上 下
2 / 75

2、報告と夕食

しおりを挟む
 シェリーはアルバートから婚約破棄を申し渡された後、妙に冷静だった。
 一人、部屋で本を読んでいると辺りが暗くなっていることにシェリーは気がついた。
「……お腹が空きましたわ。こんな時でも、体は素直に動いているんですわね」
 食堂に行き席につこうとすると、カルロスお父様が真っ赤な顔をして私に問いかけた。

「アルバート殿から婚約破棄をしたいという話が合った。シェリーはもう聞いているのか?」
「ええ、カルロスお父様。聞いております」
 父親はグラスに注がれたワインを一気に飲み干して、ため息を突いた。

「辺境伯を敵に回すつもりか? アルバートは!」
「お父様、おちついてくださいませ。アルバート様はとても優秀な魔法騎士です」
 カルロスは驚いてシェリーを見た。

「シェリー、お前はアルバート殿とずいぶん長い間付き合っていたし婚約までしていただろう? もう少し悲しんだり、怒ったりしないのか?」
 シェリーは首を振った。
「私の心は凪いでいますわ。起こったことは仕方の無いこと。特に何か出来る事もありませんし。むしろ結婚する前でしたから幸いかも知れません」
 私は一息でそう言うと、ふうと息をついてから両親に言った。
「さあ、食事に致しませんか? せっかくのお料理が冷めてしまいますわ」

「シェリー、無理をしなくてもいいのですよ。こんなことは私たちが許しませんから」
 母親のグレイスの言葉に、シェリーは戸惑った。
「レイズ伯爵にも事の顛末をお話して、なにか制裁を加えた方が良いのではないかしら?」

「そうだな。何もしないというのはホワイト家の体面に関わる」
 両親の会話を聞いて、シェリーは慌てて二人を説得しようと、明るい表情と声で言った。
「その必要はありませんわ。最低限のお話で構わないと思います。アルバート様との毎日は楽しい思い出も沢山ありますし」
 シェリーの言葉にカルロスの表情が曇った。

「シェリー、今でもアルバート様のことを思っているのかい?」
「……いいえ、お父様。でも、レイズ家と事を構えることは、辺境警備にも悪影響がでてしまうのではありませんか?」
「確かにそうだな。一時の激情に振り回されるところだった。お前は賢い子だ、シェリー」 カルロスは少し寂しそうな表情でシェリーに微笑みかけた。

「さあ、お食事にしましょう。私、お腹が空いていてたまらないのです」
 シェリーがそう言うと、カルロスとグレイスは食前の祈りを始めた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約者の私より幼馴染が大事? じゃ、私もそうしますね!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:778

美しくないと虐められていましたが、幸せを掴みました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:62

その処刑人は悪役令嬢を許さない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:404pt お気に入り:40

妹と婚約者に嵌められ、虐めの加害者にされていました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:931

【完結】君を守るのが俺の使命・・・2度は繰り返さない。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:504pt お気に入り:2,390

【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:284pt お気に入り:832

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,551pt お気に入り:3,685

【完結】お師匠様たちが私の育成方針を巡って割れている

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:49

処理中です...