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第1章 民間伝承研究部編
転生遺族と自称ライバル2
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この世に生を受けて15年と11カ月、縦軸には恋人というものは出来たことが無かった。5歳の頃に姉にプロポーズした覚えはあるが、それはノーカウントでいいだろう。
そして今も、恋人などいない筈だった。
「虚縦軸、私の彼氏なの」
ていりと付き合っていた覚えはない。なのに突然彼女が彼女であると宣言したのだ。
縦軸はえらく混乱した。1秒前に至るまでのありとあらゆる記憶を問い詰める。
ていりに告白したか?否。
では逆にされたか?否。
酔った勢いで覚えていないのか?否。そもそも自分は未成年だ。
どう考えてもシロ。なのに現実が理論に合わさってくれない。ていりが強く掴む腕が、途方もなく遠く感じられた。
「か、彼氏だと……⁉︎」
「ええそうよ。相思相愛なの」
そういえば目の前の男子は誰だろうか?ていりの知り合いだろうか。しかし、彼女が民研や生徒会以外と仲良くしているところは見たことがない。
「もう分かったでしょ。私はあなたと付き合う気は無いわ。大人しく諦めて」
ようやく冷静になってきた頭が理解を始めた。どうやら彼女はこの男子に言い寄られているようだ。とすると、自分を彼氏だと言って彼を追い払おうとしているのだろうか。
「……そこの君」
「え?あ、はい」
男子生徒が縦軸に話しかける。力強い声ではあるが、怒りは感じられない穏やかさだ。
「虚縦軸といったな?」
「はい」
「俺は転校生の互除だ」
「は、はあ……どうも」
恵まれた体格と先程その片鱗を見せた体力。それが生み出しているのかもしれない威圧感が縦軸を押しつぶす。元来人付き合いがあまり得意ではない彼は少しばかり怯えた。
そんな彼の心情を知ってか知らずか、除は縦軸に近づいてきた。ていりが静かに縦軸の背中に隠れる。
「え、ええっと……」
「縦軸」
縦軸の肩に両手を置き除は宣言した。
「俺は三角さんのことが好きだ」
想像した通りの展開だった。
「そして縦軸、君と俺は今日からライバルだ!」
「…………え?」
想像しなかった展開だ。
「俺は必ず三角さんを振り向かせて見せる!正々堂々とだ!縦軸よ、既に恋人だと思って油断していると俺が彼女を奪っていくぞ!」
「……ええっと」
「それじゃあまた明日!絶対負けないからな!」
そう言い残して除は去っていった。ありもしない勇気を振り絞ることもなく、縦軸はいつの間にかラブコメの主役にでもなっていた。彼の背中に隠れていたていりは、いつもより小さく感じられた。
「さて、三角さん、どういうこと?」
尋問が始まったのは虚家のリビングである。以前作子に連れられてやって来て以来、民研の3人はここに来ることに抵抗が無くなっていた。対たち生徒会は面白そうにしながらも厄介ごとの匂いを感じ取って撤退した。
そんな中、縦軸に問い詰められたていりがゆっくりと口を開いた。
「今朝、学校まで道案内した。そしたら学校にいる間、何回も告白された」
俯きながら話すていりを見て、縦軸は彼女の苦労を察した。
「それで、僕を彼氏って言ったのは」
「そうすれば彼が諦めると思ったから。まさかあそこまで意思が強いとは思わなかったの。巻き込んでしまって、ごめんなさい……」
「別にいいよ。特に弊害があるってわけでも……ないと思うし」
ていりを責めたくなくてそう言ってしまった縦軸だが、実際は嫌な予感が付き纏っていた。別に周りから向けられる目が少しばかり変わるのは問題ない。元々人付き合いなんてほとんどしていないからだ。
問題は除だった。彼に勝手にライバル認定されてしまった以上、ていりと除との戦に巻き込まれることは自明。ていりのためには、縦軸は彼女を守る素敵な恋人として除と対立し続けなければならないのだ。そう思うと、縦軸は辟易とした。
(やめたい……いっそ三角さんとあの互って人をくっつけた方が早いのでは?)
