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第1章 民間伝承研究部編
転生遺族と自称ライバル1
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三角ていりの朝は早い。というか単に生活習慣が規則正しいのだ。
毎朝決まった時間に起床、家族と会話をしながら朝ご飯を食べ、とても余裕のある時間に家を出る。そんな毎日だ。
通学路を歩きながらいつも縦軸と音に出会う場所を目指す。彼の家には色々あって音が同居している。通学路で彼らが一緒なのはおかしなことではない。
そんな彼らを見ていようと自分は何も思わない。思うはずがない。理由なんてない。ていりはそんな公理を定めている。
そんな日常が今日も始まる。と、思いきや人生とは想定外が起こるものだとていりはこの後思い出すことになる。
「誰かしら?」
見慣れない顔だ。鳩乃杜の制服を着ているものの、これまで見たことがない。そんな男子生徒が辺りを見回しながら右往左往している。
道に迷っているのだろうか?どっちにしろ困っているようだし話しかけるべきだろう。ていりはそう判断した。
「あの、すみません。何かお困りですか?」
入学式の日に片っ端から異世界について事情聴取していたていりだが、別に協調性がないわけではない。他人行儀ならば問題ない。距離を縮めて友達になるのが苦手なだけなのだ。
そんな彼女に話しかけられた男子生徒が振り向く。
「ああそうなんだ。実は道に迷ってて……!」
「見かけない顔ですね。この辺りは不慣れですか?」
「……あ、ああそうなんだ!最近引っ越してきたばかりでね!学校に行きたいんだが道に迷ってしまったのだよ。その制服、俺と同じ鳩乃杜だよね?よければ案内してくれないか?」
一言で言うと暑苦しい。少しビクビクとしていて比較的大人しい縦軸とは対照的な人物だ。人望に恵まれそうで、運動部で主将をやっていそうな、そんな雰囲気である。
「分かりました。こっちです」
癖なのかどうか知らないが少し興奮した様子で話す男子の先を、ていりは時折後ろを振り返りながら歩いた。置いて行ってしまってないか確認するために時折振り返ると、彼は終始笑顔でていりの方を向いていた。
通学路はいつもと違う道を通った。慣れない故の違和感はあったものの、特に迷うこともなく学校に着いた。当然だが、道中で縦軸たちとは会わなかった。
「着きましたよ。道は覚えましたか?」
「ああ、助かったよ!そうだ、今度何かお礼を……」
「それじゃあ私はこの辺で」
「あ、ちょっと!」
「何ですか」
実を言うと、ていりは早くこの場を離れたかった。彼の纏う暑苦しいオーラがていりは苦手だったのだ。彼女自身が人付き合いがいくらか苦手だからである。彼女にとっては、縦軸の方が遥かに付き合いやすい相手なのだ。
「せめて、名前を教えてくれないか?」
「名前ですか?」
そういえば縦軸と初めて会った時もこんなことがあった。こんなところで似通ったことは起きて欲しくないものだと、ていりは思った。
「三角ていりです。」
「俺の名前は互除。よろしく頼む」
スマイルが無駄に眩しい。好みは人それぞれだが、ていりには刺さらなかった。
その日の放課後、期末試験が近くなったため全部活動は活動休止になっていた。
「縦軸君、音ちゃん、途中まで一緒に帰ろ!」
「はい、いいですよ先輩」
「うわあ、大人数ね」
音がそう言うのも無理はない。何を隠そう微の周りには既に生徒会の3人が集結していたからである。
「あんたたちも積元先輩大好きよね。あ、もしかして私たちに先輩取られて妬いてるのかしら?」
ニヤリとした顔で対たちを煽る音。一方の生徒会は微動だにしない。
「おやおや十二乗さん、これは日頃の習慣だよ」
「あたしたちは小っちゃい頃から微と一緒だからな」
「一緒に帰ろうとするたびに一喜一憂されるのも可笑しな話かと」
「うわあ……あんたら苦手だわ」
「おーい!何してるのー!置いてっちゃうよー!」
「わーったよ!すぐ行くー!」
そうして彼らが歩き出したとき、縦軸がある違和感を口にする。
「誰か三角さん見ませんでした?」
彼女も毎日縦軸たちと一緒に下校していた。それなのに何故か今日は姿を見せないのだ。
「そういや今日はあいつ見ないわね」
