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第二章 3120番の世界「IASB」
第17話 学校
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「零、明日の準備できてる?」
始業式と零の入学予定の前日の夜、秋は準備をしながら零を見る。
「まあ、一応? 何がいるかわかんないから、とりあえず上履きと筆記用具とスマホだけ持ったよ」
「始業式だし、それだけ持ってれば多分大丈夫。陸斗さんからは何か言われてる?」
「いや、特になにも。苗字は桜井で、クラリスは何か適当に言っておく方がいいとは言われた。持ってないとか、わからないとは言わないほうがいいって」
眠たそうに零が答える。苗字が桜井というのは、陸斗の子供として入学させると試験なしで入学できるからだった。
クラリスは、不保持だと出来損ないというレッテルが張られてしまうためだ。
「それなら何かいい感じのクラリスを考えないとね。何がいいとかある? 珍しいものにすると怪しまれるし、零は実際には使えないから、使う場面がないもののほうがいいよ」
「それなら戦闘系がいいのかな、学校じゃ使わなさそうだし」
「戦闘系は逆に目立つからやめた方がいいと思う。強化系にしておいたら? 俊敏とかどう? 結構沢山持ってる人いるし、目立たないよ」
シンプルに足が速いクラリスだ。地味なため、見せてほしいといわれることもない能力で、今の零にはぴったりだった。
「分かった、それにする。じゃあ俺はもう寝るから、秋が起きる時間に俺も起こして」
そう言って零は自分の部屋へと入っていった。
秋も部屋に戻り、アラームをセットして布団に入る。正直、零の学校生活に不安があったが、なるべく自分がサポートをしようと意気込み、眠りについた。
朝、陸斗から『一回校長室行った方が良いみたいだから、ちょっと早めに行ってね』と突然電話をもらった零は、秋より一足先に学校へついていた。そして校長室を探しだし、扉をノックした。「どうぞ」と声が聞こえる。「失礼します」と言ってから扉を開けた。
中はいかにも校長室という感じの椅子やソファがあり、トロフィーなども置いてあった。目の前にいる五十代くらいの男がこちらを向き、親しげに声をかけてくる。
「君が桜井 零君だね。ようこそ、東京都立C地区南高等学校へ! いやー本当は学科試験とか必要だけど、あの桜井さんから直々に頼まれたら、さすがに断れないよ。それに桜井さんの息子なら大歓迎だ! 私は校長の新島 卓也です。とりあえず今はここで待っていてくれ。始業式が終わるまで退屈だろうけど、少しの間だからよろしく頼むよ」
ペラペラと話した後、右手を差し出してくる。零はゆっくりとその手を取った。
「あ、そうだ。担任の紹介がまだだったね。もうすぐ来ると思うんだけど……」
校長室の扉がノックされた。「ちょうどついたようだ」そう言って卓也が扉を開ける。そこには二十代と思われる女の教師が立っていた。
教師は一度会釈をすると中に入ってきた。そこで卓也が再び話し始める。
「彼女が君のクラス、1年B組の担任、鈴木 加奈子先生だ。彼女はまだ教師になって日が浅いから、何かと抜けているところもあるが、良い先生だから安心してくれ」
紹介された加奈子は「鈴木 加奈子です。今日からよろしく! 何かあったら遠慮しないで言ってね」と、にこやかに話しかけた。「はあ…」と気の抜けた返事をしながら、零は会釈をする。
「それじゃあ、私と鈴木先生は始業式に行かないといけないから、しばらくここで待っていてくれ。終わったら鈴木先生が迎えに来て、君のクラスに案内する」
そう言い残して、二人は姿を消した。
それから約一時間後、零は教室の前にいた。教室内はガヤガヤと賑わっている。そこに加奈子が話を切り出した。
「皆にさっき言った通り、転校生がこのクラスに来てるんだよ。紹介するから、いったん静かにしてね」
加奈子が目線で零の方に合図を送る。零はゆっくりと教室に入った。全員の視線が痛かった。