「ねえ、三角さん……」
「虚君、我儘なのはわかってる。でもお願い!私どうしても彼と付き合いたくないの。助けて!」
ていりがここまで弱みを見せることは珍しかった。普段からポーカーフェイスであり、感情があまり表に出ないていりだからこそ、今どれだけ困っているかは明らかだった。
縦軸にだって心はある。それに、ここで彼女の意思を蔑ろにしてしまっては姉である愛にも恥をかかせかねない。それは縦軸にとっては万死に値する行為であった。
「三角さん」
「……」
「任せて。僕なんかがどこまでできるか分からないけど、三角さんの力になるよ」
「虚君……ありがとう」
「ちょっと待てーーーい!」
流石に突っ込む十二乗音。
「あんたたちいい雰囲気になってるとこ悪いけど、結構埒があかないわよ?あの互ってやつがいつ心折れるか分かんないし、あんたたちが恋人ごっこやめた途端にまた再燃する可能性高いわよ!」
「「あ……」」
「全く、虚はともかく何で三角まで抜けてるのよ。先輩、ダメ元だけどなんかいい案無いかしら?」
「うーん……互君の心を完全にへし折る!」
「訊いた私が馬鹿だったわ」
微に呆れながらも音は、ある当たり障りない解決策をていりに提示する。
「親に相談すれば?私たちだけよりはまだマシになるかもしれないわよ」
その途端、何を想像したのかていりの顔が見る見る青白くなっていった。
「いけない。それだと、互君が死ぬ」
「え?」
その後も侃侃諤諤の話し合いが続いたがどういうわけか、ていりの初期案が採用されてしまった。
「縦軸君、本当に大丈夫?」
「し、仕方ないです……帰りたい」
「帰ってるだろ!」
「本当に、巻き込んじゃってごめんなさい虚君。明日からよろしくね」
「う、うん……」
「……ヒィッ!!!」
「ん?リリィちゃんどうしたがぁ?」
「何か……こう……娘が初めて彼氏連れてきたときの父親のような感覚が……」
「は?」
リリィを襲った謎の感覚の正体を、イデシメとカールは知る由も無かった。
そして今も、恋人などいない筈だった。
「虚縦軸、私の彼氏なの」
ていりと付き合っていた覚えはない。なのに突然彼女が彼女であると宣言したのだ。
縦軸はえらく混乱した。1秒前に至るまでのありとあらゆる記憶を問い詰める。
ていりに告白したか?否。
では逆にされたか?否。
酔った勢いで覚えていないのか?否。そもそも自分は未成年だ。
どう考えてもシロ。なのに現実が理論に合わさってくれない。ていりが強く掴む腕が、途方もなく遠く感じられた。
「か、彼氏だと……⁉︎」
「ええそうよ。相思相愛なの」
そういえば目の前の男子は誰だろうか?ていりの知り合いだろうか。しかし、彼女が民研や生徒会以外と仲良くしているところは見たことがない。
「もう分かったでしょ。私はあなたと付き合う気は無いわ。大人しく諦めて」
ようやく冷静になってきた頭が理解を始めた。どうやら彼女はこの男子に言い寄られているようだ。とすると、自分を彼氏だと言って彼を追い払おうとしているのだろうか。
「……そこの君」
「え?あ、はい」
男子生徒が縦軸に話しかける。力強い声ではあるが、怒りは感じられない穏やかさだ。
「虚縦軸といったな?」
「はい」
「俺は転校生の互除だ」
「は、はあ……どうも」
恵まれた体格と先程その片鱗を見せた体力。それが生み出しているのかもしれない威圧感が縦軸を押しつぶす。元来人付き合いがあまり得意ではない彼は少しばかり怯えた。
そんな彼の心情を知ってか知らずか、除は縦軸に近づいてきた。ていりが静かに縦軸の背中に隠れる。
「え、ええっと……」
「縦軸」
縦軸の肩に両手を置き除は宣言した。
「俺は三角さんのことが好きだ」
想像した通りの展開だった。
「そして縦軸、君と俺は今日からライバルだ!」
「…………え?」
想像しなかった展開だ。
