90 / 125
番外編
閑話 アリスノート 24
しおりを挟む
ということで、再び、話しはじめた兄上。
「それで、庭に走っていったぼくは、すぐに、ルイスを見つけた。だって、そこだけ、きらきらと輝いてたからね。あっ、いつもそうなんだ。ルイスのまわりは輝いてるから、ぼくは、すぐに見つけられるんだよ!」
俺の眉間にしわがよる。
「そういうのはいい。要点だけしゃべってくれ。話がすすまない」
「えええ! これも要点だよ?! すごい大切な箇所だよ!」
俺の眉間のしわが更に深くなる。
「なら、話しは終わりだ。別に聞かなくてもいい」
ウルスが同意するように、力強くうなずいた。
「それがいい。そして、フィリップ。すぐに仕事に戻るぞ」
兄上が、ウルスをきっとにらむ。
「まだ、休憩は終わってない!」
そう言い返した後、俺のほうに向きなおった。
「ルイスについて、要点じゃないことなんてないんだけど、でも、ルイスが嫌ならそうする…。できるだけ、少しにする…」
ウルスをにらんだ顔とはまるで違って、叱られた子犬のように、しょんぼりしている。
なんだか、罪悪感がわいてきた。
言い過ぎたか…?
ぼくの顔をじっと見ていたウルスが、俺の心を読んだように言った。
「ルイス、フィリップの演技力にだまされるな。表情や声色を変えるなんて、お手のもんだろ? それに、これくらいで傷つく繊細さな心を、フィリップは持ってない」
なるほど。それもそうだな…。
納得した俺は、兄上に言った。
「俺が兄上の瞳を好きだと言った時のことだけ、簡潔に言ってくれ」
「えー! そこだけ?! 劇で言うと、そこはまさにクライマックスなのに! クライマックスだけ見て帰るみたいになっちゃうよ?! もったいないよ?!」
「全然もったいなくない。そもそも、劇じゃない。ただ、俺はそんなことを言った記憶がないから、確認したいだけだ。そこだけでいい。長々しゃべるなら、聞かなくていい」
俺の断固とした言葉に、兄上が肩を落とす。垂れた耳が見えるようだ。
が、もう、まどわされないからな…。
強い視線で見返す俺。
「わかった。なら、そのクライマックスを、心をこめて伝えるね!」
と、一瞬にして、楽しそうな顔になって、俺に微笑みかけてきた兄上。
「何度見ても、すごい、変わりっぷりだな…」
と、あきれたようにつぶやくウルス。
確かに…。
「では、泣く泣く色々とばして…、クライマックスに入ります! 場面としては、剣の稽古が終わってベンチで休んでいるルイスの隣に、ぼくも座ったところからね。…飲み物を飲むルイスを見守りながら、心地よく座っていたぼくは、ふと空を見上げた。ルイスの瞳よりは全然落ちるけれど、きれいに晴れた青空。それを見た時、つい、ぼくは言ってしまったんだよね。ぼくも、ルイスみたいなブルーの瞳になりたかったって。すると、ルイスはつぶらな瞳をぼくに向けて、ぼくの瞳をじーっと見た…」
兄上は、そこまで言うと、どこか遠いところを見るような目で、だまった。
「…兄上。劇じゃないから間もいらない。それで、俺はなんと言ったんだ?」
「えー! 間もダメなの?! ルイスが厳しい」
拗ねたように言う兄上。
「早く言わないなら、もう帰ってくれ」
「言います! 言います! じゃあ、続きを言うね…。すいこまれそうなほど美しいブルーの瞳で、僕の瞳の色をじっと見ていたルイス。そして、言ったんだ…『兄様の目、木の実みたい』って」
「まあ、はしばみ色って言うくらいだもんな。はしばみの実の色に似てるだろう。それより、ルイスのセリフを言うときのフィリップの裏声のほうに驚いたわ…。怖いな」
と、ウルス。
「それから?」
俺は先を促す。
兄上は、フフフッと嬉しそうに笑って、話しを続けた。
「それから、ルイスはぼくの瞳を見つめたまま、『木の実はね、栄養があるよ』って言ったの! ぼくはね、それでルイスに聞いたんだ。『ルイスは、木の実が好き?』って。そしたら、ルイスは、愛らしく、コクンとうなずいたんだよ!」
「それから?」
俺は、再度、先を促す。
「うん、終わり! 以上が、ルイスが、ぼくの瞳を褒めてくれて、大好きって言ってくれた、記念すべき日のクライマックスでした!」
…はあ?!
「待て待て待て、どこにも、そんなセリフなかっただろう?! フィリップの目の色をほめたり、好きだとか言ってないよな? 木の実の話しかしてないだろう!」
と、俺の気持ちを代弁するように、ウルスが叫んだ。
すると、兄上が、あきれはてたように、ウルスに言い返した。
「ウルスって、本当に感受性がないよね? ルイスの言葉の真意がつかめないの?」
いや、本人である俺も全くつかめないが…。
※ 不定期な更新のなか、読んでくださっている方、ありがとうございます!
お気に入り登録、エール、本当に励みになります! ありがとうございます!
暴走気味のフィリップがでてくると、話しがそれまくり、「閑話アリスノート」が、予定より長くなってしまっています。区切りまで、もう少々続きます(フィリップ次第ですが)ので、気長に読んでいただければ、ありがたいです…。よろしくお願いいたします!
