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第1章 民間伝承研究部編
積元傾子のリスタート3
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病のせいで早すぎる死を迎えた私だが、気づいたら娘の後輩と一緒に真っ白な部屋にいた。
「あ、気づきました?」
「た、縦軸君?ここは……」
「多分〈転生師〉、僕のスキルの効果ですね」
ああそうか、確かにこの子と約束していた。彼によると、彼は微と同じようにスキルという不思議な力を持っていて彼の場合は「死者を異世界に生まれ変わらせる力」らしい。もう寿命が残りわずかだった私は彼のスキルを頼ったのだ。
ん?てか今彼、多分スキルの効果って言った⁉︎
「ね、ねえ縦軸君、この部屋って君のスキルの力でできてるんだよね?」
「はい、多分」
多分って言ったーーー!
「いや、そんな露骨に不安がらないで!違うんです!こうなるってことは分かってたんですけど、初めてだから本当にこんなことになるって確信持てなくて……」
な、なんだ、びっくりしたじゃない。
「そうだったのね。もしかして縦軸君、この力使うの初めて?」
「うーん……ここまで本気で使ったのは初めてですね。いつもは無意識でやってるので」
何それ、怖!
「まあ使い方は分かってるから大丈夫です。さあ傾子さん、あなたの来世を決めましょう!」
そうね。今はこの子を信じるしかない。それが私にできる最適解だ。
「分かったわ。ええっとそれで……どうすればいいのかしら」
「そうですね……何か要望があれば言ってください。大抵は叶えられると思います」
あ、これあれだ。「晩ご飯どうする?」に「何でもいいよ」で返されてしまうあれだ。
「それだと逆に何も思いつかないわね」
「そうですか。じゃあ……種族とかどうですか?向こうの世界ってファンタジーそのものですから、人間以外の種族も暮らしてるみたいですよ。魔法もありますし」
へえ、本当にファンタジーみたいね。
「例えば?」
「えっと、ちょっと待ってください。どれどれ……おお、エルフとかドワーフとかがあるみたいですね。他にも吸血鬼に人狼にウェンディゴ……あ、こいつらは魔物か」
縦軸君が指で何かを動かしながら話してくる。こちらには何も見えないが、あの手の動きはタブレットか何かの画面をなぞっているかのようだ。
そして今の話を聞く限り、ちょっと興味深い種族があった。
「縦軸君、ちょっといい?」
そこからどんな種族に生まれ変わりたいか具体的に詰めていった。驚いたこと縦軸君には向こうの種族の知識が備わっており、彼曰く「スキル発動中しか覚えてられないみたいですけど」とのことだ。
「本当にいいんですか」
「ええ、後悔は無いわ。これでお願い」
「分かりました。それでは次に……」
その後は性別とか諸々の条件を話し合った。素敵ね、性別を選択できるって。
「あ、それとスキルどうしますか?」
ついに来た。微や縦軸君が使っている不思議な力。その人だけが使える異能力。これは私の来世に大きく影響してくる。だけど……
「ごめんなさい縦軸君。特に要望は無いの。お任せしてもいいかしら?」
「え?いいんですか?」
「ええ。正直、健康に来世を過ごせれば特に要望は無いのよね。向こうで恋人や子供を作るつもりもないし、人並みに生活できればいいかなって」
本心だ。夫以外と恋に落ちるとは思えないし、健康にのんびりと暮らせればあとは成り行きに任せようと思ったのだ。
そんな私の要望を受けて悩んでいた縦軸君だったが、途端にどこか決まりが悪そうな顔になった。
「傾子さん、実は1つ頼みがあります」
「あら、何かしら?」
「人探しを頼みたいんです」
「人探し?」
「はい。実は……」
その時、私は縦軸君が微と出会う前のことを初めて聞いた。お姉さんがいたこと、そのお姉さんが自殺したこと、それからスキルに目覚めて今まで頑張ってきたこと。
どうしてだろう。微と重ね合わせてしまった。
「そうだったのね。つまり私はあなたのお姉さん、愛さんの生まれ変わりを探せばいいのね。そしてできれば彼女を連れ戻す方法も」
「はい。正直見つからない可能性の方が、いえ、会えない可能性の方が大きいですが」
確かにね。水を差すようで悪いけど彼のお姉さんが転生してない可能性だってあるわけだし。
けどね、あり得ないとか可能性が低いとか、そんなのはもう慣れたわ!
「分かった、探してあげる」
「え?」
「もちろん私自身の人生もエンジョイさせてもらうわよ?その上で引き受けるわ、あなたのお姉さん探し。
だから縦軸君、あなたも信じなさい。それが巻き込んだ者としての責任よ」
「傾子さん……ありがとうございます!」
この子の素直さを見れば、彼の家族がどれだけ素敵な人たちなのか分かる。
心の底からお姉さんのことが好きでないとこんな執念は生まれないだろう。
「じゃあもし姉がいたら見つけやすくなるスキルつけときますね」
「あら、どんなスキル?」
「そうですね……分かりやすくいうと『千里眼』、でしょうか。
詳細は実際に生まれ変わってから覚えてください」
「分かったわ」
「それじゃあええっと……よし、準備できました。傾子さん、姉のことを頼みます」
「ええ、ありがとう縦軸君、そっちも微をよろしくね。それと、何か伝言はある?あなたのお姉さんに」
「……いえ、自分で伝えます」
少し悩んだあと縦軸君はそう応えた。その選択肢が出るあたり、本気ね。
「それじゃあ傾子さん、よい来世を」
縦軸君の言葉とともに私の体はふわりと軽くなる。誰かに手を引かれるような感覚の後、私の意識は暗転した。
そして産声は上がる。私はエルフの血を引く少女リムノに生まれ変わった。
「あ、気づきました?」
「た、縦軸君?ここは……」
「多分〈転生師〉、僕のスキルの効果ですね」
ああそうか、確かにこの子と約束していた。彼によると、彼は微と同じようにスキルという不思議な力を持っていて彼の場合は「死者を異世界に生まれ変わらせる力」らしい。もう寿命が残りわずかだった私は彼のスキルを頼ったのだ。
ん?てか今彼、多分スキルの効果って言った⁉︎
「ね、ねえ縦軸君、この部屋って君のスキルの力でできてるんだよね?」
「はい、多分」
多分って言ったーーー!