「縦軸君、ていりちゃんと同じクラスだよね?学校で一緒じゃなかったの?」
クラスと部活が同じであること。そして休み時間も四六時中2人で話していること。席が隣同士なこと。これらが原因となり、縦軸とていりについては仄かにそういう噂が立ち始めていた。ちなみに縦軸は気づいていない。
「それが、何故か授業が終わるとどこかへ行ってしまうんです。だから殆ど顔も合わせてなくて」
「ふーん、変なの。あいつ休み時間はすることなくていっつも虚と何か話してるのに」
「え?何で知ってんだ?」
「そ、それは、ほら……ええと……べべ、別に覗いてなんてないわよ!羨ましくなんてないんだから!」
「そ、そう。分かったよ……」
「なあ、あの十二乗って女子分かりやすすぎねえか?」
「いいじゃないか。あれも一興だ」
「ですね。それが彼女の魅力でしょう」
縦軸たちがそんな会話をしていたとき、件の人物がようやくやってきた。
「あ、縦軸君、ていりちゃん来たよ!」
「でもなんか走ってません?」
遠目からでも分かる全力疾走である。バッグではなくリュックを使っている故に空いた両腕を大きく振り、縦軸たちを見つけるとその勢いを強めた。
縦軸たちに追いついた頃には、珍しく息を切らしていた。魅力的な黒のストレートヘアもいつもより乱れている。
「み、三角さん?何かあったの?」
「虚君、緊急事態なの!後で借りは返すから私に協力して!」
「き、緊急事態って?協力って何をすれば……」
「おーーーい!待ってくれーーーーーー!」
どこからか聞き慣れない暑苦しい声が迫り来る。縦軸が校舎の方へ目を凝らすと、先程のていりを超えるスピードで走ってくる影があった。
「ちっ、せっかく撒いたのに……」
縦軸たちのもとにやって来たのは、先程の全力疾走(果たして全力だろうか?)を微塵も感じさせない笑顔の転校生、互除だった。
「やっと追いついたよ三角さん。頼む。少しでいいから俺の話を……」
「ねえ縦軸、助けて」
そう言いながら縦軸の腕に自分の腕を絡み付けるていり。側から見たら仲睦まじい。
「私、この人に言い寄られてるの!」
「え、えっと……三角さん?」
「おや、君は誰だい?」
次の瞬間、ていりは爆弾を落とした。
「虚縦軸、私の彼氏なの」
「…………え???」
〈転生師〉発現以来の衝撃が縦軸を襲った。
毎朝決まった時間に起床、家族と会話をしながら朝ご飯を食べ、とても余裕のある時間に家を出る。そんな毎日だ。
通学路を歩きながらいつも縦軸と音に出会う場所を目指す。彼の家には色々あって音が同居している。通学路で彼らが一緒なのはおかしなことではない。
そんな彼らを見ていようと自分は何も思わない。思うはずがない。理由なんてない。ていりはそんな公理を定めている。
そんな日常が今日も始まる。と、思いきや人生とは想定外が起こるものだとていりはこの後思い出すことになる。
「誰かしら?」
見慣れない顔だ。鳩乃杜の制服を着ているものの、これまで見たことがない。そんな男子生徒が辺りを見回しながら右往左往している。
道に迷っているのだろうか?どっちにしろ困っているようだし話しかけるべきだろう。ていりはそう判断した。
「あの、すみません。何かお困りですか?」
入学式の日に片っ端から異世界について事情聴取していたていりだが、別に協調性がないわけではない。他人行儀ならば問題ない。距離を縮めて友達になるのが苦手なだけなのだ。
そんな彼女に話しかけられた男子生徒が振り向く。
「ああそうなんだ。実は道に迷ってて……!」
「見かけない顔ですね。この辺りは不慣れですか?」
「……あ、ああそうなんだ!最近引っ越してきたばかりでね!学校に行きたいんだが道に迷ってしまったのだよ。その制服、俺と同じ鳩乃杜だよね?よければ案内してくれないか?」
一言で言うと暑苦しい。少しビクビクとしていて比較的大人しい縦軸とは対照的な人物だ。人望に恵まれそうで、運動部で主将をやっていそうな、そんな雰囲気である。
「分かりました。こっちです」
癖なのかどうか知らないが少し興奮した様子で話す男子の先を、ていりは時折後ろを振り返りながら歩いた。置いて行ってしまってないか確認するために時折振り返ると、彼は終始笑顔でていりの方を向いていた。
通学路はいつもと違う道を通った。慣れない故の違和感はあったものの、特に迷うこともなく学校に着いた。当然だが、道中で縦軸たちとは会わなかった。