「それで、庭に走っていったぼくは、すぐに、ルイスを見つけた。だって、そこだけ、きらきらと輝いてたからね。あっ、いつもそうなんだ。ルイスのまわりは輝いてるから、ぼくは、すぐに見つけられるんだよ!」
俺の眉間にしわがよる。
「そういうのはいい。要点だけしゃべってくれ。話がすすまない」
「えええ! これも要点だよ?! すごい大切な箇所だよ!」
俺の眉間のしわが更に深くなる。
「なら、話しは終わりだ。別に聞かなくてもいい」
ウルスが同意するように、力強くうなずいた。
「それがいい。そして、フィリップ。すぐに仕事に戻るぞ」
兄上が、ウルスをきっとにらむ。
「まだ、休憩は終わってない!」
そう言い返した後、俺のほうに向きなおった。
「ルイスについて、要点じゃないことなんてないんだけど、でも、ルイスが嫌ならそうする…。できるだけ、少しにする…」
ウルスをにらんだ顔とはまるで違って、叱られた子犬のように、しょんぼりしている。
なんだか、罪悪感がわいてきた。
言い過ぎたか…?
ぼくの顔をじっと見ていたウルスが、俺の心を読んだように言った。
「ルイス、フィリップの演技力にだまされるな。表情や声色を変えるなんて、お手のもんだろ? それに、これくらいで傷つく繊細さな心を、フィリップは持ってない」
なるほど。それもそうだな…。
納得した俺は、兄上に言った。
「俺が兄上の瞳を好きだと言った時のことだけ、簡潔に言ってくれ」
「えー! そこだけ?! 劇で言うと、そこはまさにクライマックスなのに! クライマックスだけ見て帰るみたいになっちゃうよ?! もったいないよ?!」
「全然もったいなくない。そもそも、劇じゃない。ただ、俺はそんなことを言った記憶がないから、確認したいだけだ。そこだけでいい。長々しゃべるなら、聞かなくていい」
俺の断固とした言葉に、兄上が肩を落とす。垂れた耳が見えるようだ。
が、もう、まどわされないからな…。
強い視線で見返す俺。
「わかった。なら、そのクライマックスを、心をこめて伝えるね!」
と、一瞬にして、楽しそうな顔になって、俺に微笑みかけてきた兄上。
「何度見ても、すごい、変わりっぷりだな…」
と、あきれたようにつぶやくウルス。
確かに…。
「では、泣く泣く色々とばして…、クライマックスに入ります! 場面としては、剣の稽古が終わってベンチで休んでいるルイスの隣に、ぼくも座ったところからね。…飲み物を飲むルイスを見守りながら、心地よく座っていたぼくは、ふと空を見上げた。ルイスの瞳よりは全然落ちるけれど、きれいに晴れた青空。それを見た時、つい、ぼくは言ってしまったんだよね。ぼくも、ルイスみたいなブルーの瞳になりたかったって。すると、ルイスはつぶらな瞳をぼくに向けて、ぼくの瞳をじーっと見た…」
兄上は、そこまで言うと、どこか遠いところを見るような目で、だまった。
「…兄上。劇じゃないから間もいらない。それで、俺はなんと言ったんだ?」
「えー! 間もダメなの?! ルイスが厳しい」
拗ねたように言う兄上。
「早く言わないなら、もう帰ってくれ」
「言います! 言います! じゃあ、続きを言うね…。すいこまれそうなほど美しいブルーの瞳で、僕の瞳の色をじっと見ていたルイス。そして、言ったんだ…『兄様の目、木の実みたい』って」
「まあ、はしばみ色って言うくらいだもんな。はしばみの実の色に似てるだろう。それより、ルイスのセリフを言うときのフィリップの裏声のほうに驚いたわ…。怖いな」
と、ウルス。
「それから?」
俺は先を促す。
兄上は、フフフッと嬉しそうに笑って、話しを続けた。
「それから、ルイスはぼくの瞳を見つめたまま、『木の実はね、栄養があるよ』って言ったの! ぼくはね、それでルイスに聞いたんだ。『ルイスは、木の実が好き?』って。そしたら、ルイスは、愛らしく、コクンとうなずいたんだよ!」
「それから?」
俺は、再度、先を促す。
「うん、終わり! 以上が、ルイスが、ぼくの瞳を褒めてくれて、大好きって言ってくれた、記念すべき日のクライマックスでした!」
…はあ?!
「待て待て待て、どこにも、そんなセリフなかっただろう?! フィリップの目の色をほめたり、好きだとか言ってないよな? 木の実の話しかしてないだろう!」
と、俺の気持ちを代弁するように、ウルスが叫んだ。
すると、兄上が、あきれはてたように、ウルスに言い返した。
「ウルスって、本当に感受性がないよね? ルイスの言葉の真意がつかめないの?」
いや、本人である俺も全くつかめないが…。
※ 不定期な更新のなか、読んでくださっている方、ありがとうございます!
お気に入り登録、エール、本当に励みになります! ありがとうございます!
暴走気味のフィリップがでてくると、話しがそれまくり、「閑話アリスノート」が、予定より長くなってしまっています。区切りまで、もう少々続きます(フィリップ次第ですが)ので、気長に読んでいただければ、ありがたいです…。よろしくお願いいたします!
31
お気に入りに追加
1,780
あなたにおすすめの小説

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます
ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

本日より他人として生きさせていただきます
ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ
ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる