ボンクラ婚約者の愛人でぶりっ子な悪役令嬢が雇った殺し屋に、何故か溺愛されていました

蓮恭

文字の大きさ
6 / 45

6. 聞く気はなかったの、不可抗力ですわ

しおりを挟む

 学院での連日の演技疲れを癒そうと、シアーラがまたお忍びスタイルでのお出掛けに誘ってくれました。

 今日は最近話題の個室もある大衆レストランで、人気のパフェをいただいていたのです。



「アンタ上手くやったね。伯爵様の養子になって今では御令嬢かい。」

 嗄れた声は酒焼けかしら?派手だけど、あまり高級ではないドレスを身につけた中年女性と、見知った令嬢に似た方が店に入ってきたから急いで個室のカーテンを閉めたけれど、たまたま隣の個室に入るなんて……。

「まあね。プライヤー伯爵は良いパトロンだったから。養子にしたら一緒に住んでても怪しまれないと思ったんでしょう。本当ただのエロジジイよ。まあ……もうそんなに長くは生きないわ。」

 声とプライヤー伯爵という名前からも、やはりドロシー嬢でした。

「はははっ!アンタは本当に悪女だよ!怖い女だねぇ。」
「それで、いくら必要なの?」
「アンタかいなくなってから店は人気の娘がいないからね、一月分ほどの売り上げを貰ったらしばらくは大丈夫だと思うんだけどねぇ。」
「随分と足元見るのね。本当マダムもチャッカリしてるわ。」

 パトロン、店、人気の娘、マダム……。

「そりゃあね、うちの娼館で一番人気だったアンタが伯爵様の愛人として辞めてったんだから、こっちは大赤字なんだよ。それぐらいは支援してもらわないと。」
「まあいいわ。お金なら伯爵家にたんまりとあるし。マダムには世話になったからね。そのかわり、分かってるわよね?」
「はいはい、娼館のマダムは口が固くないとやっていけないよ。プライヤー伯爵令嬢として、しっかり生きていきな。」

 一応個室ではあるけれど、この店は大衆向けのレストランだから隣の声はよく聞こえるのです。
 隣の個室の二人が店を去って行くのを会話と気配で感じて、私とシアーラはフゥッと張り詰めていた息を吐きました。

「大変なことを聞いてしまったわね。」
「まさかドロシー嬢が元娼婦だったなんて。しかもプライヤー伯爵家の養子になったのは隠れて伯爵と愛人関係を続ける為だったの?」

 どこか妖艶で可愛らしく甘え上手なところも、ジョシュア様をはじめ男子生徒を夢中にさせる手腕も、元の職業柄と考えれば納得がいきます。

「とにかく、今日のことは私とシアーラの秘密よ。」
「当たり前よ。でも、あのドロシー嬢がねえ……。ジョシュア様にあれだけ擦り寄っておいて、まさかパトロンの家の養子になっているとは誰も思わないわ。」
「それに、そうだとしたら彼女は一体いくつなのかしら?絶対に私たちと同じ年齢だということはないはずよ。」

 思い起こせば時々気になっていたドロシー嬢の目尻のシワも、肌の張りの足りなさも全て辻褄が合うのです。

「ドロシー嬢が時々老けて見えたのは、エレノアを虐げる二人を見ては鬱憤の溜まる私の贔屓目かと思っていたけれど。本当に性根の醜い女だと常々考えていたから醜く見えたのかと思っていたわ。」

 首を少し傾けて真剣に考えるような素振りをしながら、シアーラがそう言ったのでなんだか可笑しくなってしまいました。

「シアーラ、そんなこと思っていたの?」
「当たり前じゃない。エレノアを馬鹿にして優越感に浸る彼女の醜さは見るに耐えないわ。」

 きっとシアーラも私のことを心配して、もどかしい思いをしてきたのでしょう。

「シアーラ、もう今日は帰りましょう。なんだか疲れてしまったわ。今日のことは私と貴女の秘密にしてね。」
「そうね。貴女も毎度あの婚約者様とドロシー嬢には悩まされるわね。何かあったらまた相談して。」
「ありがとう、シアーラ。」

 念のため個室から出る時には周りを見渡して、ドロシー嬢たちがいないことを確認してから店を出ました。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

処理中です...