ざっと見た感じ、三十人くらいだろうか。その目線に不快感を覚えながらも、教卓の横に立った。
「桜井 零です。よろしくお願いします」
担任に言われたとおりに挨拶をした。すると拍手が起こる。何に対しての拍手なのか理解できずに首をかしげていると、担任が言葉を続ける。
「まだこの学校に慣れていないと思うから、みんな仲良くしてあげてね。それと零君は後ろの廊下側の席だよ、座って」
軽く背中を押してくる。流されるままに席に向かうが、相変わらず目線が気になる。席に座ってもなお、こちらを見てくる者もいて、何かまずいことでもしたのかと不安になるくらいだった。
その後、冬休みの課題を回収し、すぐに帰りの時間になった。
挨拶が終わると、鞄を背負おうとした零を生徒が一斉に取り囲む。別のクラスからも人が来ているようだった。
そしていろいろな質問が飛んでくる。クラリスのことはもちろん、目の色やどうしてこの時期に来たのか、なども聞かれた。いろいろな質問が来ることを予測して、陸斗と一緒に考えておいたため、言葉に詰まることもなく平和に質問会が終わった。
それから少し経って、零が帰る時には既に「B組の転入生が……」など、校内で話題となっていた。秋は残って勉強と特訓があるようで、零だけ家に帰ることになったのだが、珍しい見た目に興味を持って、初日から話しかけてくる者も少なくなかった。
始業式から三日が経過し、1月11日になった。
零はクラスに馴染み始め、学習も難なく進めていた中、秋の試験の日が明後日に近づいていた。
秋は、空いている時間を使って、体力をつけたり、クラリスのコントロールをより精密にする特訓をしたり、勉強をして試験に備えている。しかし、どれだけ準備をしていても、日にちが近づくにつれて不安が増えていくばかりだった。
夕方になり、学校での自主的な居残りを終えて家に帰る。この環境への慣れと、試験に向けての学習に力を入れていて、零とは軽い会話を交わすだけになっていた。
零も秋のその雰囲気を感じ取って、ご飯を部屋に持って行ってあげるなどでサポートに徹していた。
始業式と零の入学予定の前日の夜、秋は準備をしながら零を見る。
「まあ、一応? 何がいるかわかんないから、とりあえず上履きと筆記用具とスマホだけ持ったよ」
「始業式だし、それだけ持ってれば多分大丈夫。陸斗さんからは何か言われてる?」
「いや、特になにも。苗字は桜井で、クラリスは何か適当に言っておく方がいいとは言われた。持ってないとか、わからないとは言わないほうがいいって」
眠たそうに零が答える。苗字が桜井というのは、陸斗の子供として入学させると試験なしで入学できるからだった。
クラリスは、不保持だと出来損ないというレッテルが張られてしまうためだ。
「それなら何かいい感じのクラリスを考えないとね。何がいいとかある? 珍しいものにすると怪しまれるし、零は実際には使えないから、使う場面がないもののほうがいいよ」
「それなら戦闘系がいいのかな、学校じゃ使わなさそうだし」
「戦闘系は逆に目立つからやめた方がいいと思う。強化系にしておいたら? 俊敏とかどう? 結構沢山持ってる人いるし、目立たないよ」
シンプルに足が速いクラリスだ。地味なため、見せてほしいといわれることもない能力で、今の零にはぴったりだった。
「分かった、それにする。じゃあ俺はもう寝るから、秋が起きる時間に俺も起こして」
そう言って零は自分の部屋へと入っていった。
秋も部屋に戻り、アラームをセットして布団に入る。正直、零の学校生活に不安があったが、なるべく自分がサポートをしようと意気込み、眠りについた。
朝、陸斗から『一回校長室行った方が良いみたいだから、ちょっと早めに行ってね』と突然電話をもらった零は、秋より一足先に学校へついていた。そして校長室を探しだし、扉をノックした。「どうぞ」と声が聞こえる。「失礼します」と言ってから扉を開けた。
中はいかにも校長室という感じの椅子やソファがあり、トロフィーなども置いてあった。目の前にいる五十代くらいの男がこちらを向き、親しげに声をかけてくる。
