自由都市のダンジョン探索者 ～精霊集めてダンジョン攻略～【第一部:初級探索者編完結】

164:防衛拠点拡張2

　新しく作った防壁と元からあった防壁を、張り出しを伸ばして繋げる事で新しい外壁上にも登れるようにした。

　最初はただ押し寄せるだろうゴブリンの大群の侵入を制限するためにニースに設置して貰ったのだが――

　時間稼ぎの必要があるとなれば、防壁上からも弓での攻撃が出来る方が良いだろうと元の壁に一旦登ってから、繋がった張り出しを連絡通路にして往き来出来るようにしたのだった。

　僕とゼダさん達は見張りも兼ねて新しく作った防壁の上で、キャロ達が作った干し肉を食べていた。

「マリア嬢ちゃんと一緒に、キャロちゃん達を一旦地上に戻せたのは良かったな。いくら強くなったとはいえまだまだ子供には違いない。次の大群との戦いは大人の仕事だな」

　ゼダさんが言う事は僕も同じ気持ちだった。これまでのゴブリンジェネラルとの戦いはある程度の勝算があったのだが、次の相手は何だか得体の知れない物を感じていたからだった。

「坊主もまだまだ子供だがな。だがまあ、この戦いは坊主の魔法が無ければ成り立たねえからな。爺としては情けねえぜまったく！」

　ドルフさんはまるで鬱憤でも晴らすかのよう干し肉を噛み切った。

「そろそろ夜だな、地上とは環境は違うのに外と同じ頃に夜がくる……まったく不思議な場所だなダンジョンというのは。長年ダンジョンに通ったが俺達だが、ダンジョンってのがいったい何なのか本当の所は何も分かっていないな」

　遠くを見つめながらゼダさんが、急にそんな事を言い出した。

「ああ、まったくだぜ！　だが今一つだけハッキリしてる事は……坊主オメエはやることやったんだから寝られる時に寝てろ！　見張りは俺達に任せろ！」

　ザザさんに促されて僕は防壁の上でとにかく眠る事になったのだった。

◻　◼　◻

　僕が目を覚ました理由は、人々の喧騒のようなものや、何か武器や鎧のような物が擦れ合うような物々しい音、そして沢山の人間の足音のせいだったかもしれない。

　周囲は既に早朝独特の薄靄がかかった様子で、僕は全く目が覚める事もなく一晩中、眠り込んでしまったようだった。

（いくら疲れていたと言っても、ダンジョンのこれから戦場になろうという場所で、これは恥ずかしいな）

　そんな僕の思いなど霧散するような、厳しい雰囲気の声が地上から響いてきて僕は思わず飛び上がりそうになった。

「部隊整列！　各部隊長は点呼の後、報告せよ！　弓歩兵部隊は配備先が決定するまで後方で待機せよ！」

　目覚めた僕の眼下に広がっていたのは綺麗に整列した重装備の騎士団とその後方で少し所在無げに集まっている弓歩兵部隊と呼ばれたガザフ領軍の姿だった。

（百人くらいかと考えていたけど、これって……）

　僕は動員された人数に驚いていた騎士団だけでも二百人近くはいるように見えたからだ。だが、僕の驚きとは違う内容での驚きの声が側から聞こえてきた。

「おいおい、あの両手剣背負っている奴って、やっぱりあれだよな？」

　ドルフさんが少し興奮気味に話しているが、僕には何の事だかサッパリ分からなかった。

「ああ、進軍してきた時から随分と予想より人数が多いと思っていたがな」

　ゼダさんは僕と同じ事で驚いているのかと思ったが、どうやら気にしているのは別の事のようだった。

「ガハハハッ！　懐かしいじゃねえか！　だが面白くなってきやがったぜ！」ザザさんが手を叩きながら喜んでいる。

　三人がそれぞれ恐らく同じ事について会話しているのは理解できたが、目を凝らして騎士団を見渡して見ていた僕が気がついたのは、ミリアさんがいる事と、その側に緊張した面持ちで待機しているサラの姿、そしてリサさんが調査隊の面々を引き連れて向かってくる姿だった。

そして――

「親征って聞いていたけど……あれがダスティン・ガザフ辺境伯だろうな」

　初めて見る僕にもすぐにその人だと確信が持てる、とても威厳のある老人騎士の姿がそこにあったのだった。