転生遺族の循環論法

はたたがみ

文字の大きさ
上 下
65 / 145
第1章 民間伝承研究部編

積元傾子のリスタート4

しおりを挟む
 縦軸君、本当に転生させてくれたのね。

「見て、この子今笑ったわ」
「はは、本当だな。君によく似てるな」
「あら、でも目はあなたにそっくりよ」
「そうかな。あ、耳はお義父さんに似てるよ。」

 私を抱き抱えながら2人の男女が嬉しそうに話している。この世界の私の両親だろう。
 縦軸君によると私はクォーターエルフらしいので、2人のどちらかは人間でもう一方はハーフエルフということになる。

「愛してるわ、リムノ」

 母がそう言った。これも縦軸君の力なのか、教わらなくても言葉が分かる。私がリムノという名前を知れたのもこのためだった。



 エルフの里は深い森の中にある。他の種族との交流は少なめで少し人見知りだけど、決して排他的というわけではないみたいだ。ごく稀に迷い込んだ旅人などを手助けしている。もしかしてお婆ちゃんとお父さんも……

 ただし里の外に出ることは無いみたいで、私も外の世界を見ることなく今年で10歳となった。

「リムノももうそんなに大きくなったか」
「ほんと、この前まであんなにちっちゃな赤ちゃんだったのに」
「もう母さんったら!」

 我が家は平和そのものだ。元々エルフという種族が争いを好まないらしく、混血云々で我が家が里から迫害されることも無かった。

「そういえばリムノ、もうすぐ霊弓ノ儀だぞ。練習は頑張ってるか」
「うん。毎日お母さんに教えてもらってるわ」
「この子は筋がいいわ。私に教えられることなんてほとんど無いんだから」

 霊弓ノ儀というのはエルフの里で代々催されているお祭りだ。遥か昔、凶悪な魔物を退治して一族を救ったとされるエルフの英雄を讃える祭りで、歌や踊りが行われる。
 で、そこで行われるメインイベントがある。その年に10歳になる子供たちが集まって弓の腕を競うのだ。なんでもかの英雄様が弓の名手で、その方のような腕を持ったエルフがまた生まれることを願ってのものらしい。
 エルフが弓にこだわるのもこれが理由で、その英雄の弓は今でも里の宝物庫に大切に保管されているとか。

 そして私も現在、お祭りに備えて特訓中だ。ただ才能がかなりあるようで、母からも基本的な知識を除けばあまり多くは教わっていなかった。

「リムノはすごいなあ。父さんにも冒険者で弓士アーチャーやってる知り合いがいたんだけど、そいつよりも上手かもしれないな」
「ほんと、どんなに遠くの的でも当てちゃうんだもん。きっとプリンキピア様の御加護のおかげだわ」

 プリンキピア様というのは件の英雄の名前だ。まあ私が弓の才能に恵まれてることに理由があるとするなら、それは英雄じゃなくて何処ぞの坊やの仕業だろうけど。
 そしてもう1つ、私がどんなに遠くの的でも当てられるのには理由がある。

「お母さんお父さん、私の目、変かもしれないわ」
「リムノの目が?」
「リムノ、どういうことだ?」
「あのね、こう目にぐうって力を込めると見たいものが何処にあるのか分かるの。たとえそれが見えない場所にあっても」

 両親は何となく察しがついたらしい。

「よく聞きなさいリムノ」

 母が切り出す。

「それはスキルかもしれないわ」

 やっぱりか。縦軸君が「千里眼のようなスキル」と言っていたから薄々そうではないかと思っていたのだ。

「明日教会に行って調べてもらいましょう」


 というわけで翌日私は両親と教会にやってきた。人間の世界の宗教が信仰されてるのもエルフが決して排他的ではない証だろう。
 加えて教会はスキルの鑑定や呪いの治療などを請け負ってくれる。あって損は無いのだ。実際父の故郷(つまり人間のまち)では子供は5歳になると教会で鑑定してもらうものらしい。
 両親が神父に挨拶し、とんとん拍子で私の鑑定の準備が進んでいく。ちなみに神父もエルフだ。
 何やら水晶玉を使った短い儀式が終わると、私の頭の中に鑑定結果が流れ込んできた。
 そして判明したスキルがこれだ。

立体座標ジ・エンド
探している存在およびその座標が見える。瞬きで発動させることができる。

 確かに千里眼だ。狙撃用の武器である弓を使う者としてこんなに有利なスキルは無い。

 それからの5日間、私はスキルの練習にも力を入れた。割とあっさり使いこなせるようになり、弓との連携も検討し始めている。
 だがそれ以上に気になることがあった。

(愛ちゃんはいるのかしら)

 縦軸君のお姉さんだ。もしもいたら探してほしいと頼まれていたものの、そもそも転生したのかも不明だし縦軸君もできればしてほしいぐらいにしか考えていなかっただろう。
 別に私も彼女の捜索に生涯を賭すつもりは無い。ただもしいたなら、私の〈立体座標ジ・エンド〉でぱぱっと見つかるはずだ。試してみるのも一興だろう。

「むむむ……はっ!」

 目に魔力を集中させる。父譲りの黒い目が赤と青に染まっていく。

 そして1秒も経たないうちにある少女の姿が見えてきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...