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Interlude*三つ揃えを脱いだネコ side Akiomi
三つ揃えを脱いだネコ[2]ー③
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なんて愚かなのだろう。
一瞬でもいい。今夜だけでも彼女が手に入るのなら、あとはもう何も要らないだなんて――。
彼女と過ごす最後の時間になるかもしれないと思うだけで、胸が痛いほど締め付けられてしまう。
だけど彼女が泣きながら叫んだ言葉に、横っ面を叩かれたような衝撃を受けた。
『ずるいわよっ……好きにさせるだけさせて!』
今なんて――?
彼女は誰に『好きにさせられた』んだ?
半信半疑になりながら訊き返すが、彼女は意味の分からないことを口走る。
どうやら出会った日に僕が『傷心旅行、みたいなもの』と言ったことを、失恋したのだと勘違いしていたようだ。
それからお互いがお互いに少しずつ勘違いしていたことを解いた。
誤解が解けたせいなのか、妙に頭の中がクリアになった。自分の全神経が彼女に集中するのを感じる。
それはまるで獲物に狙いを定めた猛禽類。
『あなたを「好きにさせた」のは誰?』
一瞬の隙も見逃さないよう瞬きすらせず、そう口にした。
『アキが好き…!アキのことが……わたしが好きなのは、きみなの……』
彼女の言葉に胸が痛いほど高鳴った。
やっと欲しかった言葉が聞けた喜びに胸が震えたのも束の間。
彼女は『もう会わない』『すぐに忘れる』『あるべき場所に帰って』と言う。
喜びに満ちていた胸が、引き攣れるような痛みに襲われた。―――と同時に、腹も立った。
強引に彼女からその言葉を引き出した自分のことを棚に上げて、彼女のことを『勝手だ』と罵ってしまう。
『そんな自分の方が勝手だろう』
頭の片隅でもう一人の僕が言う。
『おまえの身勝手なわがままで、彼女を面倒な世界に巻き込むなよ』
そんなことは分かっている!
だけど満杯になったグラスから水がこぼれ落ちるように、僕は自分を止めることが出来ない。
『あなたが好きだ』
溢れ出る感情に突き動かされ、僕は想いを口にした。
想いが通じ合ったことが堪らなく嬉しくて、再び焼き切れた理性。
それを取り戻させたのは、彼女の『両想いになって初めてがお風呂なんてイヤ』という、なんとも可愛らしいセリフ。
彼女が年相応に世慣れていることは分かっている。
最初の時、出会ったばかりの僕を家に招いたくらいだ。そのあとのことも然り、キスくらいでは動じないことも然り。
それなのに、そんなところには拘るのかと思ったら、年上には見えないくらい可愛く思えて、すごく嬉しくなった。
そして、どれだけ自分が余裕を失くしていたかを思い知った。
己の暴走を反省した僕は、彼女の希望を優先することにした。
だけど、やっぱり我慢したら我慢しただけその反動は大きくて、最終的にはこの有様。
ベッドの上では好きなだけ貪り尽くしたせいで、すべてが終わったあと彼女は半分意識を飛ばすように眠ってしまった。
でも我慢させたのは彼女なのだから、責任の半分は彼女にもあると思う。そう言ったら確実に怒られるだろうけど。
(僕はちゃんと勧告したからね……こうなったら逃さないって)
あとから「聞いてない」なんて言ってももう遅い。
堕ちてきたのは彼女自身。
受け止めたからには、絶対に離さない。たとえ本人がそれを望まなくても。
じりじりと焦がされるような痛みに眉を寄せながら、眠る彼女にくちづけを落とす。
乾いた唇を舌で少し湿らせてやると、むず痒そうに彼女が顔を動かした。
ほんの少しなぞっただけの唇はやっぱり甘くて、自制が効かなくなる予感が確信に変わりそうになる。
立春を翌日に控えた今。夜明けまでまだ時間はある。
きっと彼女が目が覚めたら、お叱りを受けるんだろうなぁ。
怒った顔も可愛いし、早く目を覚まして僕を見て笑顔になって欲しいとも思う。
だけどそれと同じくらい、もう少し休ませてあげたいとも思った。
数時間前まで我を忘れて貪るように抱き潰した自覚はあるから。
あどけない寝顔にもう一度軽くくちづけると、僕はそっとベッドから抜け出した。
一瞬でもいい。今夜だけでも彼女が手に入るのなら、あとはもう何も要らないだなんて――。
彼女と過ごす最後の時間になるかもしれないと思うだけで、胸が痛いほど締め付けられてしまう。
だけど彼女が泣きながら叫んだ言葉に、横っ面を叩かれたような衝撃を受けた。
『ずるいわよっ……好きにさせるだけさせて!』
今なんて――?