「君が桜井 零君だね。ようこそ、東京都立C地区南高等学校へ! いやー本当は学科試験とか必要だけど、あの桜井さんから直々に頼まれたら、さすがに断れないよ。それに桜井さんの息子なら大歓迎だ! 私は校長の新島 卓也です。とりあえず今はここで待っていてくれ。始業式が終わるまで退屈だろうけど、少しの間だからよろしく頼むよ」
ペラペラと話した後、右手を差し出してくる。零はゆっくりとその手を取った。
「あ、そうだ。担任の紹介がまだだったね。もうすぐ来ると思うんだけど……」
校長室の扉がノックされた。「ちょうどついたようだ」そう言って卓也が扉を開ける。そこには二十代と思われる女の教師が立っていた。
教師は一度会釈をすると中に入ってきた。そこで卓也が再び話し始める。
「彼女が君のクラス、1年B組の担任、鈴木 加奈子先生だ。彼女はまだ教師になって日が浅いから、何かと抜けているところもあるが、良い先生だから安心してくれ」
紹介された加奈子は「鈴木 加奈子です。今日からよろしく! 何かあったら遠慮しないで言ってね」と、にこやかに話しかけた。「はあ…」と気の抜けた返事をしながら、零は会釈をする。
「それじゃあ、私と鈴木先生は始業式に行かないといけないから、しばらくここで待っていてくれ。終わったら鈴木先生が迎えに来て、君のクラスに案内する」
そう言い残して、二人は姿を消した。
それから約一時間後、零は教室の前にいた。教室内はガヤガヤと賑わっている。そこに加奈子が話を切り出した。
「皆にさっき言った通り、転校生がこのクラスに来てるんだよ。紹介するから、いったん静かにしてね」
加奈子が目線で零の方に合図を送る。零はゆっくりと教室に入った。全員の視線が痛かった。
ざっと見た感じ、三十人くらいだろうか。その目線に不快感を覚えながらも、教卓の横に立った。
「桜井 零です。よろしくお願いします」
担任に言われたとおりに挨拶をした。すると拍手が起こる。何に対しての拍手なのか理解できずに首をかしげていると、担任が言葉を続ける。
「まだこの学校に慣れていないと思うから、みんな仲良くしてあげてね。それと零君は後ろの廊下側の席だよ、座って」
軽く背中を押してくる。流されるままに席に向かうが、相変わらず目線が気になる。席に座ってもなお、こちらを見てくる者もいて、何かまずいことでもしたのかと不安になるくらいだった。
その後、冬休みの課題を回収し、すぐに帰りの時間になった。
挨拶が終わると、鞄を背負おうとした零を生徒が一斉に取り囲む。別のクラスからも人が来ているようだった。
そしていろいろな質問が飛んでくる。クラリスのことはもちろん、目の色やどうしてこの時期に来たのか、なども聞かれた。いろいろな質問が来ることを予測して、陸斗と一緒に考えておいたため、言葉に詰まることもなく平和に質問会が終わった。
それから少し経って、零が帰る時には既に「B組の転入生が……」など、校内で話題となっていた。秋は残って勉強と特訓があるようで、零だけ家に帰ることになったのだが、珍しい見た目に興味を持って、初日から話しかけてくる者も少なくなかった。
始業式から三日が経過し、1月11日になった。
零はクラスに馴染み始め、学習も難なく進めていた中、秋の試験の日が明後日に近づいていた。
秋は、空いている時間を使って、体力をつけたり、クラリスのコントロールをより精密にする特訓をしたり、勉強をして試験に備えている。しかし、どれだけ準備をしていても、日にちが近づくにつれて不安が増えていくばかりだった。
夕方になり、学校での自主的な居残りを終えて家に帰る。この環境への慣れと、試験に向けての学習に力を入れていて、零とは軽い会話を交わすだけになっていた。
零も秋のその雰囲気を感じ取って、ご飯を部屋に持って行ってあげるなどでサポートに徹していた。
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