転生遺族の循環論法

はたたがみ

文字の大きさ
上 下
64 / 140
第1章 民間伝承研究部編

積元傾子のリスタート3

しおりを挟む
 病のせいで早すぎる死を迎えた私だが、気づいたら娘の後輩と一緒に真っ白な部屋にいた。

「あ、気づきました?」
「た、縦軸君?ここは……」
転生師トラックメイカー〉、僕のスキルの効果ですね」

 ああそうか、確かにこの子と約束していた。彼によると、彼は微と同じようにスキルという不思議な力を持っていて彼の場合は「死者を異世界に生まれ変わらせる力」らしい。もう寿命が残りわずかだった私は彼のスキルを頼ったのだ。

 ん?てか今彼、スキルの効果って言った⁉︎

「ね、ねえ縦軸君、この部屋って君のスキルの力でできてるんだよね?」
「はい、多分」

 多分って言ったーーー!

「いや、そんな露骨に不安がらないで!違うんです!こうなるってことは分かってたんですけど、初めてだから本当にこんなことになるって確信持てなくて……」

 な、なんだ、びっくりしたじゃない。

「そうだったのね。もしかして縦軸君、この力使うの初めて?」
「うーん……ここまで本気で使ったのは初めてですね。いつもは無意識でやってるので」

 何それ、怖!

「まあ使い方は分かってるから大丈夫です。さあ傾子さん、あなたの来世を決めましょう!」

 そうね。今はこの子を信じるしかない。それが私にできる最適解だ。

「分かったわ。ええっとそれで……どうすればいいのかしら」
「そうですね……何か要望があれば言ってください。大抵は叶えられると思います」

 あ、これあれだ。「晩ご飯どうする?」に「何でもいいよ」で返されてしまうあれだ。

「それだと逆に何も思いつかないわね」
「そうですか。じゃあ……種族とかどうですか?向こうの世界ってファンタジーそのものですから、人間以外の種族も暮らしてるみたいですよ。魔法もありますし」

 へえ、本当にファンタジーみたいね。

「例えば?」
「えっと、ちょっと待ってください。どれどれ……おお、エルフとかドワーフとかがあるみたいですね。他にも吸血鬼に人狼にウェンディゴ……あ、こいつらは魔物か」

 縦軸君が指で何かを動かしながら話してくる。こちらには何も見えないが、あの手の動きはタブレットか何かの画面をなぞっているかのようだ。
 そして今の話を聞く限り、ちょっと興味深い種族があった。

「縦軸君、ちょっといい?」

 そこからどんな種族に生まれ変わりたいか具体的に詰めていった。驚いたこと縦軸君には向こうの種族の知識が備わっており、彼曰く「スキル発動中しか覚えてられないみたいですけど」とのことだ。

「本当にいいんですか」
「ええ、後悔は無いわ。これでお願い」
「分かりました。それでは次に……」


 その後は性別とか諸々の条件を話し合った。素敵ね、性別を選択できるって。

「あ、それとスキルどうしますか?」

 ついに来た。微や縦軸君が使っている不思議な力。その人だけが使える異能力。これは私の来世に大きく影響してくる。だけど……

「ごめんなさい縦軸君。特に要望は無いの。お任せしてもいいかしら?」
「え?いいんですか?」
「ええ。正直、健康に来世を過ごせれば特に要望は無いのよね。向こうで恋人や子供を作るつもりもないし、人並みに生活できればいいかなって」

 本心だ。夫以外と恋に落ちるとは思えないし、健康にのんびりと暮らせればあとは成り行きに任せようと思ったのだ。

 そんな私の要望を受けて悩んでいた縦軸君だったが、途端にどこか決まりが悪そうな顔になった。

「傾子さん、実は1つ頼みがあります」
「あら、何かしら?」
「人探しを頼みたいんです」
「人探し?」
「はい。実は……」

 その時、私は縦軸君が微と出会う前のことを初めて聞いた。お姉さんがいたこと、そのお姉さんが自殺したこと、それからスキルに目覚めて今まで頑張ってきたこと。
 どうしてだろう。微と重ね合わせてしまった。

「そうだったのね。つまり私はあなたのお姉さん、愛さんの生まれ変わりを探せばいいのね。そしてできれば彼女を連れ戻す方法も」
「はい。正直見つからない可能性の方が、いえ、会えない可能性の方が大きいですが」

 確かにね。水を差すようで悪いけど彼のお姉さんが転生してない可能性だってあるわけだし。
 けどね、あり得ないとか可能性が低いとか、そんなのはもう慣れたわ!

「分かった、探してあげる」
「え?」
「もちろん私自身の人生もエンジョイさせてもらうわよ?その上で引き受けるわ、あなたのお姉さん探し。
 だから縦軸君、あなたも信じなさい。それが巻き込んだ者としての責任よ」
「傾子さん……ありがとうございます!」

 この子の素直さを見れば、彼の家族がどれだけ素敵な人たちなのか分かる。
 心の底からお姉さんのことが好きでないとこんな執念は生まれないだろう。

「じゃあもし姉がいたら見つけやすくなるスキルつけときますね」
「あら、どんなスキル?」
「そうですね……分かりやすくいうと『千里眼』、でしょうか。
 詳細は実際に生まれ変わってから覚えてください」
「分かったわ」

「それじゃあええっと……よし、準備できました。傾子さん、姉のことを頼みます」
「ええ、ありがとう縦軸君、そっちも微をよろしくね。それと、何か伝言はある?あなたのお姉さんに」
「……いえ、自分で伝えます」

 少し悩んだあと縦軸君はそう応えた。その選択肢が出るあたり、本気ね。

「それじゃあ傾子さん、よい来世を」

 縦軸君の言葉とともに私の体はふわりと軽くなる。誰かに手を引かれるような感覚の後、私の意識は暗転した。

 そして産声は上がる。私はエルフの血を引く少女リムノに生まれ変わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...