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迷走の弾丸

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「あ、ふぅん・・・・・・」
 女の口から吐息と共に艶っぽい声が漏れる。
 下では丸太のように太い男の腕が堂々と女の股の辺りに突っ込まれている。
 時折ちらつく白い太腿と着物の裏地の奥から、微かな水音が伝わってくる。
 荒っぽい手つきに、女は時折官能に耐えかねたように発散した表情を晒し、身体を反らせる。
 気が付けばそこは城下町の中でもこういった水商売の多い店が並ぶ通りだ。
 遊郭という呼称がこの時代にふさわしいのは定かではないが、とにかくこういうやり取りが街の外でも平気で繰り返されると聞いたことがある。
 思案にふけっているうちにとんでもない場所に迷い込んだようだ。
「はっ」
 慌てて引き返そうとしたところで、男の背中の向こうから覗いた女が目撃者の存在に気が付いた。
 よく見ると、それは六兵衛が集めた刺客連中の中に混ざっていた女だ。
 もとい刺客にしては派手な格好だと思っていが、まさか正真正銘の娼婦だとは思わなかった。
「何じゃ? ここぞという時に」
 茅に気付いていないのか、あるいは気付いたとしても快楽の方を優先したのか、男は驚きで半開きになった女の唇を吸った。
 女の方も男の頭を抱え込むようにして、二人は舌を絡ませる。
 それがしばらく続いた後、男が急に呻いた。
「き・・・・・・ひさま・・・・・・」
 呂律の回らない口調で何やら毒気づく男。
 次第に全身を痙攣させ、淫らに開かれた女の下半身の前に片膝をつく。
「やあねぇ・・・・・・そんな大胆にあたいの下を覗くのかい?」
 はだけた着物を繕うどころか、女は裾をこれまた大胆に広げて男の顔を太腿に挟み込む。
 まさに痴女の所業としか思えぬその行動は、ほんの刹那の後に別の色彩を帯びる。
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