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167:討伐軍3

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「間もなく射程に入る。全員準備体制に入れ!……放て!」

 リサさんの号令のもと外壁上に等間隔に整列し、黒魔弓を構えていた調査隊のエルフ達が放つ【流星雨】が、まだ距離的にはかなりの遠方にいるゴブリンの群れに降り注いだ。

 僕のコンポジット・ボウの射程ではまだ届かないので、その光景を眺めているしか出来なかった。同じく召喚したディーネも射程の面では僕の弓と大差がなかった。

「この大群相手じゃ【流星雨】があっても厳しいのに、私の実力では役に立ってる感じがしないわね」サラは黒魔弓で攻撃に参加していた。

 だが単発の魔法の矢を次々と放ちながらも、周囲の調査隊員達との実力差に少し落ち込んでいるようだった。

 僕も今回の戦いの中で土魔法が思っていたよりも役に立ったし、召喚精霊達に助けられて色々な事が出来るようになってきた。それでもまだまだ実力不足だと感じる場面は多かったので、サラが気落ちする気持ちは理解できた。

 だが、そんな僕達の葛藤など当然ながらゴブリンの進行の前には些事でしかなかった。

 最初に隘路で迎え撃った時には、上手く浸入してくる数を制限できていたのでそこまでは感じなかったが、この何もない広い荒野を埋め尽くすゴブリンを見たときに、人間が本来持っている根源的な恐怖という物を初めて感じたかもしれなかった。

「こんなに大量のゴブリンが……」

 その全てのゴブリンから向けられる敵意と狂気に、僕は一瞬目眩がしてしまった。周囲のエルフ達も次第に攻撃の手が緩んでいっている。

 恐らくここにいる精鋭のエルフ達にとっては、ゴブリンに一人で数十匹に囲まれても、油断は出来ないにしても恐怖ですくむような者は一人として居ないと思われた。

 そのエルフ達の戦意を挫きそうになるほどの圧倒的な数を前に、普段ならば部下を鼓舞する立場のリサさんでさえ攻撃の手が止まってしまっていた。

 だが、そんな重苦しい雰囲気を我関せずと行動する者が、ここには存在した――

「【ストーン・レイン】」

 ルピナスに乗ったニースがゴブリンのいる地上に向かって遥か上空から石の雨を降らせている。

 遠隔魔法ではない【ストーン・レイン】だったが、ルピナスに乗ったニースにとっては何の問題にもならなかったようだ。

 一度の詠唱で二十個程の小石が降り注ぎ、一発の威力はそれほど強力とは言えなかったが、ゴブリンに致命傷を負わせる程度の威力はあるのだ。

 僕は、ゴブリンの上空を縦横無尽に飛び回り、断続的に【ストーン・レイン】を振り撒くニースを見て、どこか緊張が弛緩するような気分になった。

 それなりに凶悪な魔法なのだが、ニースが放つとどこかユーモラスに感じてしまう攻撃だった。

「全員攻撃の手が止まっているぞ! このままではニースに全ての敵を倒されてしまう。エルフィーデの意地をみせよ!」

 我にかえってリサさんはそう言うと、【流星雨】を放ち出した。他の者とメンバーもリサさんの叱咤激励に呼応して互いに声を掛け合いながら攻撃を再開した。

「ニースやるじゃない! あんな魔法も使えるようになったのね……私も負けてられないわね」

 サラが感嘆の声を上げると、攻撃を再開した。そこにはさっきまでの落ち込んだ雰囲気はなかった。

「ニースはたぶん無邪気にお手伝いをしているだけなんだろうな……でもその無邪気さに今回は助けられたかも」

 僕は接近してきた事で攻撃が届くようになったディーネと共に、弓での攻撃に参加した。

「攻撃が止んだようなので気になって様子を見に来たけど、どうやら杞憂だったみたいね」

 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはダスティン辺境伯と共にいたはずのミリアさんの姿があった。

「ミリア様、申し訳ありません! 敵のあまりの数に圧倒されてしまいました。指揮官失格です……」

 リサさんがミリアさんに謝罪した。だがミリアさんはそれを手で制し「謝罪は不要よリサ。私もさっきこの数を見て恐ろしく感じたところです。よく立ち直ってくれました。礼を言います」

 そう言うとリサさんの横に並び立ちゴブリンの群れを見つめた。

「この戦いは長期戦となるかもしれない……気負いすぎては身が持たないでしょう。何とかして敵の力の底を見極めなくてはね」

 そう言うとミリアさんは、マジックポーチから一本の弓を取り出した。その弓は美しい意匠の施された銀色の美しい一本の弓だった。

「ミスリルボウ」

 僕の側に居るサラがそう呟いた。僕はその美しい弓を何気なく番えたミリアさんの姿に、ただ見惚れるしか出来なかった。
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