転生遺族の循環論法

はたたがみ

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第1章 民間伝承研究部編

積元傾子のリスタート2

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 その後、5日程かけて縦軸君から説明された。
 彼もまた微と同じように不思議な力(スキルというらしい)を持っていること、微の異世界を見るスキルはLv上げの最中ということ、そして彼のスキルが異世界転生なるものを叶えるスキルということ。正直ここまで5日で把握できた私を褒めてほしい。まあ縦軸君が驚きつつ褒めてくれたからいいけど。いや、だから違うから。

 とにかく、異世界転生諸々に関する説明を終えた縦軸君だったが、彼にとっての本題はここからだった。

「それで、これはあくまでも勝手なお願いなんですけど」
「あら、何かしら?もしかして」
「そうです。傾子さん、異世界に行きませんか?」

 実は何となく期待していた。自分の体のことは自分が1番分かってるというやつで、私に残された時間の少なさは分かっていた。加えてこんな都合の良いタイミングで現れた縦軸君だ。そりゃ察する。

「......ふふふふふ、あはは、あはははは!いいじゃない、その提案、是非ともお受けするわ!」
「え、あの、いいんですか?」
「もちろんよ。だって微の話す異世界ってとっても面白そうなんだもの。私も直接見てみたいわ。それにね、今まで入院が長くて退屈
なことが多かったの。生まれ変わったら今の分も思いっきり楽しみたいわ!」
「わかりました。任せてください」

 「ワクワクが止まらない」ってのはこんなことを言うのか。まさかこんなにとんでもないセカンドライフが待っているなんて!
 きっとこうやって純粋に楽しめるのは縦軸君の存在が大きいだろう。彼なら微たちのことも何とかしてくれる。微のことをよく分かってくれている。そんな確信があった。

 けどまだ足りない。この子がいれば微は大丈夫って確信はあったけど、この子が大丈夫でいられるかどうかはまだ分からなかった。腐っても大人だ。人生のアドバイスみたいな何かくらいは遺してやろう。

「それともう1つ。」
「何ですか?」

 慣れないことをしようとしているせいか、呼吸を整えてしまう。

「微たちも頼ってあげて。縦軸君、その力のこと微たちに話して無いでしょう?ダメよ。悩み事があるなら友達を頼らないと」
「......!」

  何てわかりやすい「目が点になる」だろう。さては君、友達作ったこと無いな?

 「分かりました。ありがとうございます」

 うむ、素直でよろしい!



 縦軸君が初めてやって来てから1週間後、微と対ちゃんたちが揃ってやって来た。なんて久しぶりの光景だろう。愛する我が娘の目には、ずっと見ていなかった光が灯っていた。

 そして微がここへやって来た目的、これも何となく察しはついていた。
 そんな私にも視線を向けながら、微は悪戯っ子の笑みを浮かべてこう言った。

「見てて。スキル〈天文台〉!」

 そこから先は何というか……凄かった。きっとゲームやアニメの映像も私が子供の頃よりずっと進歩しているだろう。だけど微の見せてくれた景色は、そんな物など軽々と飛び越えていた。彼女が見せたそれは、現実だった。

 人生初の体験が終わった後、対ちゃん、弦君、記君の3人はとても潔く微に謝っていた。微の話を信じなかったことへの罪悪感だろう。微も特に気にしている様子はなく、何の躊躇いもなく3人のことを「友達」と断言してみせた。

 少し後ろで大人しくしているあの少年はどこか満足気に見えた。

 全くあの子は……私たちをどれだけ救えば気が済むのだろう。
 私はこのとき、虚縦軸という少年が微と出会ってくれたことに感謝した。きっと運命だとも思えるこの出会いに。



 その数日後、私の容態は急変した。その時が来たのだと分かった。

「お母さん、おかあさん!」
「傾子、しっかりしてくれ!」

 おやおや、娘のこの慌てぶり、縦軸君さては言わなかったな?

「ねえ……微」
「なに?」
「あなたの後輩……縦軸君は……今一緒?」
「え?う、うん。お母さんの容態が悪くなったって言ったら一緒に来るって。でも何で?」

 やっぱり言ってないなあの子。まあ悪気はないんだろうけど。

 にしてもこれはあれだ。時間あんまり無い。仕方ない。締めはしっかりやっておこう。

「2人とも……よく聞いて」
「うん!」
「何だい?」
「あなた……私と……出会ってくれてありがとう。愛してるわ。微のこと……お願いね?」

 本当は色々言いたいが、厳選するならこれに尽きる。

「傾子……ああ、俺も愛してる!微のことなら任せろ!」

 ふふ、ちょっと頼りないな。まあいっか。

「それと……微」
「うん。」

 愛娘が涙目で私の手を握ってくれている。夫もすごい顔だ。鏡で見せてやりたい。
 嬉しいなあ。けど、

 ほとんど力の入らなくなった手で私は微の頭を撫でた。

「え?」

 目を丸くしている。なんて可愛い。

「笑って。私は……みんなは……笑ってるあなたが……大好きなの」

 昔からお転婆で手がつけられなくて、だけどそんなあなたはいつも笑っていた。
 親としては叱ってあげるべき状況だろうし勿論そうしたが、それでもあの笑顔を見れたことは嬉しかった。

 前々から思っていたのだが、この子には共鳴させる力がある。周りを容赦なく巻き込んで、この子が楽しいと思えばみんなも笑い、この子が悲しいと思えばみんなも一緒に泣いてくれる。いくら仲が良いとはいえ対ちゃんたちが微だけでなく私のことまで心配してくれたのは、きっと微の心に巻き込まれて染められていったからだ。
 これはすごい力だ。だからこそ、笑っていて欲しかった。それだけで幸せを感じられる人がきっといるから。

「お母さん…………うん!私、笑顔いっぱいだから!幸せいっぱいだから!」

 歯まで見せての満面の笑み。そうだそれでいい。私の愛する微だ。

「2人とも…………大好きだよ」

 自分の死に顔なんて分からないけど、きっと笑顔で逝ってやった。これは私のプライドだ。

 大変すぎる人生だっけど、私はこれを幸せだったと言ってやりたい。絶対言い切ってやる。



 ふわふわとどこかを漂う感覚。一瞬のそれが訪れた後、最近知り合った声がした。

「おーい、傾子さーん!」

 真っ白な部屋で縦軸君が手を振っていた。
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