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第1章 民間伝承研究部編
転生遺族と自称ライバル3
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通学路で過度な注目を他の生徒から浴びせられることなど、一部の人間を除けば滅多にないことだ。それは縦軸にとっても同じことである。人の目ごときでは傷つかない。だが気になるものは気になるのだ。
「お、おい、あれ」
「7組の三角じゃね?」
「横の男子誰だ?」
「ほら、よく一緒にいる地味な奴」
「「「あいつら、付き合ってたのか」」」
(姉さん、これが正解なのかな?)
「ねえ縦軸、ちょっと遠慮してる?」
「えっと、ごめん三す……ていり」
今朝からていりの距離感が狂っていた。理由は分かっている。彼女に激烈アタックを仕掛けている除の心をへし折るためだ。分かってはいる。だが縦軸にとって、この事態の衝撃は〈転生師〉を手に入れた時のそれを超えていた。
(まるで同類の書いたラブコメみたいだ。悪い意味でリアルじゃない)
「縦軸、これで互君諦めてくれるかな?」
「じゃないと僕が困るよ……」
「私と恋人は嫌だから?」
「うっ……!」
ていりの演技力は素人の縦軸から見ても卓越していた。ぎこちなく無いのだ。「恋人同士ならこうするだろうと狙いに行っている感」とでも言うべきだろうか、それが全くなく現実味があるのだ。
「『まさか僕は本当に三角さんが好きなのか?』
縦軸の胸はかつて感じたことの無い類の苦しみに襲われて――」
「ナレーションはやめろ十二乗。それとその文脈だとまるで僕の初恋が三角さんみたいに読み取れるけどそもそも僕が初めてそういう意味で好きになったのは姉さんであって変えようのないその事実を改竄することはいくら友達とて許しがたい行為」
「長い長い長い。一旦落ち着け」
「落ち着いてたら今の状況が異常だって気づいてしまうんだ……」
「あんたも大変ね」
「ちょっと」
ていりが縦軸と音の間に割って入る。
「私の縦軸に話しかけないで。ねえ縦軸、こんな子の事なんか見てないで私をもっと見て」
「みs……て、ていり、そういう方向性なの?」
戸惑う縦軸と目のハイライトを消すていり。そんな2人を眺めながら、音は良い題材を見ることができたと思ったのだった。
「……つまり、運動量保存則を使った式をx軸とy軸それぞれに作るんだ。そうしたらv₁とv₂の連立方程式ができる。あとはこれをゴンゴン解いていけば……て、おい、虚、三角」
物理の孝一に呼ばれた2名の内、縦軸は苦そうな顔をし、ていりは表情が揺れ動かない。そんなていりの所為で縦軸の顔は余計に悪くなる。
「何でそんな近づいてるんだ?」
2人の席だけ密着していた。
「縦軸が教科書忘れたみたいなので」
「お、おう……」
人の目ごときでは傷つかない。その筈の縦軸だったのに、しかしどうして、他人どもが自分を推測して間違えていることに対して、なんか傷ついていた。十二乗の「指摘」を受けた時のような黒が来ていた。
「縦軸、顔色悪いよ?看病する?」
「いや、大丈夫……」
「縦軸がそう言うなら。でも、無理しないでね。縦軸に何かあったら私……!」
「ていり……」
「いや、だから授業聞けって」
結局この日のていりはずっと変わらず同じ調子だった。縦軸は多少の不快感こそ覚えたものの、元凶はていりではないために彼女に文句を言う気にもそれはそれでなれなかった。
ていりたちと出会ってから、或いは作子と目を合わせるようになってから、縦軸は姉への執着以外のものを取り戻してきたかもしれない。そして今、あまり経験しない種類の感情を知ったのだった。縦軸は後にこの時抱いた感情が恋心ではなかったという確信を得ることになるのだが、それはまだ先の話である。
「お、おい、あれ」
「7組の三角じゃね?」
「横の男子誰だ?」
「ほら、よく一緒にいる地味な奴」
「「「あいつら、付き合ってたのか」」」
(姉さん、これが正解なのかな?)
「ねえ縦軸、ちょっと遠慮してる?」
「えっと、ごめん三す……ていり」
今朝からていりの距離感が狂っていた。理由は分かっている。彼女に激烈アタックを仕掛けている除の心をへし折るためだ。分かってはいる。だが縦軸にとって、この事態の衝撃は〈転生師〉を手に入れた時のそれを超えていた。
(まるで同類の書いたラブコメみたいだ。悪い意味でリアルじゃない)
「縦軸、これで互君諦めてくれるかな?」
「じゃないと僕が困るよ……」
「私と恋人は嫌だから?」
「うっ……!」
ていりの演技力は素人の縦軸から見ても卓越していた。ぎこちなく無いのだ。「恋人同士ならこうするだろうと狙いに行っている感」とでも言うべきだろうか、それが全くなく現実味があるのだ。
「『まさか僕は本当に三角さんが好きなのか?』
縦軸の胸はかつて感じたことの無い類の苦しみに襲われて――」
「ナレーションはやめろ十二乗。それとその文脈だとまるで僕の初恋が三角さんみたいに読み取れるけどそもそも僕が初めてそういう意味で好きになったのは姉さんであって変えようのないその事実を改竄することはいくら友達とて許しがたい行為」
「長い長い長い。一旦落ち着け」
「落ち着いてたら今の状況が異常だって気づいてしまうんだ……」
「あんたも大変ね」
「ちょっと」
ていりが縦軸と音の間に割って入る。
「私の縦軸に話しかけないで。ねえ縦軸、こんな子の事なんか見てないで私をもっと見て」
「みs……て、ていり、そういう方向性なの?」
戸惑う縦軸と目のハイライトを消すていり。そんな2人を眺めながら、音は良い題材を見ることができたと思ったのだった。
「……つまり、運動量保存則を使った式をx軸とy軸それぞれに作るんだ。そうしたらv₁とv₂の連立方程式ができる。あとはこれをゴンゴン解いていけば……て、おい、虚、三角」
物理の孝一に呼ばれた2名の内、縦軸は苦そうな顔をし、ていりは表情が揺れ動かない。そんなていりの所為で縦軸の顔は余計に悪くなる。
「何でそんな近づいてるんだ?」
2人の席だけ密着していた。
「縦軸が教科書忘れたみたいなので」
「お、おう……」
人の目ごときでは傷つかない。その筈の縦軸だったのに、しかしどうして、他人どもが自分を推測して間違えていることに対して、なんか傷ついていた。十二乗の「指摘」を受けた時のような黒が来ていた。
「縦軸、顔色悪いよ?看病する?」
「いや、大丈夫……」
「縦軸がそう言うなら。でも、無理しないでね。縦軸に何かあったら私……!」
「ていり……」
「いや、だから授業聞けって」
結局この日のていりはずっと変わらず同じ調子だった。縦軸は多少の不快感こそ覚えたものの、元凶はていりではないために彼女に文句を言う気にもそれはそれでなれなかった。
ていりたちと出会ってから、或いは作子と目を合わせるようになってから、縦軸は姉への執着以外のものを取り戻してきたかもしれない。そして今、あまり経験しない種類の感情を知ったのだった。縦軸は後にこの時抱いた感情が恋心ではなかったという確信を得ることになるのだが、それはまだ先の話である。
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