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6. 聞く気はなかったの、不可抗力ですわ
しおりを挟む学院での連日の演技疲れを癒そうと、シアーラがまたお忍びスタイルでのお出掛けに誘ってくれました。
今日は最近話題の個室もある大衆レストランで、人気のパフェをいただいていたのです。
「アンタ上手くやったね。伯爵様の養子になって今では御令嬢かい。」
嗄れた声は酒焼けかしら?派手だけど、あまり高級ではないドレスを身につけた中年女性と、見知った令嬢に似た方が店に入ってきたから急いで個室のカーテンを閉めたけれど、たまたま隣の個室に入るなんて……。
「まあね。プライヤー伯爵は良いパトロンだったから。養子にしたら一緒に住んでても怪しまれないと思ったんでしょう。本当ただのエロジジイよ。まあ……もうそんなに長くは生きないわ。」
声とプライヤー伯爵という名前からも、やはりドロシー嬢でした。
「はははっ!アンタは本当に悪女だよ!怖い女だねぇ。」
「それで、いくら必要なの?」
「アンタかいなくなってから店は人気の娘がいないからね、一月分ほどの売り上げを貰ったらしばらくは大丈夫だと思うんだけどねぇ。」
「随分と足元見るのね。本当マダムもチャッカリしてるわ。」
パトロン、店、人気の娘、マダム……。
「そりゃあね、うちの娼館で一番人気だったアンタが伯爵様の愛人として辞めてったんだから、こっちは大赤字なんだよ。それぐらいは支援してもらわないと。」
「まあいいわ。お金なら伯爵家にたんまりとあるし。マダムには世話になったからね。そのかわり、分かってるわよね?」
「はいはい、娼館のマダムは口が固くないとやっていけないよ。プライヤー伯爵令嬢として、しっかり生きていきな。」
一応個室ではあるけれど、この店は大衆向けのレストランだから隣の声はよく聞こえるのです。
隣の個室の二人が店を去って行くのを会話と気配で感じて、私とシアーラはフゥッと張り詰めていた息を吐きました。
「大変なことを聞いてしまったわね。」
「まさかドロシー嬢が元娼婦だったなんて。しかもプライヤー伯爵家の養子になったのは隠れて伯爵と愛人関係を続ける為だったの?」
どこか妖艶で可愛らしく甘え上手なところも、ジョシュア様をはじめ男子生徒を夢中にさせる手腕も、元の職業柄と考えれば納得がいきます。
「とにかく、今日のことは私とシアーラの秘密よ。」
「当たり前よ。でも、あのドロシー嬢がねえ……。ジョシュア様にあれだけ擦り寄っておいて、まさかパトロンの家の養子になっているとは誰も思わないわ。」
「それに、そうだとしたら彼女は一体いくつなのかしら?絶対に私たちと同じ年齢だということはないはずよ。」
思い起こせば時々気になっていたドロシー嬢の目尻のシワも、肌の張りの足りなさも全て辻褄が合うのです。
「ドロシー嬢が時々老けて見えたのは、エレノアを虐げる二人を見ては鬱憤の溜まる私の贔屓目かと思っていたけれど。本当に性根の醜い女だと常々考えていたから醜く見えたのかと思っていたわ。」
首を少し傾けて真剣に考えるような素振りをしながら、シアーラがそう言ったのでなんだか可笑しくなってしまいました。
「シアーラ、そんなこと思っていたの?」
「当たり前じゃない。エレノアを馬鹿にして優越感に浸る彼女の醜さは見るに耐えないわ。」
きっとシアーラも私のことを心配して、もどかしい思いをしてきたのでしょう。
「シアーラ、もう今日は帰りましょう。なんだか疲れてしまったわ。今日のことは私と貴女の秘密にしてね。」
「そうね。貴女も毎度あの婚約者様とドロシー嬢には悩まされるわね。何かあったらまた相談して。」
「ありがとう、シアーラ。」
念のため個室から出る時には周りを見渡して、ドロシー嬢たちがいないことを確認してから店を出ました。
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