「着きましたよ。道は覚えましたか?」
「ああ、助かったよ!そうだ、今度何かお礼を……」
「それじゃあ私はこの辺で」
「あ、ちょっと!」
「何ですか」
実を言うと、ていりは早くこの場を離れたかった。彼の纏う暑苦しいオーラがていりは苦手だったのだ。彼女自身が人付き合いがいくらか苦手だからである。彼女にとっては、縦軸の方が遥かに付き合いやすい相手なのだ。
「せめて、名前を教えてくれないか?」
「名前ですか?」
そういえば縦軸と初めて会った時もこんなことがあった。こんなところで似通ったことは起きて欲しくないものだと、ていりは思った。
「三角ていりです。」
「俺の名前は互除。よろしく頼む」
スマイルが無駄に眩しい。好みは人それぞれだが、ていりには刺さらなかった。
その日の放課後、期末試験が近くなったため全部活動は活動休止になっていた。
「縦軸君、音ちゃん、途中まで一緒に帰ろ!」
「はい、いいですよ先輩」
「うわあ、大人数ね」
音がそう言うのも無理はない。何を隠そう微の周りには既に生徒会の3人が集結していたからである。
「あんたたちも積元先輩大好きよね。あ、もしかして私たちに先輩取られて妬いてるのかしら?」
ニヤリとした顔で対たちを煽る音。一方の生徒会は微動だにしない。
「おやおや十二乗さん、これは日頃の習慣だよ」
「あたしたちは小っちゃい頃から微と一緒だからな」
「一緒に帰ろうとするたびに一喜一憂されるのも可笑しな話かと」
「うわあ……あんたら苦手だわ」
「おーい!何してるのー!置いてっちゃうよー!」
「わーったよ!すぐ行くー!」
そうして彼らが歩き出したとき、縦軸がある違和感を口にする。
「誰か三角さん見ませんでした?」
彼女も毎日縦軸たちと一緒に下校していた。それなのに何故か今日は姿を見せないのだ。
「そういや今日はあいつ見ないわね」
「縦軸君、ていりちゃんと同じクラスだよね?学校で一緒じゃなかったの?」
クラスと部活が同じであること。そして休み時間も四六時中2人で話していること。席が隣同士なこと。これらが原因となり、縦軸とていりについては仄かにそういう噂が立ち始めていた。ちなみに縦軸は気づいていない。
「それが、何故か授業が終わるとどこかへ行ってしまうんです。だから殆ど顔も合わせてなくて」
「ふーん、変なの。あいつ休み時間はすることなくていっつも虚と何か話してるのに」
「え?何で知ってんだ?」
「そ、それは、ほら……ええと……べべ、別に覗いてなんてないわよ!羨ましくなんてないんだから!」
「そ、そう。分かったよ……」
「なあ、あの十二乗って女子分かりやすすぎねえか?」
「いいじゃないか。あれも一興だ」
「ですね。それが彼女の魅力でしょう」
縦軸たちがそんな会話をしていたとき、件の人物がようやくやってきた。
「あ、縦軸君、ていりちゃん来たよ!」
「でもなんか走ってません?」
遠目からでも分かる全力疾走である。バッグではなくリュックを使っている故に空いた両腕を大きく振り、縦軸たちを見つけるとその勢いを強めた。
縦軸たちに追いついた頃には、珍しく息を切らしていた。魅力的な黒のストレートヘアもいつもより乱れている。
「み、三角さん?何かあったの?」
「虚君、緊急事態なの!後で借りは返すから私に協力して!」
「き、緊急事態って?協力って何をすれば……」
「おーーーい!待ってくれーーーーーー!」
どこからか聞き慣れない暑苦しい声が迫り来る。縦軸が校舎の方へ目を凝らすと、先程のていりを超えるスピードで走ってくる影があった。
「ちっ、せっかく撒いたのに……」
縦軸たちのもとにやって来たのは、先程の全力疾走(果たして全力だろうか?)を微塵も感じさせない笑顔の転校生、互除だった。
「やっと追いついたよ三角さん。頼む。少しでいいから俺の話を……」
「ねえ縦軸、助けて」
そう言いながら縦軸の腕に自分の腕を絡み付けるていり。側から見たら仲睦まじい。
「私、この人に言い寄られてるの!」
「え、えっと……三角さん?」
「おや、君は誰だい?」
次の瞬間、ていりは爆弾を落とした。
「虚縦軸、私の彼氏なの」
「…………え???」
〈転生師〉発現以来の衝撃が縦軸を襲った。
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