あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか

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Interlude*三つ揃えを脱いだネコ side Akiomi

三つ揃えを脱いだネコ[1]ー②

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サクっと音を立てる衣、さつま芋のホクホクとした食感と口の中に広がる甘み。

本場の串カツは、なんて口当たりが軽いんだろう。
揚げ物なのに細かい衣がサクっとしていて重たくない。だから種類の多いネタをあれこれと試すのが余計に楽しい。さすがナギさんのお墨付きの店だけある。

(今度美寧みねにも食べさせてやりたいな……)

関西にはこんなに美味しいものがあるんだって教えてあげたい。
僕の一番の宝物である妹に。

僕の母は、僕が九歳時に亡くなった。
妹はまだたった三歳だった。

幼い彼女は母の顔なんてきっとすぐに忘れてしまうだろう。
母との思い出を持たずに育つ妹に、僕が母との思い出を教えてあげなければ。母の分まで妹を大事にしよう、守っていこう――そう思った。

本当は妹の存在に救われていたのはきっと僕の方。

母を失ったあと、僕のそばから離れない妹の温もりと存在は、何より僕の心を励ました。
悲しくて寂しくて堪らなかった時には、『僕には守らなきゃいけない子がいるんだ』――そう自分に言い聞かせ、悲しんでばかりはいられないと自分を鼓舞した。

だけど、当時CEOに就任したばかりの父は仕事に忙しく、幼く体の弱かった妹はやむを得ず高原地に隠居している母方の祖父の元に預けられることに。

僕は子どもの自分が不甲斐なかった。
僕がもし大人だったら。せめてもう少し大きかったら、妹と離れずに済んだのに。
そう思わずにはいられなかった。

長期の休みの度に祖父の家に遊びに行ったが、車でも電車でも二時間ほどかかる場所。
学年が上がるにつれ忙しくなっていき、どうしても彼女の顔を見られる頻度は下がってしまう。
それでも、たまに顔を合わせると妹はとても嬉しそうな顔で「お兄さま」と笑顔になってくれるのだ。
普段一緒にいられないことも手伝って、妹の笑顔見たさに僕は彼女の好きなスイーツばかりを探し求めるようになった。

早く妹と一緒に暮らせるようになりたい。その為には早く僕がしっかりしなければ。
そのことが常に僕の根底にあった。

僕さえ一人前になれば、母が亡くなってから仕事漬けになっている父の助けにもなれるだろう。
忙しい父の為にも離れて暮らす妹の為にも、一刻も早く一人前になりたかった。
その為には着実に結果を収めて、誰もが認めるTohmaの後継者にならなければ。

優秀であれ。逸材たれ。
そう自分に課した結果、今では誰もが認める『品行方正で優秀な御曹司』が出来上がったのだろう。

そうしてやっと欧州で、現地でクラフトビールを作っている企業との業務提携を交わす契約を取り付け、予定よりも早く日本に帰国することに。

やっとだ。これでやっと、家族みんなで暮らすことが出来る。

期待に胸が膨らむような、ホッと胸を撫でおろしたいような。
そんな気持ちで僕は日本に帰ってきた。

だけど――その矢先。

僕にとって一番の宝物は、他の男のものになってしまった。

知らない人も多いだろうから説明するが、僕の宝物の名前は、当麻美寧(とうまみね)。
身長は百五十二センチ。細身で小さくて可愛らしい女の子だ。

腰まであるふわふわの波打つ髪は、僕と同じように色素が薄い茶色。髪質はどうやら兄妹そろって母譲りのよう。
だけど丸くて大きな瞳は、僕とは逆に少しだけ目じりが上に上がっている。僕の垂れ目は父親似、妹は母親似だ。
さくらんぼみたいな小さな唇に、スッと通った鼻筋。それらすべてが白くすべすべとした小さな顔に美しく収まっている。

兄の欲目を差し引いても、絶対に世界一可愛い。
なにより僕を見た時の嬉しそうな笑顔は天使だ。

もしも彼女ひとりで社交場に出したら、余計な男がたくさん寄ってくるだろう。
そのことが気が気じゃなくて、近しい身内の会以外に彼女を出したことはないくらいだ。

もし妹の相手がろくでもない男で、純粋な妹を誑かしているのなら、どんな手を遣ってでも奪い返すつもりだった。
万が一にでも妹を悲しませたり苦しめたりしているようなら、僕の持ち得るすべてを使ってでも、容赦ない制裁を与えるつもりでいた。

そんなふうに考えながら僕は妹を迎えに行ったのに、彼女は眉をひそめ嫌悪感をあらわにし、ハッキリと『帰らない』と言ったのだ。

あの時のショックと言ったら……!

普段はどんな時でも冷静でいることが出来るのに、僕は動揺のあまり原因となった相手に『妹を誑かすな』と詰め寄ってしまった。

結果――妹はこれまで一度も見たことがない強い瞳で僕を睨み、『大嫌い』と言ったのだ。

ああ、今思い返してもショックすぎる……!

だけど今はもう分かっている。
あれはただの八つ当たり。大事な妹を取られると嫉妬したのだ。

結局、色々あったけれど、相手の男性も真面目でしっかりした方だということが分かり、父も反対していないどころか、最初から彼のことを容認していたようにも見える。

父が反対していないのに、兄の僕だけがどうこう言っても仕方ない。何より妹本人が好きになった相手だ。兄としては寂しいけれど、無理やり引き裂くようなことが出来るはずもない。

――なんてただの後付け。

僕はただ、もう一度妹に『大嫌い』と言われたくなかっただけなんだ。

だから表面的には大事な妹の結婚に納得しているように見せているけれど、頭で分かっていても気持ちがついて行かないこともある。
『一緒に暮らせなくても幸せでいてくれたらいい』と思えるようになったけれど、だからと言ってそうそう傷心が癒えるわけじゃない。

離れて暮らしていたこれまでの分、これからは彼女のそばで思う存分注ぎ尽くそうと思っていた愛情は、行き場を失くして宙ぶらりん。
この心の中にぽっかりと空いた穴は、いったいどうやったら塞がるのだろうか。
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