彼女は誰に『好きにさせられた』んだ?
半信半疑になりながら訊き返すが、彼女は意味の分からないことを口走る。
どうやら出会った日に僕が『傷心旅行、みたいなもの』と言ったことを、失恋したのだと勘違いしていたようだ。
それからお互いがお互いに少しずつ勘違いしていたことを解いた。
誤解が解けたせいなのか、妙に頭の中がクリアになった。自分の全神経が彼女に集中するのを感じる。
それはまるで獲物に狙いを定めた猛禽類。
『あなたを「好きにさせた」のは誰?』
一瞬の隙も見逃さないよう瞬きすらせず、そう口にした。
『アキが好き…!アキのことが……わたしが好きなのは、きみなの……』
彼女の言葉に胸が痛いほど高鳴った。
やっと欲しかった言葉が聞けた喜びに胸が震えたのも束の間。
彼女は『もう会わない』『すぐに忘れる』『あるべき場所に帰って』と言う。
喜びに満ちていた胸が、引き攣れるような痛みに襲われた。―――と同時に、腹も立った。
強引に彼女からその言葉を引き出した自分のことを棚に上げて、彼女のことを『勝手だ』と罵ってしまう。
『そんな自分の方が勝手だろう』
頭の片隅でもう一人の僕が言う。
『おまえの身勝手なわがままで、彼女を面倒な世界に巻き込むなよ』
そんなことは分かっている!
だけど満杯になったグラスから水がこぼれ落ちるように、僕は自分を止めることが出来ない。
『あなたが好きだ』
溢れ出る感情に突き動かされ、僕は想いを口にした。
想いが通じ合ったことが堪らなく嬉しくて、再び焼き切れた理性。
それを取り戻させたのは、彼女の『両想いになって初めてがお風呂なんてイヤ』という、なんとも可愛らしいセリフ。
彼女が年相応に世慣れていることは分かっている。
最初の時、出会ったばかりの僕を家に招いたくらいだ。そのあとのことも然り、キスくらいでは動じないことも然り。
それなのに、そんなところには拘るのかと思ったら、年上には見えないくらい可愛く思えて、すごく嬉しくなった。
そして、どれだけ自分が余裕を失くしていたかを思い知った。
己の暴走を反省した僕は、彼女の希望を優先することにした。
だけど、やっぱり我慢したら我慢しただけその反動は大きくて、最終的にはこの有様。
ベッドの上では好きなだけ貪り尽くしたせいで、すべてが終わったあと彼女は半分意識を飛ばすように眠ってしまった。
でも我慢させたのは彼女なのだから、責任の半分は彼女にもあると思う。そう言ったら確実に怒られるだろうけど。
(僕はちゃんと勧告したからね……こうなったら逃さないって)
あとから「聞いてない」なんて言ってももう遅い。
堕ちてきたのは彼女自身。
受け止めたからには、絶対に離さない。たとえ本人がそれを望まなくても。
じりじりと焦がされるような痛みに眉を寄せながら、眠る彼女にくちづけを落とす。
乾いた唇を舌で少し湿らせてやると、むず痒そうに彼女が顔を動かした。
ほんの少しなぞっただけの唇はやっぱり甘くて、自制が効かなくなる予感が確信に変わりそうになる。
立春を翌日に控えた今。夜明けまでまだ時間はある。
きっと彼女が目が覚めたら、お叱りを受けるんだろうなぁ。
怒った顔も可愛いし、早く目を覚まして僕を見て笑顔になって欲しいとも思う。
だけどそれと同じくらい、もう少し休ませてあげたいとも思った。
数時間前まで我を忘れて貪るように抱き潰した自覚はあるから。
あどけない寝顔にもう一度軽くくちづけると、僕はそっとベッドから抜け出した。
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