「俺は必ず三角さんを振り向かせて見せる!正々堂々とだ!縦軸よ、既に恋人だと思って油断していると俺が彼女を奪っていくぞ!」
「……ええっと」
「それじゃあまた明日!絶対負けないからな!」
そう言い残して除は去っていった。ありもしない勇気を振り絞ることもなく、縦軸はいつの間にかラブコメの主役にでもなっていた。彼の背中に隠れていたていりは、いつもより小さく感じられた。
「さて、三角さん、どういうこと?」
尋問が始まったのは虚家のリビングである。以前作子に連れられてやって来て以来、民研の3人はここに来ることに抵抗が無くなっていた。対たち生徒会は面白そうにしながらも厄介ごとの匂いを感じ取って撤退した。
そんな中、縦軸に問い詰められたていりがゆっくりと口を開いた。
「今朝、学校まで道案内した。そしたら学校にいる間、何回も告白された」
俯きながら話すていりを見て、縦軸は彼女の苦労を察した。
「それで、僕を彼氏って言ったのは」
「そうすれば彼が諦めると思ったから。まさかあそこまで意思が強いとは思わなかったの。巻き込んでしまって、ごめんなさい……」
「別にいいよ。特に弊害があるってわけでも……ないと思うし」
ていりを責めたくなくてそう言ってしまった縦軸だが、実際は嫌な予感が付き纏っていた。別に周りから向けられる目が少しばかり変わるのは問題ない。元々人付き合いなんてほとんどしていないからだ。
問題は除だった。彼に勝手にライバル認定されてしまった以上、ていりと除との戦に巻き込まれることは自明。ていりのためには、縦軸は彼女を守る素敵な恋人として除と対立し続けなければならないのだ。そう思うと、縦軸は辟易とした。
(やめたい……いっそ三角さんとあの互って人をくっつけた方が早いのでは?)
「ねえ、三角さん……」
「虚君、我儘なのはわかってる。でもお願い!私どうしても彼と付き合いたくないの。助けて!」
ていりがここまで弱みを見せることは珍しかった。普段からポーカーフェイスであり、感情があまり表に出ないていりだからこそ、今どれだけ困っているかは明らかだった。
縦軸にだって心はある。それに、ここで彼女の意思を蔑ろにしてしまっては姉である愛にも恥をかかせかねない。それは縦軸にとっては万死に値する行為であった。
「三角さん」
「……」
「任せて。僕なんかがどこまでできるか分からないけど、三角さんの力になるよ」
「虚君……ありがとう」
「ちょっと待てーーーい!」
流石に突っ込む十二乗音。
「あんたたちいい雰囲気になってるとこ悪いけど、結構埒があかないわよ?あの互ってやつがいつ心折れるか分かんないし、あんたたちが恋人ごっこやめた途端にまた再燃する可能性高いわよ!」
「「あ……」」
「全く、虚はともかく何で三角まで抜けてるのよ。先輩、ダメ元だけどなんかいい案無いかしら?」
「うーん……互君の心を完全にへし折る!」
「訊いた私が馬鹿だったわ」
微に呆れながらも音は、ある当たり障りない解決策をていりに提示する。
「親に相談すれば?私たちだけよりはまだマシになるかもしれないわよ」
その途端、何を想像したのかていりの顔が見る見る青白くなっていった。
「いけない。それだと、互君が死ぬ」
「え?」
その後も侃侃諤諤の話し合いが続いたがどういうわけか、ていりの初期案が採用されてしまった。
「縦軸君、本当に大丈夫?」
「し、仕方ないです……帰りたい」
「帰ってるだろ!」
「本当に、巻き込んじゃってごめんなさい虚君。明日からよろしくね」
「う、うん……」
「……ヒィッ!!!」
「ん?リリィちゃんどうしたがぁ?」
「何か……こう……娘が初めて彼氏連れてきたときの父親のような感覚が……」
「は?」
リリィを襲った謎の感覚の正体を、イデシメとカールは知る由も無かった。
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