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番外編
閑話 アリスノート 23
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兄上は、にこにこしながら、楽しそうに話し出した。
「忘れもしない、7月7日生まれのルイスが6歳と3か月を過ぎたばかりだった10月11日。ルイスの一言がぼくの悩みを消してくれた記念すべき日は、ルイスの瞳のように青く、…いや、正確に言うと、ルイスの瞳の美しさよりはずーっと劣るけれど、きれいに晴れ渡った秋晴れの日でした」
「なんか、変すぎる物語がはじまったようだが…」
と、ウルスが不審げにつぶやく。
確かに…。
「ちょっと、うるさいよ、ウルス」
兄上が、ウルスをにらんで注意する。
そして、俺にむいて、にっこり微笑んで、続きを話し始めた。
「その日、退屈すぎる…じゃなくて、厳しすぎる帝王学の授業で、すっかりくたびれた、ぼく。癒しが必要なのに、ウルスが、次の授業が始まると急かすから、ウルスをまいて、ぼくは、庭に飛び出した。ほら、ウルスって足がすごーく遅いでしょ? だから、簡単にまけるんだよ。フフフフフ」
兄上、やめろ…。
ウルスの額に青筋がたっているだろうが…。
が、そんなウルスを兄上は全く気にすることなく、上機嫌で話しを続ける。
「でね、華麗にウルスをまいたぼくは、ルイスが剣の稽古をしている場所に全力で走ったの。この時間、庭でルイスが剣の稽古をしていることは、しっかり把握していたからね。ちなみに、あの頃から、ずーっと、ぼくは、ルイスのスケジュールに目を通してるよ!」
そう言って、何故か、胸をはる兄上。
ウルスが、イライラした口調で言った。
「おい! ルイスのスケジュールより、自分のスケジュールを確認しろよ! いつも俺まかせにして、ろくに見てないじゃないか。それに、俺は、断じて足は遅くない! ごくごく普通だ! ルイスが絡むと、やたらと足が速くなる、フィリップがおかしいだけだ!」
「え、何言ってんの、ウルス? ルイスのためなら足が速くなるのは、あったりまえだよね? ね、ルイスもそう思うでしょ?」
「いや、全く」
俺が即答すると、兄上は、ムフフと変な笑いをこぼしながら言った。
「あ、そうだ、ルイス。今朝、宰相のヴァルド公爵に聞いたんだけど、用があって娘のアリス嬢を王宮に連れてくるそうだよ。今頃、宰相の執務室にいるんじゃない?」
「なんだとっ!」
俺は椅子をけって、たちあがり、ドアのところまですっとんでいって、部屋をでていこうとした。
「ルイス! ごめん、ごめん、うっそでーす!」
背後から兄上の能天気な声。
「あ?!」
ふりむくと、兄上が両手をすりあわせて、謝っている。
「でも、ほら、ルイスもぼくと同じってわかったよね。だって、アリス嬢のことを聞いたとたん、すごいスピードで、ドアのところまで行ったでしょ? だから、足が速くなるのは当たり前ってこと」
「確かに、すごい速さだった。ほんと、兄弟、へんなところが、そっくりだな…」
と、ウルスが何故か嫌そうな顔でつぶやく。
まあ、アリスと聞くと、足が速くなるのはみとめよう。
だが、それよりも、兄上の嘘のせいで、いらぬ期待をして、一瞬でもアリスに会えると思ったばっかりに、今、すごい喪失感が押し寄せている。
俺はもといた場所に戻ると、兄上に言った。
「アリスに会えないと思うと、どっと疲れた…。もう、話はどうでもいい。それを持って帰ってくれ」
俺の着ていた服を飾ったケースを指差した。
突然、兄上の顔がゆがんだ。
「えええ?! そんなに、疲れさせちゃった?! ごめんね、ルイス! たとえて言うより、わかりやすいかと思って、軽く嘘ついちゃって、ごめんね! 兄様が配慮にかけてた、ごめんね! ほんと、許して! ごめん、ルイス、ごめん、ごめん、ごめーん!!」
兄上のほうが泣きそうになっている。
「俺をどれだけ疲れさせようと、ごめんとは滅多に言わないくせに、ルイスには、何回、言うんだ…」
と、あきれた声でウルスがつぶやいた。
「ごめん、ルイス! 兄様が、宰相に頼み込んで、アリス嬢を連れてきてもらうから。兄様、…いや王太子としての威信をかけて、絶対に、嘘を本当にするから。今回は許して?! ね、ね、ね?」
「しょーもないことに、王太子の威信をかけるなよな…」
と、ウルスがぼやく。
結局、謝り続ける兄上に根負けして、続きを聞くことにした。
※ いつも読んでくださっている方、ありがとうございます!
前回の感想蘭のお返事で、ルイスが王太子の瞳の件を覚えていない理由、次回はっきりすると書きましたが、私が予定していた以上に、王太子が饒舌で、脇道にそれまくりまして、今回はそこにいきつきませんでした。すみません…(-_-;)
もう少々、お待ちくださいませ…m(__)m
そして、お気に入り登録、エール、本当にありがとうございます! 励みになります!
「忘れもしない、7月7日生まれのルイスが6歳と3か月を過ぎたばかりだった10月11日。ルイスの一言がぼくの悩みを消してくれた記念すべき日は、ルイスの瞳のように青く、…いや、正確に言うと、ルイスの瞳の美しさよりはずーっと劣るけれど、きれいに晴れ渡った秋晴れの日でした」
「なんか、変すぎる物語がはじまったようだが…」
と、ウルスが不審げにつぶやく。
確かに…。
「ちょっと、うるさいよ、ウルス」
兄上が、ウルスをにらんで注意する。
そして、俺にむいて、にっこり微笑んで、続きを話し始めた。
「その日、退屈すぎる…じゃなくて、厳しすぎる帝王学の授業で、すっかりくたびれた、ぼく。癒しが必要なのに、ウルスが、次の授業が始まると急かすから、ウルスをまいて、ぼくは、庭に飛び出した。ほら、ウルスって足がすごーく遅いでしょ? だから、簡単にまけるんだよ。フフフフフ」
兄上、やめろ…。
ウルスの額に青筋がたっているだろうが…。
が、そんなウルスを兄上は全く気にすることなく、上機嫌で話しを続ける。
「でね、華麗にウルスをまいたぼくは、ルイスが剣の稽古をしている場所に全力で走ったの。この時間、庭でルイスが剣の稽古をしていることは、しっかり把握していたからね。ちなみに、あの頃から、ずーっと、ぼくは、ルイスのスケジュールに目を通してるよ!」
そう言って、何故か、胸をはる兄上。
ウルスが、イライラした口調で言った。
「おい! ルイスのスケジュールより、自分のスケジュールを確認しろよ! いつも俺まかせにして、ろくに見てないじゃないか。それに、俺は、断じて足は遅くない! ごくごく普通だ! ルイスが絡むと、やたらと足が速くなる、フィリップがおかしいだけだ!」
「え、何言ってんの、ウルス? ルイスのためなら足が速くなるのは、あったりまえだよね? ね、ルイスもそう思うでしょ?」
「いや、全く」
俺が即答すると、兄上は、ムフフと変な笑いをこぼしながら言った。
「あ、そうだ、ルイス。今朝、宰相のヴァルド公爵に聞いたんだけど、用があって娘のアリス嬢を王宮に連れてくるそうだよ。今頃、宰相の執務室にいるんじゃない?」
「なんだとっ!」
俺は椅子をけって、たちあがり、ドアのところまですっとんでいって、部屋をでていこうとした。
「ルイス! ごめん、ごめん、うっそでーす!」
背後から兄上の能天気な声。
「あ?!」
ふりむくと、兄上が両手をすりあわせて、謝っている。
「でも、ほら、ルイスもぼくと同じってわかったよね。だって、アリス嬢のことを聞いたとたん、すごいスピードで、ドアのところまで行ったでしょ? だから、足が速くなるのは当たり前ってこと」
「確かに、すごい速さだった。ほんと、兄弟、へんなところが、そっくりだな…」
と、ウルスが何故か嫌そうな顔でつぶやく。
まあ、アリスと聞くと、足が速くなるのはみとめよう。
だが、それよりも、兄上の嘘のせいで、いらぬ期待をして、一瞬でもアリスに会えると思ったばっかりに、今、すごい喪失感が押し寄せている。
俺はもといた場所に戻ると、兄上に言った。
「アリスに会えないと思うと、どっと疲れた…。もう、話はどうでもいい。それを持って帰ってくれ」
俺の着ていた服を飾ったケースを指差した。
突然、兄上の顔がゆがんだ。
「えええ?! そんなに、疲れさせちゃった?! ごめんね、ルイス! たとえて言うより、わかりやすいかと思って、軽く嘘ついちゃって、ごめんね! 兄様が配慮にかけてた、ごめんね! ほんと、許して! ごめん、ルイス、ごめん、ごめん、ごめーん!!」
兄上のほうが泣きそうになっている。
「俺をどれだけ疲れさせようと、ごめんとは滅多に言わないくせに、ルイスには、何回、言うんだ…」
と、あきれた声でウルスがつぶやいた。
「ごめん、ルイス! 兄様が、宰相に頼み込んで、アリス嬢を連れてきてもらうから。兄様、…いや王太子としての威信をかけて、絶対に、嘘を本当にするから。今回は許して?! ね、ね、ね?」
「しょーもないことに、王太子の威信をかけるなよな…」
と、ウルスがぼやく。
結局、謝り続ける兄上に根負けして、続きを聞くことにした。
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前回の感想蘭のお返事で、ルイスが王太子の瞳の件を覚えていない理由、次回はっきりすると書きましたが、私が予定していた以上に、王太子が饒舌で、脇道にそれまくりまして、今回はそこにいきつきませんでした。すみません…(-_-;)
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