「いや、そんな露骨に不安がらないで!違うんです!こうなるってことは分かってたんですけど、初めてだから本当にこんなことになるって確信持てなくて……」
な、なんだ、びっくりしたじゃない。
「そうだったのね。もしかして縦軸君、この力使うの初めて?」
「うーん……ここまで本気で使ったのは初めてですね。いつもは無意識でやってるので」
何それ、怖!
「まあ使い方は分かってるから大丈夫です。さあ傾子さん、あなたの来世を決めましょう!」
そうね。今はこの子を信じるしかない。それが私にできる最適解だ。
「分かったわ。ええっとそれで……どうすればいいのかしら」
「そうですね……何か要望があれば言ってください。大抵は叶えられると思います」
あ、これあれだ。「晩ご飯どうする?」に「何でもいいよ」で返されてしまうあれだ。
「それだと逆に何も思いつかないわね」
「そうですか。じゃあ……種族とかどうですか?向こうの世界ってファンタジーそのものですから、人間以外の種族も暮らしてるみたいですよ。魔法もありますし」
へえ、本当にファンタジーみたいね。
「例えば?」
「えっと、ちょっと待ってください。どれどれ……おお、エルフとかドワーフとかがあるみたいですね。他にも吸血鬼に人狼にウェンディゴ……あ、こいつらは魔物か」
縦軸君が指で何かを動かしながら話してくる。こちらには何も見えないが、あの手の動きはタブレットか何かの画面をなぞっているかのようだ。
そして今の話を聞く限り、ちょっと興味深い種族があった。
「縦軸君、ちょっといい?」
そこからどんな種族に生まれ変わりたいか具体的に詰めていった。驚いたこと縦軸君には向こうの種族の知識が備わっており、彼曰く「スキル発動中しか覚えてられないみたいですけど」とのことだ。
「本当にいいんですか」
「ええ、後悔は無いわ。これでお願い」
「分かりました。それでは次に……」
その後は性別とか諸々の条件を話し合った。素敵ね、性別を選択できるって。
「あ、それとスキルどうしますか?」
ついに来た。微や縦軸君が使っている不思議な力。その人だけが使える異能力。これは私の来世に大きく影響してくる。だけど……
「ごめんなさい縦軸君。特に要望は無いの。お任せしてもいいかしら?」
「え?いいんですか?」
「ええ。正直、健康に来世を過ごせれば特に要望は無いのよね。向こうで恋人や子供を作るつもりもないし、人並みに生活できればいいかなって」
本心だ。夫以外と恋に落ちるとは思えないし、健康にのんびりと暮らせればあとは成り行きに任せようと思ったのだ。
そんな私の要望を受けて悩んでいた縦軸君だったが、途端にどこか決まりが悪そうな顔になった。
「傾子さん、実は1つ頼みがあります」
「あら、何かしら?」
「人探しを頼みたいんです」
「人探し?」
「はい。実は……」
その時、私は縦軸君が微と出会う前のことを初めて聞いた。お姉さんがいたこと、そのお姉さんが自殺したこと、それからスキルに目覚めて今まで頑張ってきたこと。
どうしてだろう。微と重ね合わせてしまった。
「そうだったのね。つまり私はあなたのお姉さん、愛さんの生まれ変わりを探せばいいのね。そしてできれば彼女を連れ戻す方法も」
「はい。正直見つからない可能性の方が、いえ、会えない可能性の方が大きいですが」
確かにね。水を差すようで悪いけど彼のお姉さんが転生してない可能性だってあるわけだし。
けどね、あり得ないとか可能性が低いとか、そんなのはもう慣れたわ!
「分かった、探してあげる」
「え?」
「もちろん私自身の人生もエンジョイさせてもらうわよ?その上で引き受けるわ、あなたのお姉さん探し。
だから縦軸君、あなたも信じなさい。それが巻き込んだ者としての責任よ」
「傾子さん……ありがとうございます!」
この子の素直さを見れば、彼の家族がどれだけ素敵な人たちなのか分かる。
心の底からお姉さんのことが好きでないとこんな執念は生まれないだろう。
「じゃあもし姉がいたら見つけやすくなるスキルつけときますね」
「あら、どんなスキル?」
「そうですね……分かりやすくいうと『千里眼』、でしょうか。
詳細は実際に生まれ変わってから覚えてください」
「分かったわ」
「それじゃあええっと……よし、準備できました。傾子さん、姉のことを頼みます」
「ええ、ありがとう縦軸君、そっちも微をよろしくね。それと、何か伝言はある?あなたのお姉さんに」
「……いえ、自分で伝えます」
少し悩んだあと縦軸君はそう応えた。その選択肢が出るあたり、本気ね。
「それじゃあ傾子さん、よい来世を」
縦軸君の言葉とともに私の体はふわりと軽くなる。誰かに手を引かれるような感覚の後、私の意識は暗転した。
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