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迷走の弾丸

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 女は男を太腿で挟み込んだまま器用に身体を翻した。
 それも横にではなく縦に。
 屈強な体格の男とはいえ、女の全体重がかかり、素早い身のこなしの慣性も加われば簡単に投げ出されてしまう。
 絡み合う二人は中空を舞って、着地する頃には男の身体が下に回っていた。
「おふっ!!」
 背中を打ちつけた男は悶絶するが、顔は女の下半身によって動きを封じられており、押し殺された声はせいぜい傍の茅に届くのみ。
 そこへ、女は足を交差させる。左右の足が反対方向に滑る動きに合わせて男の首がねじ向けられた。
 ぎくり、と骨が折れる音がして男の全身から力が抜ける。
 女が突き放した後も男は動かなかった。
「こんな所で会うなんて偶然だね? もしかしてアンタもここで商売しているの?」
「ち、違います!! 私はただ、用事の後に通り掛かっただけで」
「ふぅん。まあ、いいや」
 男は仰向けのまま動かない男の懐を探った。
 よく見ると、それほど身分の低くない侍のようだ。
 それどころか羽織に家紋があり、ともすれば六兵衛にも匹敵する侍ではないのか。
「あの、その人・・・・・・」
「大丈夫よ。もう仕留めたから」
「し、仕留めたって?」
「そうじゃなきゃ、多分今頃あたいが斬られているよ。お侍様がこんな場所で卑しい娼婦と遊んでいたなんて、公言されたくないし、それにあたいとやったくらいでびた一文払いたくないだろうしね」
「そ、それをわかっていてこんなことを?」
 茅が問い詰めるうちに女は中身の詰まった男の財布を掴んでいた。
「そう。これは金稼ぎのためでもあるけど、要するに復讐のためでもあるんだ」
「復讐?」
 その言葉に、茅は今まで正体不明だった女に急に親近感を覚えた。
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