って外は寒い。濡れた服を着たままだと風邪を引いてしまうだろう。
そうじゃなくても、涙に濡れた彼女をこのまま帰すなんて出来るわけもない。
そう考えた僕は、自分が滞在している部屋へ彼女を連れていくことにした。
濡れた服はホテルのクリーニングに。代わりの着替えをコンシェルジュに手配すればいい。着替えが来るまでは仕方がないからガウンを着ておいてもらおう。
幸い部屋はスイートタイプ。ベッドルームとリビングルームが分かれているから、変に意識せずに済むだろう。
そう思ってバスルームでガウンを差し出したのに、彼女はそれをあっさり拒んだ。
潤んだ瞳。頬にはまだ乾かない涙の跡。何度も啜ったせいで赤くなっている鼻先。
そんな顔をしているくせに、何事もなかったかのように平然とした態度を装って、頑なに『帰る』と言い張る。
それはさっき彼女が斎藤にしたのと同じ――拒絶だ。
それに気付いた瞬間、僕の中の何かがブチンと音を立てた。
彼女の腕を掴んだ。そして有無を言わさずシャワールームへ。
彼女が驚きの声を上げると同時に、シャワーのコックを思いっきり上げた。
今思えば、音を立てて焼き切れたのは“理性”。
人生初の『マジギレ』 だった。
勢いよく落ちるシャワーの水が、髪も服も容赦なく濡らしていく。
そんなことに気を払う余裕すらなく、僕は彼女の唇を貪っていく。
甘くて甘くて堪らない。
まるでとろとろになるまで煮詰めたシロップか、熟れ落ちる寸前の濃厚な果実のよう。
舐めても吸っても尽きることのない彼女の味を、ただ本能的のままに奪い取っていく。
どれくらいそうしていただろう。
ごほっと咽る音に、ハッと我に返った。
苦しそうに咳き込みながらも、僕から距離を取る彼女。
いつもとは違う、本気で怒っている表情と怯えたような気配。
胸が深く抉られるような痛みが走った。
そして、その痛みが脳天まで届いた時、ハッキリと気が付いた。
ああそうか。
僕は彼女が――静川吉野が好きなんだ。
だから彼女に愛されている男が羨ましくて妬ましいのか。
本当は、ずっと彼女のことが欲しくて堪らなかったんだ。
本当は分かっていた。
もし、再び抱いてしまったら――もう絶対に手放せない。逃がしてやれない。
簡単に「好きだ」と、「自分のものになって」と、言えるほど僕の立場は簡単なものじゃない。
隣に立つ女性には、「苦労のひとつもかけない」なんて口が裂けても言えない。
それは母を見てよく分かっていた。
元来体が弱かった母。
だけどそれでも父の、【Tohma】のトップのために無理を押してでも自分の役目を全うしようとしていた。
体が辛そうにしているのを見たのも一度や二度ではない。妹を産んでからは体調が万全な日の方が少なかった。
常に何かの薬を服用している母のことを、父はいつも甲斐甲斐しく世話を焼いていた。そのことは今でもよく覚えている。
薬の飲み方や体調が悪い時の対処法のほとんどは、両親を見ているうちに自然と覚えたのだ。
だけど、たとえ体が丈夫だとしても、大きな苦労を強いることは間違いない。
もしも心から愛する相手に巡り合えたとして、僕はその人にそんな過酷な道を選べと言えるのだろうか。
愛するがゆえに手放さないといけない日が来るかもしれない。
万が一、その人を手に入れられたとしても、いつか必ず永遠の別れが来る。
その時自分は、平静のままいられるだろうか。
母を亡くしたあとの父の姿を見ていると、とてもそうは思えなかった。
それならいっそ、巡り合わない方がいい。
当麻に嫁いでくる女性は、まったく知らない政略結婚の相手で良いと思っていたのだ。
それなのに――。
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