12 / 39
4.はじめて知る
4-①
しおりを挟む
中学最後の年は、それまでの二年間とはあきらかにちがう雰囲気が学校を包んでいた。受験というおおきな壁が、見えるすぐ先までやってきているのを肌身で感じる。先生たちの態度も目に見えて変わった。入試まではまだ一年近くあるのに、春のうちからやたらと高校の話が多くなり、将来のことを考えるようにと耳にたこができるほど聞いた。
俺はあいかわらず走っていた。学校のわきを流れる川に沿って、土手をぐるぐると回る。舗装されていない土手の斜面に、つくしが芽を出しているにおいがする。
春は空気がやわらかい。頬にあたる風が、冬のようには痛みを連れてこないのだ。撫でられる、という表現が似合う肌触りだった。そんなあまさが嫌で、ぐっとスピードをあげる。
いまの俺に、不安も不満もないと思っている。部活からは正式に籍がなくなったし、成績も悪くはない。トップのやつらが必死になって勉強して入るような進学校には入れなくても、それなりの高校にそれなりの努力で入れるだろうと担任に言われていた。
でも、と、足の回転を止めて考える。
胸のなかでくすぶっている、この澱はなんだろう。
中学に入ったときから、進学校に入ることを目標としていた同級生が何人かいた。そのうちのひとりが美奈子だった。こつこつと勉強していたことを、俺も知っている。そんな美奈子が学校にこなくなってから、もう半年になろうとしていた。ふたりとも携帯電話を持っていないから、あの終業式の日以来、一度も連絡をとっていない。
美奈子のいない「穴」のようなものを、となりのクラスから感じることはできなかった。そもそも俺は、美奈子と仲のいい友達すら知らないのだ。彼女が俺以外の人間といるところを見たことがない。ぽっかり空いたまま、席替えのたびに移動する美奈子の机を見て、俺は自分のなかにある「穴」に気づかないふりをしていた。
俺はあいかわらず走っていた。学校のわきを流れる川に沿って、土手をぐるぐると回る。舗装されていない土手の斜面に、つくしが芽を出しているにおいがする。
春は空気がやわらかい。頬にあたる風が、冬のようには痛みを連れてこないのだ。撫でられる、という表現が似合う肌触りだった。そんなあまさが嫌で、ぐっとスピードをあげる。
いまの俺に、不安も不満もないと思っている。部活からは正式に籍がなくなったし、成績も悪くはない。トップのやつらが必死になって勉強して入るような進学校には入れなくても、それなりの高校にそれなりの努力で入れるだろうと担任に言われていた。
でも、と、足の回転を止めて考える。
胸のなかでくすぶっている、この澱はなんだろう。
中学に入ったときから、進学校に入ることを目標としていた同級生が何人かいた。そのうちのひとりが美奈子だった。こつこつと勉強していたことを、俺も知っている。そんな美奈子が学校にこなくなってから、もう半年になろうとしていた。ふたりとも携帯電話を持っていないから、あの終業式の日以来、一度も連絡をとっていない。
美奈子のいない「穴」のようなものを、となりのクラスから感じることはできなかった。そもそも俺は、美奈子と仲のいい友達すら知らないのだ。彼女が俺以外の人間といるところを見たことがない。ぽっかり空いたまま、席替えのたびに移動する美奈子の机を見て、俺は自分のなかにある「穴」に気づかないふりをしていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる