かさなる、かさねる

ユウキ カノ

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4.はじめて知る

4-①

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 中学最後の年は、それまでの二年間とはあきらかにちがう雰囲気が学校を包んでいた。受験というおおきな壁が、見えるすぐ先までやってきているのを肌身で感じる。先生たちの態度も目に見えて変わった。入試まではまだ一年近くあるのに、春のうちからやたらと高校の話が多くなり、将来のことを考えるようにと耳にたこができるほど聞いた。
 俺はあいかわらず走っていた。学校のわきを流れる川に沿って、土手をぐるぐると回る。舗装されていない土手の斜面に、つくしが芽を出しているにおいがする。
 春は空気がやわらかい。頬にあたる風が、冬のようには痛みを連れてこないのだ。撫でられる、という表現が似合う肌触りだった。そんなあまさが嫌で、ぐっとスピードをあげる。
 いまの俺に、不安も不満もないと思っている。部活からは正式に籍がなくなったし、成績も悪くはない。トップのやつらが必死になって勉強して入るような進学校には入れなくても、それなりの高校にそれなりの努力で入れるだろうと担任に言われていた。
 でも、と、足の回転を止めて考える。
 胸のなかでくすぶっている、この澱はなんだろう。
 中学に入ったときから、進学校に入ることを目標としていた同級生が何人かいた。そのうちのひとりが美奈子だった。こつこつと勉強していたことを、俺も知っている。そんな美奈子が学校にこなくなってから、もう半年になろうとしていた。ふたりとも携帯電話を持っていないから、あの終業式の日以来、一度も連絡をとっていない。
 美奈子のいない「穴」のようなものを、となりのクラスから感じることはできなかった。そもそも俺は、美奈子と仲のいい友達すら知らないのだ。彼女が俺以外の人間といるところを見たことがない。ぽっかり空いたまま、席替えのたびに移動する美奈子の机を見て、俺は自分のなかにある「穴」に気づかないふりをしていた。
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